ザ・グレート・展開予測ショー

#新歓企画!『対決!!』ver.斑駒


投稿者名:斑駒
投稿日時:(02/ 7/19)


「……往くぞ、マリア! 気合を入れろ!」
「イエス! ドクター・カオス!」
 狭い室内。低い天井に届くのではないかと思われるような長身の男が、決然と立ち上がる。

「分かっておるとは思うが。今回、正義はわしらにあり……じゃ!」
「イエス! ドクター・カオス!」
 男は、ともすればその体重のために沈みかけてしまうボロ畳を一歩、一歩。しっかりと踏みしめて、入り口へと向かう。

「……とは言え、あやつのことじゃ。今回もそうそう甘くはいかんじゃろう。心してかかれ!」
「イエス! ドクター・カオス!」
 そして男は、いやな音を立てて軋むドアノブに手をかけた―――


   あんてな新歓企画!『対決!!』ver.斑駒
      副題:『泣くコと、地頭』


「なんだい!あたしがさっきからずっと戸を叩いてたってのに。居るんならさっさと返事くらいおしよ、カオッさん!」
 果たして。開かれたドアの前に立っていたのは、カオスとマリアにとって最大の難敵と呼べる人物だった。

「……まあ、良いではないか。……で、大家のバァさん。今日は何用じゃ?」
 カオスはまず、勢い込む大家を軽くいなす。
 相手のペースに飲まれたら、負けだ。
 
「? あんた、ついにボケたのかい? 先々月分の家賃を徴収しに来たに決まってんじゃないか!」
「家賃か……フッ」
 カオスはあくまでも余裕の笑みをたたえたまま、もったいぶった様子で両の目を軽く瞑(つむ)ってみせる。

「……何がおかしいんだい!?」
 気の短い大家さんは「スチャッ」っと音のするような勢いで、愛用のナギナタを構える。

「ま、待てッ! 落ち着いて話を聞けッ! バァさんも先刻の核ジャック事件のことは知っておろう?」
 カオスは、焦った様子で、反射的に前に出した手をぶんぶんと一生懸命振ってみせる。

「…? どっかのバカが爆弾持って南極に篭城したってヤツかい? そんな話する前に、家賃をお寄越しよ」
「待てと言っておろうが! そのバカが手にした爆弾は世界を一瞬にして灰塵に帰すことのできるものだったのじゃ! まさしく世界の危機であったと言えよう!」
 未だにナギナタを構えながらも、多少軟化した大家の態度を見て、カオスは余裕を持って話を続ける。

「へぇ、そうだったのかい? でも、そいつはもうだいぶ前に解決しって話じゃないか。言っておくけど『世界が滅びるはずだったから家賃は用意していなかった』なんて言い訳は聞かないよ?」
 そう言って大家はナギナタを構え直す。
 彼女の中では、もう結論は見えているらしい。
 しかし、カオスも今回は動じなかった。

「クックックッ。ワ――ハハハハ!」
 高笑い。

「?」
 大家が訝しげな表情でカオスを見据える。

「フフフ。このヨーロッパの魔王を見くびってもらっては困る。そんな下らんことは言わんよ」
「?? じゃぁ、さっさと家賃を――」
 ナギナタをホウキの如く脇に立てて、手を差し出す大家。

「待て待て、話はまだ終わっておらん。実は先月末の夜にわしとマリアがここを留守にしておったのは、別に家賃の徴収から逃れるためでは無くてな。その核ジャック事件の犯人を追い詰めておったのじゃよ」
「ウソ言ってんじゃないよ! あの事件はもうずっと前に―――『本当です! ランド・ミストレス!』――ええっ?」
 与太話を一蹴しようした大家に、思わぬところから援護の手が伸びる。

「マリア・アシュタロスを・倒すために・闘って・ました! アシュタロスは・南極を・脱出し・東京で・新たな・世界破滅計画を・実行して・いました」
「アシュ……? ふぅん。どうやらウソは言ってないみたいだね」
 大家はマリアの目を正面から覗き込んで、溜息を一つつく。

「そうなのだ。つまりわしらの活躍なくして、今のこの平和な世界はありんかったと言うことじゃな」
「……で、礼でも言って欲しいってのかい?」
 納得はしても、大家は明らかに焦れてきている。

「礼か……フッ。そんなものを要求したりはせんよ。ただな、世界を守ったということは、同時にこのアパートの存在も守ったということじゃからな。つまり、わしらはもうアパート全体の一生分の家賃をバァさんに対して支払ってやったようなものであってだな―――」




 ガガン! ゴッ! シュシュシュッ スチャッ
(二連撃)(兜割り)(振り回し)  (構え) 


「結局、踏み倒しの理屈つけてんじゃないか!」


 ……プス、プス、プス
 満身の殺気を放つ大家と、目の前で頭から煙を出して倒れるカオス。


 しかしカオスは文字通り不死身の男である。
「(………クッ、やはりダメじゃったか。……仕方ない、マリア! 作戦βに変更じゃ!)」
「(了解。ドクター・カオス!)」
 すかさずマントの襟元に忍ばせた専用回線で、マリアと次の作戦を示し合わせる。


「ランド・ミストレス!」
「なんだい? マリアちゃん。あんたもこんなボケ老人の世話で大変だろーけど、家賃ってのは何が何でも払うのが世のスジってもんだよ」
 大家は床に倒れ付すカオスの頭をナギナタでぐりぐりしながら、諭す。

「イエス……ランド・ミストレス。でも、マリアは――」
「なんだい? あんたまで私に楯突こうってのかい? 言っておくけど。年寄りだからって、まだまだあんたくらいになら負けないよ」
 気が立っている大家はマリアに対してナギナタを正眼に構えてみせる。
 大家は以前にも一度、マリアとカオスを相手に完膚なきまで叩きのめしたことがある。
 ハッキリ言って、バァさんには有り得ない強さを誇っているのだ。

「ノ、ノー! ランド・ミストレス!」
 マリアも、慌てて手を前に出し、ぶんぶんと振ってみせる。
 大家もその反応を見て――最初からその気も無かったのか――ナギナタの構えを解いて、再び脇に立てる。

「……マリア・先月末の・アシュタロスとの・闘いで・深刻な・ダメージを・負いました」
「! そうだったのかい。女の子が、大変だったね。……もう、“治”ったのかい? “疵”(きず)とかが残ったらコトだからね」
 大家の目が、憤怒から、思いやりのものへと変わる。

「ノー・プロブレム。この数日間・ドクター・カオスが・つきっきりで・“直”して・くれました。“傷”も・一切・ありません! でも・お金が――」
「ああ。分かった、分かった! 分かったからそんな目で見るんじゃないよ! マリアちゃんがケガしちまったんじゃぁ、治療費も結構かかったんだろ? それに、カオッさんも看病につきっきりじゃぁ、仕事して金を稼ぐことも出来なかったんだろ?」
 大家はマリアの言葉を片手で制して、「全て分かっている」とでも言うかのように両目を瞑って、ウンウンとうなずいてみせた。

「そうなのだ! 大ダメージを受けたマリアを完全に“直”すのには、莫大な金がかかってな」
 未だに床につっぷして頭から煙を上げながら、カオスが大家に返答する。

「…フン。あんたもなかなかイイトコロあるじゃないか。マリアちゃんを、大切におしよ!」
 カオスを見下す大家の目にも心なしか、いつもの『相手を蔑むような』ものではなく、『相手の人格を認めるような』視線が混じっているように見える。

「……と、言うことは……?」
 しかし、喜びを湛(たた)えて顔を床からパッと上げたカオスが、そんな大家の様子にも気づくでもなく、ただただ大家の結論に期待の眼差しを向ける。

「うん。私も鬼じゃぁないからね。今回の徴収分、先々月の家賃は――――」
 大家はそこで、チラッとマリアの顔を眺める。
 カオスと同様、マリアも嬉しそうな顔をしている。
 しかし、大家はその表情の理由が『家賃』に無いことを知っている。

 ……もう一度、床に情けなく突っ伏す男の方に目をやる。
 おそらくこの男は、自分に掛け合って、家賃を何とかできたことを喜んでいるのだろう。
 そしておそらく、マリアちゃんも同じ理由で喜んでいるものと思っているはずだ。




 大家は、軽く溜息をついて、言葉を続けた。
「来月に、先月分とまとめて2ヶ月分、徴収することにしよう!」


 ――だあぁっ――


 大家の予想通り、カオスは盛大にズッコケて、再び頭を床に突っ伏す。
 無理も無い。誰だって今の繋がりなら家賃免除か、最低でも徴収を一か月分ずらすことを想像するだろう。


「なんなんじゃそれは―――ッ! 因業大家〜〜! オニ〜〜! 悪魔〜〜! 守銭奴――」
「じゃぁ、そういうことだから。がんばるんだよッ!」
「イエス! ランド・ミストレス! ありがとう・ございました!!」
 数分して。気を取り直したカオスが連綿と悪態をつく中、大家は笑顔でマリアと挨拶を交わし、カオスの存在を全く無視ししたままドアの向こうに消えていった。




「………クッソー。今に見ておれ……あのバァさんめ。わしが長年の研究成果で大金持ちになった暁にはこんなアパート―――」
「ドクター・カオス! アルバイトの・時間です!」
 絵に描いたような負け犬の遠吠えを吐くカオスに、こちらはさほど落胆した様子でもないマリアが、声をかける。

「………くうぅ……………仕方ない、まずは家賃じゃ。行くぞ、マリア!」
「イエス! ドクター・カオス!!」
 『稼ぐに追いつく貧乏なし』
 結局は働くのが一番なのだが、研究より日々の生活に追われるカオスには貧乏が板についてしまっている観もある。
 カオスは何かを諦め、振り切るかのように勢い良く起き上がり、さっき大家も出て行った部屋のドアを「バンッ」と思いっきり開け放って、ずかずかと外へと歩いて行った。

 マリアもカオスの後を追って、部屋を出ようとするが、ふと入り口の目の前で、部屋を振り返る。



「お〜い! なにしとるんじゃ?マリア! 早くこんかいっ!!」
「イ、イエス! ドクター・カオスッ!」
 しばらく部屋の様子に見入っていたマリアが、慌てたように後ろ手で部屋のドアを閉じる。
 ……重たい足音がドアから遠ざかってゆく。



 部屋の中。完全に日に焼けたボロっちい畳の上には……

 雑然と散らばる、見た事もないような工具のたぐいと、
 一箇所に山と積まれた、なんだか分からないネジや部品のたぐい。

 ――そして、おそらくは新しいものと交換したのだろう。
 カチューシャの形を模した、マリアのアンテナだけが、残されていた………。

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