ザ・グレート・展開予測ショー

王将!?


投稿者名:居辺
投稿日時:(02/ 7/16)

 ビシッ!
「あっ!」
 美神の唇が歪んで、小さく悲鳴が漏れた。
 ピシッ!
 ピシッ!
「あぁ、そんな……」
 こんな筈じゃなかった。
 ピシッ!
 ピシッ!
「ちょっ、ちょっと待ってよ」
「だめっすよ、美神さん」
 横島は取り合ってくれない。美神は絶望が胸の中で、広がって行くのを感じた。
 ピシッ!
 ピシッ!
「……横島のくせに……」
「そろそろ、負けを認めたらどうですか?」
 美神の目には涙が滲んでいた。

「後5手で詰みですよ」
 美神の手は握り締められ、ブルブルと震えていた。
「何やってるんです?」
 後からおキヌがのぞき込んでくる。
「あぁ、将棋ですか」
 で、どっちが勝ってるんですか。と言いかけて、おキヌは凍りついた。
 盤面は横島の圧倒的優勢。美神は涙を流さんばかりに怒っている。あの真っ赤な顔は最高級に怒っているときの顔だ。
 おキヌは後ずさりすると、何事か思い出したかのように部屋を出て行った。

「もうそろそろ、諦めたほうが良いっスよ、美神さん。この勝負、俺の勝ちっス」
「うっさいわね!! 今考えてんじゃない! 絶対ここから大逆転して見せるから、黙ってみてなさい!」
「無理ですって。浪速の天才少年棋士と言われた、俺に勝てる訳ないじゃないっスか」
 美神の顔色が変わった。
「あんた、それを隠してあたしに将棋勝負を挑んだわけ? 上等じゃない!!」
 美神は手近にあった神通棍を振り上げた。
「それ、振り下ろしたら、美神さんの負け、決定っスよ」
 横島の冷静な指摘が飛ぶ。
 美神は無言で神通棍を投げ捨てた。それは部屋の隅で乾いた音を立てた。

「……勝負は勝てば良い。って言ったのは美神さんじゃないスか。俺は美神さんに勝てそうな方法で勝負を挑んだだけっス」
「……嫌よ。…何で…、何で、あんたに令子さんなんて呼ばれなきゃなんないの」
 美神の瞳から、涙がひとすじこぼれ落ちた。
 追いつめすぎたかもしれない。横島はそう思ったが、後には引けなかった。これは長い長い計画の最初の一歩に過ぎないのだから。
「美神さんのお母さんを、プライベートの時まで隊長と、呼ぶわけには行かないでしょう? 美神さんって呼んだら二人が揃ってるときにややこしいし。美智恵さんじゃ失礼だし。お義母さんじゃもっとね」
「あ、当たり前でしょ!! あんたのお母さんじゃないんだから」
「だから、令子さんなんスよ」

 美神はそれきり黙り込んでしまった。横島はしばらくそれに付き合ったあと、踏ん切りを付けさせるために、いったん席を外すことにした。
「美神さん、俺トイレ行って来るっス」
 美神は黙ったまま盤面を見つめている。
「おっと、その前に」
 横島はポラロイドカメラをとり出した。
「ちょっと、なんのつもり?」
 美神が立ち上がる。
「保険っス」
 と盤面を撮影する。
「居ない間に悪戯しないで下さいよ。令子さん」
「その呼び方はまだ早い!!」
 横島は美神が投げつけるクッションを避けて部屋を出た。

 残された美神は、この窮地を逃れる方法を探していた。
 横島が席を外すと言ったときには、チャンスが来たと思った。居ない間にコマを動かしてやろうと思ったのだ。
 ところが、横島はこともあろうに盤面全体を、写真に撮って行ってしまった。
 横島は令子の教えを実践してるだけだ。それが余計に腹立たしい。
 このままでは、横島に「令子さん」と呼ばれなければならなくなる。
 嫌だ、それだけは嫌だ。何故かは自分でも良く分からないが、どうしても嫌だ。
 どうしよう?
 どうすればいい?
 どうすれば……?

 部屋に戻ってきた横島は、美神がにこにこと笑いながら、さっきとは反対側に座っているのを発見した。
「へ?」
「あんたの番よ」
 美神が向かいの席を手で示す。
「美神さん?」
「勝負は勝てば良い。その通りよね」
 横島はさっき撮った写真を取り出す。そこには盤面しか写っていなかった。
 どっちが自分で、どっちが美神かどうかを示す証拠は写っていない。
 横島は、自らの遠大な計画が、出鼻を挫かれたことを悟った。
「俺の負けっス」

「じゃ、お仕置きね」
 美神は神通棍を構えた。
「え?」
「あたしを辱めたんだから、当然よね」
「ちょっと、美神さん!?」
「問答無用!!」

 ギャ〜〜〜〜ッッッッ!!!!!!!
 美神除霊事務所に悲しい悲鳴が響いた。

 おしまい

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