ザ・グレート・展開予測ショー

推定無罪! その9


投稿者名:A.SE
投稿日時:(02/ 7/16)

「あーあ、大丈夫かなあシロの奴…一応納得したような顔はしてたけど…。」
 横島が皮の鞄を持って道端に立っている。ここ何日かのバイトにおける恒例の作業である。
「手錠でどっかにつないだり部屋に閉じ込めてドアが開かないようにしたりしたら、かえってアパートぶっ壊して出て行っちまうだけだろうけど…でも部屋から出るなって言うだけじゃまずかったかなあ…。」
 シロの余りの剣幕にこのままでは手におえない事になると思った横島は、今朝少し不義理を感じつつも唐巣神父に電話をかけた。シロを預かってくれる様頼もうと思ったのだが、神父は留守だった。携帯くらい持てよと思いながら、とにかくピートに伝言をたのんだが、少なくとも今日は預ける事ができない。六道家も考えてはみたが、いくら強力な式神を持っているとはいえあの実にのほほんとした母娘では、猛り狂ったシロを「あらー」等と言って見送ってしまいそうだ。Gメンの西条も今は当てに出来ない。だいたい下手にシロを馴染みの薄い場所へ預けても、かえって気が立って危ない事になりそうだった。仕方なく、今日1日一緒に居ようかと思い、厄珍にバイトを休むと連絡したところ、今日は絶対出て来いと言う。シロに今後新聞配りをさせられない以上、横島もここでバイトをクビになるわけにはいかない。だからと言ってシロを仕事に連れては行けず、八方塞りの横島はシロをとにかく説得してアパートに残しておくしかなかった。
「厄珍が時給の値上げに応じたのがせめてもの救いか…。シロ、頼むから大人しくしててくれよ…。」
 横島は厄珍から預かっている鞄を右手左手と落ち着き無く何度も持ち替えた。今日の荷物はいつもより重い。そんな気がするだけなのか、実際重いのかはっきり分からないが、多分本当に重いはずだ。昨日までは鞄を持っていてもそれほど苦痛ではなかったが、今日は腕が痛い。もっとも痛いのはやたら待たされているからでもあったのだが。
「どうなってんだ…昨日までは10分か15分で来たのに今日はもう30分たつぞ…。厄珍がこれで最後だとか言ってたのに、早く取りに来いよ…。」
 横島はぶつぶつ言いながら、いつも受取人がやってくる方向をじっと眺めている。
「ちょっと君。」
 いきなり背後から声がかかった。横島が驚いて振り向くと、妙によれた感じの背広を着た40がらみの男が立っている。一瞬受取人かとおもったが、それにしては背が低いし顔が浅黒い。大体40がらみと分かる事からしておかしい。いつも来る男は年齢不詳なのだ。
「私こういう者なんだがね。」
 男は内ポケットから黒くて四角いものを取り出して見せた。紛う方無き警察手帳である。
「少し聞きたいことがあるんだが、いいかね?」
 やっぱりかーっ!厄珍のやつやっぱりなんかヤバイ事にまき込みやがったなーっ!!横島は一気に血の気が引いた顔を動かしてあたりを見た。いつのまにか左・右・後ろに刑事らしき男が立っている。明らかにただの職務質問ではない。
「な、な、な、なんでしょうっ?!」
「君、最近毎日ここに立ってるね。一体なにしてるのかね?」
「あ、あのっ、バイト先でこの荷物を人に渡す様に言われてましてっ!!」
「バイト先と言うと厄珍堂かね?」
「は、はいっ、そうですっ。あのっ、ボク厄珍にこれを渡すようにいわれてるだけで中身が何かとかゼンゼンしらないんですっ!!」
「それじゃその鞄の中を見せてもらえるかね?」
「ど、どうぞっ。」
「ふむ…あっ、おいっ!!」
 鞄を受け取りかけた刑事が突然鋭い声をあげる。横島はびくりとしたが、その声は横島に向けられたものではなかった。後ろでドカッドサッという何かを跳ね飛ばすような音がした。
 次の瞬間、後ろからいきなりごつい腕が横島の手から鞄をひったくった。黒いコートのそでと青白い手に見覚えがある。いつもの受取人である。同時に腰に腕を回され、横島は抵抗どころか反応する暇も無いうちに軽々と小脇に抱えあげられた。
「きっ貴様っ!!」
 目の前にいる刑事が拳銃を取り出そうと脇へ手を突っ込む。しかしそれよりも早く受取人は鞄を持った腕で刑事を殴り飛ばし、同時に猛ダッシュを開始した。
「待てーっまたんかこのーっ…くそっ!!例の受け渡し現場から当事者二人逃走っ!!こっちは負傷して動けん!持ち場は放棄して追っかけろっ!!」
 頭を打っても正気を保っている頑丈な刑事が無線を引っ張り出して叫ぶ。そうしている間にも人間ばなれした速さで二人はどんどん遠ざかって行く。
「どわーっ!?なんだ!?なんだ!?なんだーっ!!?」
 小脇に抱えられたまま風を切って運ばれる横島がようやく声を上げた。しかし受取人は無反応のまま、前傾姿勢をとり、恐ろしく正確なリズムで足を出してただひたすら爆走する。ひと一人抱えて走っても全く疲れた様子が無かった。鉄の様な腕に拘束された横島は身動きさえできない。
 頭がカクカクゆれるせいで脳の中がシェイクされて思考がまとまらない。この状況が自分に有利なのか不利なのかも分からない。要するにわけがわからなくなっている横島を、受取人は3キロ近く全くスピードを緩めず運搬した。しかし走り出して5分ほどたつと突如として速度が落ち始め、やがて妙にぎこちない歩き方になったあと、最後にはピタリと立ち止まってしまった。
 受取人の体が急にぶるぶると震え始める。同時に手足の関節、首、腰などからもくもくと白煙があがり、鞄と横島は路上に放り出された。
「いでっ!!今度は一体なん…!?」
 ボン!という音とともに、横島の目の前で受取人の巨体が一塊の白煙に変わり、同時にコトリと何かが落ちる音がした。煙がゆっくりと四散したあとには、高さ30センチ程の木の人形がひとつ残っていた。
「し、式神!?」
 横島が起き上がってその人形を拾おうとした時、後ろでばたばたと慌しい足音がした。
「おーいっ!こっちに一人居たぞっ!!」
 ケ、ケーサツ!?横島が危機感を抱いた時には既にもう数人の刑事が周りを取り巻いている。
「こらお前っ!もう一人はどこ行った!?」
「え、あ、ぼ、ボク別に逃げるつもりは…。」
「もう一人はどこ行ったのかと聞いてんだっ!!」
「あ、あれは、し、式神だったんです!ほ、ほらこれっ!」
「何っ式神!?式神というのは確か霊能者が使う鬼の事だな!?さてはお前そんなものを使って逃走をはかったのかっ!!」
「え、いや、そうじゃな…」
「病院行きを4人も出しやがってこのガキャ、覚悟しろっ!!」
「だ、だから違…。」
 へどもどしてまともにしゃべれない横島の右手に問答無用で本物(?)の手錠がかかる。
「公務執行妨害で現行犯逮捕するっ!!」
「む、無実やーっ!!俺が一体なにをしたーっ!?」
 横島の裏返った叫び声が、むなしく夕暮れ近い街に響きわたった。

「ケケケ、実に上手く行ったあるなあ。今ごろ刑事どもはよってたかってボーズと式神を追いかけ回してるある。」。
「これでブツは監視無しで堂々と持ち出せるワケ。」
 厄珍堂店内で、厄珍と若い女がニヤニヤ笑いながら話をしていた。女は横島が見れば喜びそうな色黒の美人だったが、その笑い方は妙に陰湿である。彼女は右手に小さな紙の人形を持っていたが、やがてライターを取り出すと人形に火をつけショーケースの上の灰皿に放りこんだ。
「でも、大丈夫なワケ?横島が捕まってかえって問題が大きくなる事は…?」
「そこんとこは抜かり無いある。ボーズには全然別口で泥をかぶってもらうあるよ。」
「そう…。刑事に戻ってこられるとまずいし、私はもう行くワケ。」
「システムの立ち上げと点検、頼んだあるよ。じーさんにも宜しく言っとくある。」
 女はうなずくと、40センチ角ほどのジュラルミンケースをもって店から出て行った。
 厄珍はそれを見送りながら、まだニヤニヤ笑っていた。

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