ザ・グレート・展開予測ショー

水使い(〜黒炎蛇〜)


投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 7/15)




 
 ー水使いー



 場所は山中。中堅政治屋の別荘の間近。

 自然の恵みのただ中にありながら、今この場には明らかに自然ではありえない禍禍しい黒色炎が燃えさかっていた。

 黒い炎は猛る。
 その炎が幽かに風に揺らぐと、その炎の中心に居ながらにして、僅かな火傷も負っていない様子で微笑む女の姿が、相対する二人の男の瞳に映る。

「なるほど・・・」

 ぼやくように、一人がそう呟く。
 そう呟いてから『彼』はーー・・・脅えきって車内で震える男(雇い主)を一瞥した後に、自分の右横に並んで立つ男に一つの問いを投げかけた。

「あれが例の、噂の呪術師か?」
「そうだ」

 そっけなく、簡潔に、答えは返された。
 真横に立つ男の、その言いようになど関心は涌かないのか、彼はもう一つの『必要事項』の確認をとる。


「殺しは?」
「不可」
「あっそ」

 そう言い終わるより先。ーー滑るように。
 左右両方の袖口から、魔法のようにそこから、2挺の小型自動拳銃が現れた。閃く。
 


 銃声。



 それが重なり、呪術師の体がガクリと地面に崩れ落ちた。



 呪術師の体と地面の隙間から漏れ出た紅い液体が、見る間に広がっていく。



「お、おおぅっ!」
 束の間の静寂が、車のドアの開く音により、破られる。

 心よりの安堵の表情で、車から転げ落ちるように『雇い主様』が飛びだしてきたのだ。

「よ、よくやった! 高い金持ってくだけの泥棒犬などもたまには役にたつ事もあるのだな!」

『・・・・・・』

 予想をして、気恥ずかしいとさえ思えるベタな台詞を、彼らの『雇い主様』はそっくりそのまま声高らかに言い放った。

 その間に彼は、呪術師の急所は避けて、しかし主要な四肢関節を全て破壊した2挺の拳銃をしまいこみはじめた。勿論その間はおろか、それが終わっても『うわべすらない美辞麗句』は止む事なく続けられて・・・

 二人して、皮肉めいた苦笑いを浮かべる。が・・・

「ッっ!?」

 雷にうたれたように、二人の男は全身を強ばらせた。

 幽かに、しかしやがてはっきりと嗅ぎとれる『悪臭』に、二人が同時に振り返る。

 それはブスブスと肉の焦げる匂い。振り向いた先に見えたのは、倒れて意識を失った呪術師の体が、黒い炎に焼かれる姿。

『ひどい事するワケね・・・』

 呪術師の『声』がこだまする。

 それは肉声ではない。念波のように、ある水準以上の霊的な感覚を有する者にしか聴き取れない『声』だ。今この場でその声を聞きとれるのは、『彼』、ただ一人しかいないだろう。

『まさかいきなり、様子見もしないで攻撃してくるとはね』

 炎に灼かれる呪術師を見る。

 見るだけだ。彼は助けようとしない。殺傷を否とした、この護衛の仕事を仲介をしている捜査官の男も、その場を動こうとはしていない。

『良い判断。良い非情っぷり。けれど自分の首を絞めたワケ』

 その声が途切れた瞬間、黒炎の火勢が強まった。

 呪術師の体を瞬く間に灼き尽くし、炎は火柱と・・・いや。

『怨みは炎。そして糧。さぁ、おいで・・・!』











 外皮は黒く揺らめき。

 鱗の一つ一つ、灼熱の。

 その姿は、まさに。






『黒怨蛇』








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