ザ・グレート・展開予測ショー

夏緑陰


投稿者名:kort
投稿日時:(02/ 7/17)

言葉通りの降るような蝉しぐれが、あたりに静けさを作っている。

よく言えば時代を感じさせる、悪く言えば古びた寺の裏手の墓地。
山の中であるからだろう、周りは背の高い木々に囲まれていた。墓地は
その緑陰に覆われ、あまり暑さを感じない。
ここでは、きらきらとこぼれる木漏れ日だけが今日の暑さを伝えている。

お盆の時期である。
「ここ、昼間はいいんだけどさ――、」
帽子をぬぎながら早苗が切り出す。緑陰が濃いから必要ないのだ。降って
くる蝉の声に混じって、涼風が通り抜けて行く。
「夜になるとめちゃめちゃ怖いんだべ。いかにも出そう、っていうか、
出て当然っていう感じなんだべよ。」
「へぇ…!」
「そういえば、肝試しで泣きながら帰ってきてたねぇ。」
おキヌが相槌を打ち、義母が昔話を披露した。子供の頃の話でねか、と
焦って早苗。
手にしている花束を持ち直すと、言い訳するように言う。

「大体、言い出しっぺのやつらは墓地に入ろうともしなかったがらな!
ちゃんと一周できたのはわたすだけだ!」
「いいだしっぺのやつらって…」
「小学校のクラスの男子だ。」
さ、さすがおねえちゃん、とおキヌ。自分だったら……、
―――ゴーストスイーパーが、墓地を泣くほど怖がる訳がない。
(あ、でも冥子さんだったら泣いちゃうかも…)
なんとなく想像できる。泣く冥子と、暴走する式神と、止めようとする
美神と、逃げ回る自分たち。思わずくすりと笑ってしまったが、実際に
起こったら笑い事ではない、だろう。
(お墓が壊れて…大赤字騒ぎになるよね。)
「おキヌちゃん?」
「え、あ、ごめん。ちょっと、思い出し笑いなの。」

「さ、肝試しの話はそれくらいにしなさい。」
聞き役に徹していた義父は、笑って言うとある墓の前に手桶を置いた。
この墓地のなかでも立派なその墓には、『氷室家の墓』と刻まれている。
「ここが、我が家のお墓よ、」
おキヌ、と呼びかけられて、おキヌはこくんと頷いた。


おキヌは氷室家と血縁はない。だが、縁はある。
養子として引き取られた、というのも縁の一つだろう。そして、もう一つ
は…。

――まさか、同じお墓に入れるなんて思いませんでした、姫様。
遠い、氷室家の最初のご先祖。それはあの道士であり、女華姫だ。

墓石に清水をかけて、綺麗にする。
さぁ、と促されて、娘たちは花をいけた。早苗の持ってきたのは菊。一方
おキヌが持ってきたのは白い花。花屋を回ったがみつからず、結局おキヌの
記憶をたぐって、咲いているところで摘んできた。
女華姫が好きだったという花。
「ちょっと、ばらんすが悪いかなぁ…。」
左右それぞれにいけられた花を見ながらおキヌが呟く。
白い花は背が低いのである。
「気にすることないんでないの?黄色と白で、色はきれいだしな。」
「そうね、そんなに変ではないわよ。」
姉と母に言われて、おキヌも納得した。

それから、家族揃ってお墓に手を合わせる。こういう場合、なんて念じれば
いいのか分からない、と言っていた早苗も、真面目な顔で手を合わせている。
そして、おキヌはふと思い出していた。初めて姫にあったときのことを。
(びっくりしたなぁ、あのとき。)
小さく微笑む。だって、突然出てきたんだもの。

(……姫、姫は―――)
『姫君』という、女性にとっては最上の地位を捨てて。
(見守ってくれてたんですね…。)
気付くのも、お礼を言うのも、随分遅れてしまったけれど。
もうきっと成仏して転生して、ここにはいないだろうけれど。
(ありがとうございます、姫様…)
ずっと、そばにいてくれていた事に。


「さ、そろそろ行こうか。」
父の言葉に、全員が腰を上げた。
一番最後に立ち上がったおキヌに、姉が笑いかける。
駐車場へと向かいながら、おキヌは一度振り向いた。墓石と、白と黄色
の花は、木漏れ日をうけて少し眩しい。おキヌはとびきりの笑顔を見せ
ると、家族の方へと駆けていった。

―――――――――――――――――――――――――
変な話ですみません……(泣)。やたらと長いし…。
お盆も近いことだしと思って書いたんですけど、
きゅうりの馬がどーした、なすの牛がどーした、
って話の方がよかったかも。ていうか題名が…。

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