ザ・グレート・展開予測ショー

livelymotion【プログラム:8「snow&ice〜デッドエンド〜」】


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 7/21)

奴を破壊する。できるかどうか疑わしいが、もう一度同じチャンスを待つのも億劫だ。
いや、一撃で葬れるなら、敵の攻撃があるとかどうとかは関係無い。
まして、雪之丞はマリアにタッパでかなわない。
必然、リーチと、打点の高さから、格闘戦にはハンデが生じる。
この一撃離脱攻撃を迎え撃つ分には、そのハンデはない。
かえって雪之丞にとっても、この条件は絶好の勝機だった。
雪之条の打撃が通じない可能性を、この際破棄して、の話であるが。
ヒュッ
急接近する二人の中間点に、幽かな影が飛び込んだ。
「な……!?」
――私は誰も失いません。私はそれを望んでいて、やれる事があるから。
――割り切れねェほどのものかよ……バカが!
雪之丞はあっさり進路を変更した。
そのままぶつかる直前まで迫ればどくくらい扱いやすい相手なら、
はじめからこのタイミングに飛び込んでは来ない筈だ。
本来なら、それだけのことだった筈だ。キヌは現在幽体。
魔装術でVR魔族と化した雪之丞の一撃を受ければ、それは致命傷だろう。
だが、彼は退いた。そして、マリア。彼女は全く問題無い。
マリアは内外の霊の行き来をシャットアウトしている。
それはメタ・ソウルを保護するために絶対に必要なことで
つまりそれが、システムエラーで機能不全に陥った結果こうなった。
そのマリアには、そのままでは霊体に干渉する方法が全くない。
だが、攻撃の意志は、霊力に物理干渉を実現させる。
そうでなければ騒霊現象に代表される霊障は起こりえない。
だからマリアには、彼女の装甲を貫きうる強大な霊力を保持した敵――
高位魔族を討伐する作戦の折に、カオスが即興で制作した
耐魔フィールド発振機とサブコンデンサが増設されていた。
これによって、マリアは一時的に霊的側面に干渉できる。
その一時は、さきほど雪之丞の攻撃を防御するのに使用してしまい
発振機内部のジェネレータの冷却が終わらない現状では使えない。
ならば、マリアのボディで幽体に干渉できはしない。透過して終わりだ。
キヌを突き抜けて、再び二人は対峙するだけだ。
どんっ
雪之丞も、そして『彼女』も、驚愕したのは間違いないことだった。
「なにを………」
雪之丞が言いかけたその言葉、それは唐突に遮られる。
「なにをしてるのよっ、あんたは!?」
『彼女』は、自分の突撃を受けながらもしがみつくキヌに問う。
雪之丞は、『彼女』がなんらかの手段を用いてやったことだと思った。
しかしそれは違う。これは、キヌがそう望んで『彼女』に触れたのだ。
キヌだけが意識せずに操れる、干渉と非干渉。
今更ながら、雪之丞は自分が「寸止めしたってどくわけない」と
知っていたことを思い出す。
<決まってます!マリアの身体を返してもらいにきたんです!!>
…………………………………
いつまで、そのまま固まっていただろう?
――こいつ、一番考えてるようにみせて実はなんも考えてないんじゃあ?
キヌの言葉を聞いた二人は、げっそりとそんなことを考えていた。
「あんたねー……返せ、って言われて、はいどーぞ、って返すと思ってんの?」
『彼女』は言う。それはそうだ。自分の足で歩ける感動は手放せない。
<貴女はマリアの心を乗っ取ったんでしょう?雪之丞さんは言いました。
マリアは、人を殺すことなんか望んでいない。
貴女なら一番正確にそのことが解るんじゃないですか?
マリアは貴女に自分の力を振るわれてなにを感じていますか?>
「………それ…は……」
「無駄だぜやめろ!そいつぁロボットの全部を取り込んでるんだ」
<全部じゃありません>
雪之丞の言葉に、キヌは静かに首を横に振って答える。
<全部じゃないんです。例えばマリアはわざわざ雪之丞さんと
グーで殴りあったりしないで、もっとバズーカとか指向性地雷とか
そういう魔装術の防御力も雪之丞さんの反応も
追いつかない内蔵武器で攻撃すれば済む話なんですから。
経験や知性をすべて乗っ取られたなら、それは容易な筈です>
「なんだとぉ!本気のロボットは俺より強いってのか!!?」
<じゃあ逆に尋ねますけど、指向性地雷ってどうやって避けるんです?>
「う…えっと、それはだな……」
雪之丞はあからさまに口篭もった。無理もないことである。
彼に、指向性地雷――ありていに言ってしまえばクレイモアだが――を
避けるヴィジョンなど見えてこないはずだ。
彼はそもそも指向性地雷という武器が想像できないでいるのだ。
地雷というからには地面に埋設する、という発想がある内は、
マリアに装備されたクレイモアを理解することはできない。
攻撃効果、範囲そのものはショットガンに近いものである。
装置を起爆させるとその爆圧によって前面へ向けて
特殊ベアリング弾が飛び散らされる仕組みだ。
まー避けられるかどうかというなら極端に短い射程のおかげで
一度見切ってしまえば問題無いし、威力は少々バカにならないものの、
武器の性質上装弾数は少ないので鎧を砕くには及ばない。
しかし、雪之丞としては「指向性地雷って何?」とは訊きづらい。
知っているか?ではなく、どうやって避けるか?という問い。
相手は、そのことはこちらが周知である事が前提の質問をしているのだ。
それはつまり、知らなければ恥。プライドの高い雪之丞には訊けない。
つまり、そこまで計算しての質問だったわけである。
<答えられないんですね避けられないんですね!
つまり、そういうことなんですっ!!マリアは人を殺しません。
それだけは、貴女の自由にはできない>
最後の一言だけ、振り向いた先に佇む『彼女』に告げる。
「見事な推理だわ。確かに、あたしとあの子はお互いに譲歩しあって
共倒れを防いだに過ぎないのよ。あの子は命は奪わない。
そしてあたしは、この身体の主人格におさまることを条件にした」
「驚ェた……なにも考えてなさそーなツラして、そこまで読むか」
<いえ、単に雪之丞さんに対して売り言葉に買い言葉で…>
『おい!?』
雪之丞と『彼女』が見事にハモる。
<まぁなんにせよ、これで私達二人の安全は確認されました。
これで雪之丞さんも、マリア救出に全力であたってくれますね?>
「殺されないからって安全ってわけじゃねーだろ」
<安全ですよ。これからは私がしがみついてますから>
「あのなお前だって……」
「冗談じゃないよ!!」
雪之丞がなにか言うより早く、場を駆ける『彼女』の一喝。
ヴンッ
世界が融ける。耐魔フィールドがゆっくりと世界に混ざった。
<ッあ……!?>
ビリビリバチバリヂヂヂ
剥き出しの幽体を灼く、プリズムの壁。
「おキヌ!……このアマぁッ!さっさとやめねェと……」
「寝言なんか聞きたくないよ!止めたきゃ殺しな!一番手っ取り早いさね」
「く……フザケんじゃねーぞ…………」
今、雪之丞がフィールドを突き破る威力で攻撃するというのなら、
それは明らかにキヌを巻き込む。それだけやって殺せるかどうかも。
<ふ………ぅあ……あッぁ………>
全身を焦熱が包む。それも、内側といわず外側といわず、
神経そのものが焔に変わったかというほどの、苦痛であるだけの苦痛。
「おい!聞こえてるか?そのフィールドは単にすべての霊存在を
強制排除してるだけだ。さっき、助けられた時の感じで解ってる。
ただ、排除っつっても、地獄とかそこらへんの物騒な場所に
送還してるみてーだが、そういう場所と自分との引力は業だ。
いいか?考えてることをすべて一旦捨てろ!
人間てな蓋を開けりゃどんな薄暗いこと考えてやがんだか…おい!?」
<薄暗いこと薄暗いこと……野菜室にしまってた卵、危ないけど
もったいないお化け出ちゃうから使っちゃおう…五個だから私独りじゃ
食べきらない。横島さんとシロちゃんは丈夫なお腹してるから……>
「人のアドバイスと全く逆のことしてんじゃねー!!」
<う、く、あ、あああああ……あぁ…>
見えないあぎとに喰いつかれたように、キヌの霊体が肩口から削れていく。
――なんのつもりだ…?まさか……このお人好しが!!
少しづつ、キヌの霊体は首を残していびつに削ぎ落とされる。
首が残るのは、無論業を呼び起こすため。つまりこの首が消えた時だ。
彼女の、完全消滅は。
<業……私の、ワガママは…マリアが、みんなに、私は死んだ、って
教えてくれることかな。いやな役目させちゃって……ごめん…ね…>
「この…お人好しがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ボヒュッ
雪之丞の絶叫をバックに、マリアの首筋から小さな影が飛び出す。
「契約・不履行。ボディの・譲渡も・拒否・します。Gシリンダー・エジェクト。
再度・エラーチェック・します。ノー・プロブレム・アイム・ファイン」
「くそったれ…問題なら大有りだ。今更おめおめ顔出しやがって」
奇跡ではない。奇跡など信じてはいけない。事象には必然がある。
これは『いつか』も、『誰か』がやった、『策略』。
マリアと『彼女』は取引の結果融合していた。
それは憑依とはちがい、一方的な支配ではない。
だからこそ『彼女』は、不慣れな身体や機能に戸惑う事無く戦えた。
ならば、解決するのは簡単。取引が失敗に終わればいいのだ。
ただし、マリアの条件は誰も死なせないことのみ。
そして死んだのだ。だからこうして、マリアは復旧した。
「ミスおキヌ・計画・成功・しました。コングラッチュレーション」
「なんでこんな…お前がくたばってりゃよかったんだ………」
「………」
「お前がぶっ壊れてめでたしめでたしのほうが、
よっぽどあとくされねーってもんだ!なんでテメーが……!!」
「…………」
「やっぱりだ。他人の世話焼くと無駄死にするんだよ」
「守るためです。『何故・マリアが』
その後に・続く・言葉が・どうであれ・答えは・それだけです」
「もうこれ以上!」
マリアの落ち着いた口調が腹に据えかね、雪之丞は激昂する。
「なにを守る?お前を救い出してくれたヒトを失って、
守るべきものなんかねーよ!お前に命を託したのは他の誰でもない!
お前はアイツのために生きなきゃなんないのに、そのアイツはもう死んだんだ」
それは、自分が長い間感じていた、見えない重圧の正体。
守りたくないんじゃなく、守れないという呪い。
「………状況把握から・はじめましょう」
「なんだと?」
<非っっっっ常に出づらくなっちゃったんですけど、一応生きてますからねー>
なんだか寒気をおぼえるくらい、やたら陽気な声が響いた。
「……マヅイ…」
「早急な・謝罪と・訂正を・推奨します」

つづく

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