ザ・グレート・展開予測ショー

livelymotion【プログラム6:「黒き機身対紅き獣」】


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 7/17)

「そのカッコで血の巡りもくそもねーもんだぜ。
で、ロボットのほうはなんか釈明は無いのかよ?」
「…………起き抜けで、混乱してました…」
「もっとも『らしすぎる』話だ。
テメーが使ってるその身体は、ただのデク人形なんだぜ?」
「人間並みに複雑なプログラムには、人間並みに制御不能なエラーも不可避です」
「あいにくそういうの詳しくねェし、一旦うそ臭く思っちまったら、
俺ぁトコトンまでふっかける性分なんだよ。
第一、テメーがそんなに寝起きが悪かったんなら、
カオスのジーさまはとっくにくたばってんだろが」
言いながら、燃えるような毒々しい紅い霊気を具現する。
「敵地で、戦力的に不利な状態で無駄に消耗するなんてナンセンス!」
「やっぱテメーはニセモンだね。本物のロボットなら、
敵地だからこそ味方はキチッと把握すると言うだろうよ」
霊気を左手に集める。狙いは勿論マリア。しかしマリアは微動だにしない。
動かないことで、身の潔白を証明しているのである。
これでは、実際に殺されかけたキヌですら、とりあえず信じるしかない。
「フン!撃たないとタカくくってやがるだろ?これまたおあいにくさま。
疑わしきは罰せず、なんて聖者みてーなタワゴト述べるつもりは、ねェんだよ!!」
コゥッ
<撃った!?>
しかも、ただ撃つだけなら、鎧を構成する必要などどこにもない。
マリアを一発で撃破するというのも無理だろう。
どう考えても、追い打ち前提で放ったのだ。
マリアの防御力をもってすれば、
雪之丞の霊波攻撃にもいくばくかは耐えられるはずである。
飛び道具を間断なく叩き込む、という手は、相手を見失うため使えない。
逆に接近戦なら、パワーは互角。スピードに勝る雪之丞が、多少有利かもしれない。
しかし、マリアの防御力の高さから、並の相手なら倒れる攻撃をものともせずに
反撃してくるという可能性を考えると、リスクも高い。
ならば、飛び道具で牽制して格闘の一撃を叩き込む。
そう。彼の言葉どおり、彼はこの時すでに、胡散臭いという理由だけで
マリアを完全に破壊するつもりで挑んでいたのである。
一方のマリアも、この攻撃が牽制だということは気づいている。
避けるなりフィールドで弾くなりして防ぐのは簡単だが、
そのあとに多少のリスクを負うことになる。ここは――
バシュッ
右腕内の炸薬が小気味よい音を立てる。
ロケットアームッ!
霊波砲をぶち抜いて、
そのままその陰に隠れている雪之丞にもカウンターを決めるつもりだ。
二連攻撃を低リスクで防御する術は、マリアにはこれしかない。
「あ………めェッ!」
ブォッ
雪之丞は前進する足を止めぬまま、
手が地に着く超低姿勢に切り替えてロケットアームを頭上にやり過ごす。
「顔面!もらったッ!!」
マリアの左手がカバーに入ったその瞬間、
雪之丞は四肢全部の力で大地から跳ね上がる。
ガゴォンッ
その突風のようなスピードを乗せて、マリアの胴に渾身の蹴り上げを入れる。
マリアが左手で、一拍遅れてその脚を掴みにいく。が。
「一発目だなんて、言ってねーだろーがよ!?」
雪之丞が左腕を振りかぶるのを察し、再び自分も左腕を顔へ引き戻す。
ばしっ
雪之丞が右腕を突っ込んでガードを払い除ける。
「二発目とも、言ってねーよ!!」
ガヅッ、ドスッ
雪之丞の左にタイミングを合わせ、マリアもまた、雪之丞の左肘を打つ。
「へへッ…こいつぁ、蚊でも潰してくれたのかよ?随分物騒だな。
渾身の突きをぶち込んで、一番衝撃を蓄積してるタイミングとポイントに
的確に突き込んで来やがったよなぁ?」
不敵に笑う雪之丞。
キヌを襲ったのをなんらかの事故だとして、
初撃のロケットアームを自衛手段として、今度こそ確信できたのだ。
殺意を秘めた反撃を。防御不能。回避は彼我の性能差からして論外。
反撃を選択するのは至極道理である。
しかしそれは、相手が倒すべき敵であるなら、という条件がつく。
これでこの反撃をしたのが雪之丞なら説明はつくが、彼女は『マリア』なのだから。
「まさか、本物のロボットが、「殴られて・痛かったから・やり返した」、なんて
寝言以下の言い訳はしねェぜ?どーすりゃメカが痛がるんだよ?」
雪之丞は、別にマリアに痛覚がないだなんて知って言ってるわけではない。
単なる「機械に痛みはない」という先入観に依る決めつけである。事実だが。
マリアには光学ソナーによって飛来物の強度及び速度、入射角を調べ、
さらに内蔵した衝撃計による実際の被害と照合して
データとしての『痛み』を抽出する、という機能はある。
だがそれは、人工魂と電子頭脳の意見誤差修整時に生ずる
電子頭脳のストレスを緩和するためのレクリエーション用の
計算プログラムであり、あくまで実用を前提としていない。
(事実、スリープモード時以外でこのオプションは
立ち上げられた履歴がない。リアルタイムである必要がないためだ)
また、このプログラムが算出するのは
ダメージをアナログ化したデータ以上のものではなく、
人間が指す『痛み』とは厳密には全くの別物である。
つまり、正確な記述を求めるなら、「マリアに痛覚はあるが痛みは感じない」。
あくまで彼女が知り得るのはデータであり、センサが弾き出した結果のみ。
そして、『マリア』の口がゆっくり動いた。
「そう。バレたのね。もっとも、バレる前から、
貴方はあたしを殺す気で攻撃してたんじゃ同じ事でしょ」
<マリアに、誰かが憑いてたんですね。
彼女は一人称代名詞なんか使いませんし>
『己』というものを、マリアは認識していない。
マリアというのは汎用多目的人型ツールと、
その自律管制プログラムからなる一個のシステムなのだから。
たまによくできた『自我』を見せるが、
コミュニケーションを円滑にする目的で役割を『演じている』にすぎない。
「俺からはロボットの身体が邪魔で見えなかったが、
お前が、あの時上から跳びかかってきて潜り込んだから、
風邪の菌を退治する時と同じ原理で不調だったんだな。
迂闊だったぜ。
心霊治療なんかやっちまって、お前が活性化したってとこか」
殺虫剤が人体にまで悪影響を与えるのとは真逆。
同じ身体に入っていた魂は等しく活性化するというわけだ。
<それってつまり…わ、私のせいでマリアが………>
「バァーカ!元を正せば、ロボットが勝手な真似したからなんだよ。
このバカがこれから俺と殴り合って、ロボットが粉々にぶっ壊れても、
自業自得の因果応報ってェんだぜ。そういうのはよ。
だいたいこのポンコツは今まで
どん……ッだけバラバラになっても甦ってきたんだ。
気にするほどのこっちゃねェ。ちょーどいい機会だぜ。
ピートとは闘りあったことがあるが、こいつはまだだ。
どんぐらい叩いたらぶっ壊れるか、いっちょ試してみるかぁ」
雪之丞が躊躇いなくマリアに殴りかかったのは、
別に冷酷な判断でも悲壮な決意でもなかった。
今までの傾向からいって、どんなに破損させても
またぞろすぐ直るだろうと楽観してただけである。
「言っとくけど、なにをどうやっても、あたしだけを祓うのは不可能よ。
こいつの魂には強さは感じたけど、『色』ってものがなかったの。
身体に潜り込んだと同時に、あっさり魂をあたしの一部として取り込めた。
心も、経験も、全部あたしがもらった。それで、貴方はどうするつもり?」
「どっちにしてもほっといたら敵だろ?なら答えは一つさ」
「両腕が使えるようになったから、さっきのようにはいかない」
「口で言うなよ。強がりにしか聞こえないぜ」
攻撃的な笑みを浮かべ、再び霊波砲をチャージし始める雪之丞。
さしあたって、雪之丞にできる対マリア用の戦術はこれ一つのみ。
「ましてや、今度は貴方の左腕、やばいんじゃない?」
さきほど、雪之丞の左肘に打ち込んだ打突。
彼女は、機械の拳を通して、確かな手応えを感じていた。
「隠すつもりも、必要もねェな。右手がありゃ、ブン殴るのには困らねェ」
臆面もなく――というより、心底そう信じてる様子で――言う。
「貴方ってアッタマ悪過ぎ――だけど、手に入れた記憶で知ってるわ。
貴方のイ・イ・ト・コ・ロ。お姉さん嫌いじゃないわよ、貴方のこと」
「ふざけろよ?趣味じゃねーよ。弱い女なんか」
「そこよ。他人を強いか弱いかでしか評価しないとこ。モロ好み」
「強くないと――ママと同じ匂いがしねーからな」
「………?」
「テメーは、一度死んでるんだ。それは弱いってことなんだよ。
弱い奴は何度やったって死ぬ。俺は、生きてる。強いから生きてられる。
弱い奴には殺せねェ。戦う前から勝負はついてる。
だが、それじゃあテメーも納得できねェだろう。いいぜ。来な。
納得もクソも、自縛も成仏もない完全消滅で決着してやるよ」
「先手をくれるの?大物気取りね。最高よ!!」
ズギャッ
ボディの頑健さを頼みに、まっすぐ跳びかかって来る彼女。
雪之丞は霊波砲を――まだ撃たない。
「ビビッちゃったの!?」
格闘の間合いまで入った彼女は、狂喜混じりに尋ねる。
――いーや?こっからだぜ。
タッ
雪之丞も前に踏み出し、二人は完全に密着する。
「ク……ッ!?」
そのままでは攻撃も防御もできない。彼女のほうが身を離す。
ギュアゥッ
追従するように、雪之丞は飛び蹴りを放つ。
後退中に受ければ転倒するのは間違いない。
彼女は右腕で払いつつ、進行方向を左に寄せる。
さきほどの闘いで、雪之丞のスピードは身をもって体感した。
普通に回避することなど速過ぎて不可能だし、
防御するにも、やはり圧倒的スピードで手数に圧される。
ならば、全力で回避するその動きをフォローする程度の防御。
これならばこちらの防御の手数も増える。いや、違う。
連続攻撃などさせない。多少食らっても、強引に反撃を割り込む。
ブォッ、バシュッ
左の鉄拳が雪之丞に迫ったが、雪之丞もそれに備えていた。
霊波砲を解き放ち、拳打に真正面からぶつけて勢いを相殺する!
相手の攻撃は初動で封殺した。
防御や回避をするいとまを、これですべて攻撃に使える。
これが、今回の雪之丞とっておきの必勝パターン。絶対攻撃という発想法。
「あめェ、つわなかったかよッ!?」
ゴヅッ
雪之丞のカウンターパンチが、彼女の顔面に容赦なく激突する。
そのまま、その鋼鉄の体躯は大きく後方へ吹き飛んだ。

つづく

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa