ザ・グレート・展開予測ショー

水使い(〜無貌〜)


投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 7/22)




 ー水使いー




 それは無貌の闇色蛇。

 外皮は漆黒の炎。眼などは存在せず、また特有の細長い舌を伸ばす事も出来はしない。

 ず・・・ず・・・

 地を這っての移動。

 その点においては、実在する『蛇』と同様らしく、獲物を捕食せんとゆっくりこちらへ向かってくる。

 より、一層、濃密となる魔気。

 それは獲物を完全に見定めたからなのか・・・魔気により、もはやおぼろげにしか捉えられなくなってきた別荘の、その背後の林がボロボロ腐り堕ちてゆくのが目に映る。

 帆邑(ほむら)。

 闇の蛇と相対する三人の男の内の一人。水使いだ。

 その帆邑は、蛇が近寄ってくる最中に、うつむき何事かを思案していたのだが、ふいに顔をあげる。

 そうした次の瞬間。

「ぐべ!?」

 強く踏み込み、腰をひねり、体重をそのまま乗せた見事な左の
ストレート。

 それを叩きこんだのは、帆邑の依頼主の男。 つまり帆邑達が護衛する筈の対象の男は、あろうことかその帆邑の拳撃によってガクリと膝を折り、地に伏した。

「ーーッ!? おい!?」

 捜査官の男も流石に予想し得なかったのか、慌てて声を出す。

 同時に高級車の後部座席にて成り行きをただ見ていた数人のガードマン達が、紅潮した面で飛びだしてきた。

 帆邑の左手が動く。

 その直後に、屈強な肉体のガードマン達は皆、揃って倒れ、身を痙攣させていた。

「致死性とまではいかない劇薬打っただけだ。悪く思え」

「おいっ!」

 捜査官の男が、帆邑のスーツの襟もとを掴みあげて、激しく詰問する。

「これは一体何のつもりだ!?」









「何の・・・? 逃げるつもりに決まっている」









 帆邑から、即座に返されたその答に、捜査官の男はあまりにも意表を衝かれた。

「ば・・・」

「この手離せよ・・・もうあの蛇すぐそこまで来てんだぜ?」

「馬鹿か!!?」

 それまで見せていた冷静なマスクを脱ぎ捨てて、捜査官の男はそう帆邑に怒鳴りつけた。

「依頼主を、いや1人の人間を見捨てるつもりか!? ここでお前が逃げて置いてくという事は即ち! 気を失った依頼主を待つのは逃れようのない死!のみだぞ!?」

「あのな・・・」

 襟もとを掴んでいる捜査官の手首を掴み返す。

「悪徳捜査官が、今更モラルなんて持ち出すなよ」

 冷ややかにそう告げると、帆邑は殴りかかろうとしてきた捜査官の左の手首を離して避けた。

 すると捜査官の男も、そのまま地に膝をついてしまう。

「な・・・!?」

「あんたに打ったのは劇薬じゃねーよ。只の弛緩剤。小一時間もすりゃ動けるようになる」

 捜査官の口から、地の底から響くかのような怒りの滲む声が洩れだす。

「き、貴様は・・・貴様という奴はっっ!!」

「そんなに熱くなんなよ。これは仕事(ビジネス)だろ? 今回は・・・ま、割に合わなくなったから抜けっけど、また何かいい仕事あったら回し・・・」




『何っ!?』




 言い終えるより先。突如。

 猛然と『帆邑』に突進してきた黒炎蛇によってーー・・・


「く・・・ーーーーぁあぁっっ!!!」


 展開した水の結界ごと、帆邑の身体は宙へ投げ出されたーー





 

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