ザ・グレート・展開予測ショー

#新歓企画!『対決!!』ver.ヨハン・リーヴァ


投稿者名:ヨハン・リーヴァ
投稿日時:(02/ 7/22)

見渡す限りの大海原を、一隻の豪華客船が南に向かって進んでいる。
「皆、今日は『ジェームス伝次郎とサイパンへ行こうツアー』に参加してくれてありがとう」
甲板の上に作られたステージの上から、金髪に着物という奇妙な取り合わせのいでたちをした若い男がステージの下に集まった観客に向かって呼びかけた。
「それじゃ、サイパンに着くまでまだ間があるから少し歌おうか!今から歌う曲は、俺が作詞作曲した新曲の『巫女さん慕情』だ。聴いてくれ!」
少し偉そうな喋り方はスター時代の名残である。いまや「幽霊演歌歌手」として揺ぎ無い地位を得たジェームス伝次郎だが、未だに生前の癖が抜けきっていない。
「おお〜、ええぞお〜」
「待ってました!!」
「伝次郎さ〜ん!!」
歓声を送る観客たちの中には、演歌という年寄り向けのジャンルにもかかわらず若い顔が結構見られる。これは演歌がポピュラーになった・・・というわけではなく、ひとえに伝次郎の人気によるものである。
満足そうに見回しながら彼が歌おうとしたその時、突然船が激しく揺れ出した。
「わああ!?」
「きゃあああ!!」
よろけるものあり転ぶものありで、甲板は大混乱である。
「な、なんだ!?」
伝次郎は慌てた。この船は、最新式の設備と経験豊かな乗組員により安全が完全に保障されているはずである。『ジェームス伝次郎とサイパンへ行こうツアー』という企画は、多少若者がいるといっても彼のファン層はやはり老人が中心だという現状を踏まえて、伝次郎自身が値段との兼ね合いを考えながら赤字覚悟でレコード会社に頼み込みやっとのことで実現させたものであり、こんな事態になっては苦労も水の泡である。
「どうなってるのか調べてくる!」
そういうと伝次郎は操舵室に向かって駆け出した。せっかくきてくれたファンに怪我をさせるわけにはいかない。ファンを第一に。これは彼のモットーである。
「いったいどうしたんだ!?」
扉をすり抜け伝次郎が操舵室に入ると、何かに取り付かれたような表情の乗組員たちが彼の方を向いた。
「船長!!何が起きたんだ!?」
伝次郎はパイプをくわえた船長の肩をつかみ揺さぶりながら訊いた。
「セ、セイレーンが・・・」
やっとそれだけをいった船長の目は恐怖に見開かれている。その視線の先を見た伝次郎は、海の上に浮かぶ何者かを発見した。
「なんだあれは?」
髪の長い女のようである。手にはマイクらしきものを持っている。
「おいで、男たち。海の男たち・・・」
女がマイクを構え歌いだした。
「あああ、もう終わりだ!!!」
人生の半分以上を海の上で過ごして来たであろう船長が顔色を変えて取り乱す。もっとも年長の彼でこうなのだから、他の乗組員の様子は押して知るべしである。
「うわ〜!お母さあああん!」
「チクショー!こんなことならあんときケチらずに牛丼の特上食っとけばよかったああああ!」
「これは夢さ・・・本当の僕はあったかいベッドの上にいるんだ・・・」
「おい、落ち着けよ!一体あれは誰なんだよ!?」
伝次郎の必死のよびかけにも誰も応じる気配がない。
「海に恋する男たち・・・愛しい私の命たち・・・」
女の歌声がだんだん大きくなり、それに合わせるように船の運航が不安定になっていく。
「船長!あれはもしかして妖怪なのか!?」
「魔力のこもった歌声で船乗りを惑わせ、水を操り、人を殺す妖怪セイレーン・・・!!海の上では誰も手出しができん!」
「じゃあどうしようもないのかよ!?」
「奴を倒すには歌で負かすしかないのだ。しかし・・・」
「何だ、それならこの幽霊演歌歌手・ジェームス伝次郎に任せておいてくれ!なあに、プロとアマチュアの差を見せてやるさ!」
言うが早いか伝次郎は船の外へ飛び出した。
「やい、妖怪セイレーンとやら!この俺の乗る船に手を出すとはいい度胸だ・・・退治してやるぜ!」
「あらあら、幽霊の分際でこのあたしに勝負を挑む気?身の程知らずね」
「上等だ!一曲で負かしてやるぜ!・・・いくぞ!『捨てた女の涙酒』!!!」
「くっ・・・やるじゃない!少し甘く見てたようね」
こぶしをきかせ情熱的に歌い上げる伝次郎に、セイレーンはかなりひるんだようである。
「今度はあたしの番よ・・・以前あたしが敗れたゴーストスイーパーの持ち歌よ!『GHOST SWEEPER』!!!」
「ほう、なかなかの歌じゃねえか。しかしプロの俺には敵うまい!次は自作曲だ!『巫女さん慕情』!!!」
「あなた演歌歌手なの?じゃあこっちも演歌で行くわよ!『津軽海峡冬景色』!!!」
「ちっ、演歌もいけるのか!?しかしまだまだぁ!次は・・・」



(五時間経過)



(流石プロね・・・あたしの喉ももう限界だわ)
(くそっ、アマチュアと思ってなめてたがこいつただもんじゃねえな・・・もうそろそろ声が出なくなっちまう・・・幽霊は喉の代わりに霊力で歌ってるからな・・・こんなに霊力使う相手だと消耗しちまう)
二人の戦いが膠着状態に陥ったとき、見物に来ていた乗客の中から一人の男が進み出た。
「この勝負、ビーベックスレコードのちゅんくが預かった!」
彼の名前に乗客たち、特に若者がざわめきだした。
「ちゅんく!?あの『モーニング息子。』や『レモン記念日』のプロデュースを手掛けた敏腕プロデューサーじゃない!?」
「『彼がプロデュースすると必ずミリオンヒットする』とまでいわれたあのちゅんくか!?」
「俺に名案がある。この作戦通りでいけば、二人は大ヒットを飛ばせるはずや!」
「だ、大ヒット!?」
セイレーンが彼の言葉に反応した。やはり歌を歌うからにはヒットに恵まれたいらしい。
「おお、そうや。その作戦とはな・・・」





「ラック5ニュースのお時間です。先週発売された幽霊演歌歌手・ジェームス伝次郎と妖怪セイレーンがデュエットしたシングル『捨てた女の涙酒2002』が、一週間で二百万枚を売り上げる記録的な大ヒットとなりました。この曲は幼稚園児からお年寄りまで皆に大人気で、様々なチャートで軒並み一位を独走しています・・・」
「へえ、今の世の中何が売れるかわかんないもんね」
事務所のテレビの前でベビースターラーメンの『きつねうどん味』を頬張りながら、タマモが興味なさそうに呟いた。

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