ザ・グレート・展開予測ショー

livelymotion【プログラム:7「snow&ice“スパーク”」】


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 7/20)

「ケッ!あきれるほど頑丈にできてやがる。
頭砕き割ろうと、ちょいとばかし本気めに殴ったのによ」
肩がせわしく上下していなければ、ちょいとばかし、という言葉にも
いくぶんの説得力はあっただろうほどの、軽い口調でつぶやいていた。
<なにやってるんですかあなたはっ!?マリアが壊れちゃいますよ!!>
「今、壊すつもりだ、つったとこじゃねーか」
<忘れたんですか?反撃なら三人ですよ。壊すんなら私怒りますからね>
「んなこと言われてもなぁ……アレ、他にどー始末つけるんだ?」
ゆっくりと立ち上がる『彼女』を目で指し、雪之丞は呟く。
<それは……それはまだ解りませんけど…>
雪之丞が『彼女』と交戦することをやめて、どうなるか。
少なくとも『彼女』がキヌと雪之丞に危害を加えなくなる可能性は低い。
『彼女』の攻撃を止めさせる、他の案など、現状思いつかない。
そういった意味では、雪之丞のとった行動は非常に適切だったかもしれない。
ただそこに、人間性というか、仲間を倒す事になんの躊躇も見せないのが、
傍らで見ていたキヌの不安を煽っていた。
マリアは語るまでもなく、かけがえのない仲間である。
彼女を失う事自体、あってはならない事だ。
そして、それと同様に、それを成すのが雪之丞であるなら、
彼ともまた、越え難い溝が生じる。二人の友人を、永久に失う事になるだろう。
雪之丞にしろ、悪意があってやっているわけではない筈だ。
彼の場合、少し楽観に過ぎるのが問題なのだ。
マリアは、確かに今までにも致命的な破損を幾度となく繰り返してきた。
雪之丞が言うように、すぐに甦る可能性は、決してなくはない。
だが、それはキヌや雪之丞が抱くイメージという、あやふやな根拠による。
実際にいつも修理しているドクターカオスでもない限り、言い切ることはできない。
ならば、やめさせねばならない。二人を失わないために。
とはいえど「ならばお前がどうにかしろ」などと言われても
そう都合よく打開策など思いつくはずもない。
「お前の、そういうとこ、俺にはわかんねーけど、悪くねーと思う。だからこそだ。
お前が俺と対等なくらい、俺や横島とは異質の強さを持ってるからこそ言うぜ。
こんなところで、よしゃあいーのに他人の世話焼いて、要らない苦労背負って
そんで死んじまう…そんな勿体ねェ生き方はすんな。ここは割り切れ」
それは、雪之丞の人生訓。自分の人生は自分のために。
マリアの身体で『彼女』が隙を窺いながら、ゆっくり間合いを詰める。
「アイツの始末は、今のところ、俺にしかできねェ。ここは俺に預けろ」
キヌには答えるべき言葉がない。
自分には『彼女』を止められないから。この戦いを認めたくないから。
「痛い……」
『彼女』が、たった一言呟いた。あやうく聞き逃したかもしれない、か細い声。
「ったりめーだ!喧嘩ってのは痛ェんだよ。生きるってのはつれェんだ。
だから言った。生きてる俺と死んじまってるテメーじゃ勝負にもならねーって」
「でもこうも言ったわ。この身体で痛いはずがない、って。痛みがあるのよ。
いいえ。痛みを知ることを選べてしまうの。
あたしが拒否すれば、貴方の言うとおり、痛さに気づかない。
けど、人間にそれができると思う?自分の痛みを隠される苦痛。
医療麻酔なんてレベルじゃないのよ。根本から痛みという存在がない恐怖。
結果、『痛みを知ることを自由意志で選ぶ事を強制されてる』。
解ってくれとは言わない。勝手に乗っ取っておいて、身勝手な言い分?
違う。あたしはすでにこの女だから、言わせてもらう。苦しすぎるのよ。
貴方の突きは、貴方が考えてる以上にこの心を傷つけてる!!
攻撃するな、なんて言わないわ。
信用もしないでしょうし、そんなの気にする貴方じゃないもんね。
けど、貴方達が仲間だなんて言うくらいなら、知るべきよ」
言われて、二人はしばし黙す。だが、そのままでもいられない。
「そうだな。俺は、巧く言えねェ。
けど、仲間ってのはおんぶに抱っこの関係じゃねー。それは、確かだ。
俺の弱さを知っていい、支えになるヒトは、俺の生涯に二人いた。
だが、たった二人だ。俺にとってのロボットも、ロボットにとっての俺も、
そんなモノになれないのはしょうがねェことなのさ。
ロボットじゃないお前から聞いた、ロボットの弱音…俺は忘れるぜ。
俺なら、ダチに知られたくはねェからよ」
<私は、マリアのチカラになれるとは思いません。
けど、マリアが私を友達と言ってくれたことを信じているし、
私もそれを望んでいるから、私達は友達です。
共有できない悩みがあっても、そんなことは、誰にでもあるものです>
それはほとんど頭の中ではモヤモヤした想いだったが、
言ってみて、それが真実だったと解る。
「そう。強いのね。時間をとらせて悪かったわ。はじめましょう、雪之丞くん」
「ヘッ!えっらそーに。もぅテメーの運命は俺の手の中なんだぜ?」
先程の攻防では、雪之丞が圧倒的に優勢であった。
逆に言えば、その圧倒的戦況の中で、
雪之丞の攻撃は致命打になっていなかったのだが。
「認めるわ。でも、あたし、一度でも言ったかしら?
貴方を倒すのが目的だ、なんてね」
「なんだと?」
「ふふふ……これ以上は、つれないヒトには教えてあげない」
「サービスが欲しかったら、躾てみる事だな。きっぱりと不可能だが」
「じゃあ、あたしも躾てもらおうかしら?ぞくぞくしちゃうわ」
「グーで殴っていいんなら、たっぷりしてやるよ」
<ダメですってば!マリアを助けてあげないと。仲間って約束したでしょ?>
理想論。いや、理想以前の夢想。雪之丞にとっては、寝言である。
だが、それと同時に、それを本気で言っているキヌの気持ちを思うと
何故か、雪之丞は安らかな心地になる。寝言、おおいに結構だ。
「おキヌ…俺みたいのが今更言うことにしちゃあ胡散臭ェんだが
俺も実は、お前と同じ考えなんだぜ?仲間を護りてェ。なにがあっても。
ロボットを苦しめたくねェ。ロボット自身がそう望む限り。
俺はお前を死なせはしねェ。俺とお前は仲間だ。
なにより、お前が死んだら俺の周りで二人ばかし泣く奴がいる。
もっとも片方は、憎悪を滾らせて俺と本気で殺し合ってくれるんだったら
そいつはそいつで俺は面白ェと思うんだ。
それこそすべてを捨ててでも、俺はそいつを実現したい。
けど、逆に一生腑抜けちまうかも知れねェ。そんな危ない賭けはできねェ。
それに、もう片方には、俺は赦されたいんだよ。俺を拒まれたくねェんだ。
だから、俺はお前を死なせはしねェ。
そして、多分、ロボットが最も苦しむ事は、テメェの手で人を殺す事だ。
だから………俺にできる精一杯は、ロボットをぶっ壊してやる事なんだ。
……お前に手をかける、その前に…………!!」
自分でも、自分で言っている内容に憎悪しているのか、雪之丞は震えた。
――なんつった?死なせたくねェだと?苦しませたくねェっつったのか、俺は!?
エゴで塗り固められた親切ほど、吐き気を誘うものはない。
何故なら、全てが自分のために働いていながら、その行いは善なのだ。
正義という名の免罪符が、窒息するほど纏わりつく。
解っているのだ。自分の言葉の醜さを。それでも、言うしかなかった。
自分の言ったことはすべて真実。キヌを死なせるわけにいかない動機も。
キヌの優しさを止めるには、現実を与えるしかない。
現実ほどの絶対的な力でなければ、止まらないほどの、彼女の優しさ。
たとえ彼女の優しさが永久に自分に届かなくなろうと、
彼女が失われて崩れ去る自分の世界に比べれば、それは些細な事。
しかもそれらがすべて正義だからこそ、彼女には抗いようがない。
正しい事で、自分の心に正直な事。
ならば、彼女に自分の意見は動かせないのだ。
卑怯な事だろうか?自分が選んだ方法は正しくない?
いや、現実的に考えて、理想的な、正しい判断だっただろう。
なら、何を気に病む?巧く言えないが、こんなやり方など趣味ではない。
しかたなかったのよ――そんな旧友の科白が、頭を過ぎり、憤りが増す。
――しょうがねーもんかッ!俺はそんなに弱かねェよッ!!
叫びだしたい。なのに、そんな強さ、今の自分にはない。
パワーやスピードなんか、本当の強さじゃない?
――なら、俺はなんなんだよ?
弱くない。弱くあってはいけないのだ。
自分はあの強かった母に代わって、今を生きている。強くあって然るべきだ。
だったら、認めないことだ。力以外の強さなど。自分には力しかないのだから。
「あぁぁぁあああぁぁぁあぁああぁぁぁッ!?」
ヅドゥッ
自分を失いながら、敵を見失っていなかったのは戦士の嗅覚とでも言おうか。
雪之丞は霊波砲を一直線に撃ちはなった。光の奔流が『彼女』に迫る。
それを棒立ちで見送るなど無論論外。
雪之丞は光条を追って駆ける。その手には、やはり解放を待つ光の束。
『彼女』も動く。雪之丞に向かって真っ直ぐに。周囲の空気が歪んで捩れる。
この現象は耐魔フィールドの余剰エネルギーが排出されるもの。
ブジュッ
耐魔フィールドのピンポイント展開。
全周囲へ展開すれば彼女の移動もままならなくなるがこれならば、
走りこみながら、少ないエネルギーで敵攻撃をキャンセルできる。
だが、どんなにエネルギーに余裕があっても、耐魔フィールドは
まだ不安定な試験中の装備。連続使用時間にはリミットが設けてある。
雪之丞が更に放つ霊波砲は、フィールド再展開を待ってはくれない。
それに、電力はマリアの主動力でもある。貯金があるに越した事はない。
ここは――ガソリンでも使うか。
飛行装置を起動。霊波砲を紙一重にやり過して雪之丞に向けて特攻。
マリアの強度と重量が弾丸となって急襲すれば
互角と思われていたパワーに、大幅なアドバンテージがつくはずである。
一方の雪之丞にとって、そのスピードを見切るのは楽とまではいかない。
ただ、まんざら不可能でもない。
避ける事は難しくない、わけではないが、悲観するほどでもないだろう。
しかしそれは無意味な事なのだ。雪之丞に防御はないのだから。
相手が渾身の攻撃をしてくるのはチャンスだ。
防御も、回避も、敵はネタが尽きたからこそ攻撃せざるえなくなっているのだ。

つづく

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa