ザ・グレート・展開予測ショー

推定無罪! その10


投稿者名:A.SE
投稿日時:(02/ 7/17)

「あーあ、またこれか…。三度三度これじゃあいいかげん嫌んなるなあ…」
 魔理が目の前のテーブルに並んだ料理を見ながらため息をついた。
「三度三度じゃありませんでしょ。毎回少しずつ変化をつけてくださってますわ…」
 かおりがたしなめる様に言う。しかしその口調は魔理と同じくうんざりしている風だった。
「すいません、私のせいでこんな…」
「いや、別におキヌちゃんのせいじゃないよ…」
「そうですわ…。私たちも美神さんを助けたいのは同じですもの…。」
 元気の無い会話を交わした後、三人はしかたなげに食事をはじめた。
 おキヌたちが食べているのは一種の精進料理だった。しかしその内容は一般に言われるそれより遥かに徹底している。まず動物質は勿論の事、米、麦、豆等の穀類が一切なかった。代わりに炭水化物として芋料理、タンパク・脂肪質として胡麻料理が並んでいる。葉野菜や根菜の煮ものは全て砂糖・塩・昆布だしで味付けされ、穀類や動物質から出来た調味料は一切使われていなかった。サラダや果実酢でつくった酢の物は、スパイスや刺激物が無いため悲しいまでにさっぱりしている。デザートは果物、飲み物はミネラルウォーターだけ。六道家お抱えの料理人が作っただけあって料理自体は決してまずくなかったが、さすがに若向けの味とは言えなかった。
「うう、味気ない…」
 やっと半分ほど食べたところで、魔理がポツリとつぶやいた。同時に他の二人の箸がピタリと止まり、そのまま動かなくなる。
「一文字さん…そんな事は分かってますわ…一々口に出して言わないで下さいます…?」
 そのまましばらく沈黙が続く。既に三人の食欲は完全に失せてしまっていた。
「弓の家はお寺なんだろ…?こう言う料理いつも食べてんじゃないのか…?」
「今時お寺だって毎日精進料理食べてなんかいませんわ…。それにこんな徹底してもいないし…。氷室さんこそ、300年前のお寺で育ったのならこう言う料理になれてるはずじゃ…?」
「私、幽霊やってた時間が長かったせいか、その頃の味覚忘れちゃってるんです…。今は現代の味に慣れてしまってて…。」
 またしても沈黙。しかし今度はそこへ、気楽で間延びした声が割って入った。
「あらー好き嫌いしちゃだめよー。残さずにちゃんと食べないとー。」
 六道冥子である。彼女はゆっくりテーブルの脇まで歩いてくると、自身凄まじい好き嫌いの持ち主であるにもかかわらず、少しお姉さまぶって三人に話しかけた。
「私も小学生の頃にー斎戒をした事があるんだけどーあの時は大変だったわー。お菓子もジュースもだめだってお母様が怒るんですものー。でも私ガマンしたわー。だってそうしないと正式な式神たちの引継ぎが出来なかったからー。斎戒は身を清めるために絶対必要な儀式なのよー。でもお腹が空いて病気になっちゃったらなんにもならないわー。だから好き嫌いしちゃダメー。」
「はあ…。」
 三人はそろって気の無い返事をかえす。冥子は半分母親受け売りの説教がまともに聞いてもらえていないと感じて、もっと注意を引けそうな方向に話を変えた。
「鴫ノ池おじ様はーみんなにーお食事以外でどんな斎戒をする様におっしゃったのー?」
「えっと…裸足で歩かない事、太陽を直接見ない事、男性と話さないこと、男性に触れないこと…です。」
「そうーだからみんな毎日うちに泊まってーサングラスかけてー車で登校してるのねー。でもーそんな斎戒をした女の子が三人も必要だなんてーおじ様はよほど強力な霊力を使いたいんだわー。そういえば前にークビラちゃんをを借りたいっておっしゃってた事があるからーなにか霊視をなさるのかもしれないわねー。」
「霊視…ですか?それって美神さんを助けてくださる事と関係あるんでしょうか…?」
「さあー、はっきりとは分からないけどー昨日お母様がー電話であなたたちと令子ちゃんのこと話してるのを聞いたからー関係があるかもしれないわねー。あ、でもーこんな事私が教えたなんてーお母様に言わないでねー。余計な事言ったって叱られちゃうからー。ほらほらーもう少しぐらい食べなさいー。お腹が減ると霊力も出ないわよー。」
 無理矢理話を戻されて、三人は仕方なくまた食事をはじめた。朝晩の沐浴や食事時に毎度ひょっこり冥子が現れるところをみると、彼女は一応お目付け役なのかもしれない。なんとも頼りないお目付け役だが、年長霊能者として説得力はなくてもそれなりの威圧感はもっていた。
 その冥子の、心配というものを知らないかのような笑顔で監視されながら、薄味の煮びたしホウレンソウを噛まずに飲みこむおキヌは、ふと横島とシロの事を思い出した。斎戒に入ってからは一度も連絡していないが、シロが料理をしているとすると、横島は動物性タンパクたっぷりのとんでもなく胃にもたれる料理ばかり食べているかもしれない。自分たちとは正反対だが、それはそれで凄まじい。そう思うと、おキヌはここにいる二人以外にも仲間がいるようで、なんだか少し気が楽になった。

 その頃…
「腹減ったー!何か食わしてくれー!!朝からゴタゴタしてなんも食うとらんのやー!!」
「黙れ!!メシが食いたきゃ聞いた事に答えろ!!」
「俺は無実やー!厄珍にハメられたんやー!式神なんか俺はよう使わへんー!!」
「うるさい!それはもう聞き飽きた!!」
「ほんなら早よ釈放せー!!」
「ふざけるな!そんなわけにいくか!!貴様には公務執行妨害と傷害の他に厄珍堂から窃盗の被害届もでとるんだ!仏像12体!バイトの立場を利用されたと言ってきとる!!貴様の持ってた鞄にも実際仏像が入ってたぞ!!」
「厄珍の罠やー!鞄の中身なんか知らんー!!大体俺は未成年やぞー!いっぺん保釈してくれー!!」
「何言っとる!!親が国内にいない上に身許保証人が検察拘留中で保釈なんかできるか!!」
「だから唐巣神父に身許引受人頼んでくれ言うとるやろー!!」
「そのカラス神父とやらは今連絡がとれん!!諦めて今夜はここでじっくり泥をはけ!」
「そんなことしとったらシロが取り返しのつかん事になるー!アパートに帰らせろー!」
「明日になったら家宅捜索に同行させてやる!それまで我慢しろ!」
「明日なんかやったら手遅れやー!今帰らせろー!!」
「いくらなんでも飼い犬のために容疑者を保釈できるか!!」
「シロは犬やないー!狼やー!」
「お前アパートで狼犬なんか飼ってるのか!?」
「違うー!人間なんやー!!」
「それならこっちから電話で連絡をいれといてやる!」
「んなことしたら余計無茶苦茶なことになってまうー!あいつは狼なんやぞー!!」
「今人間だつったろうが!!」
「人間やけど狼なんやー!!」
「変質者かなにかか!?そいつは!!」
「ちがうー!!子供やー!狼の子供なんやー!!」
「いいかげんにしろっ!!なにを言っとるのかさっぱりわけがわからんわ!!!」
「わけなんかわからんでもええわいー!!なんでもええから帰らせーーーー!!!!」
        ・
        ・
        ・

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa