ザ・グレート・展開予測ショー

BOY MEETS A GIRL  その十八 シンデレラの寂寥


投稿者名:魚高
投稿日時:(02/ 7/15)

「ね…ねぇ、張良さん?」
「……。」
「張良さんってば!」
「……はい。何でしょうか……?」
「もう……」
と、半ば呆れたように息をつきながら、タマモは、不思議と違和感を感じていた。
「……結構キツイんだけど……ソッチは、未だ終わらないの…?」
最初よりも空間の範囲を縮め、今は窓に腰掛け、飛ばなくなった分かなり負担が減った筈だ。それにも関わらずタマモの声は震え、呼吸も乱れ初めてはいるものの顔つきだけは真剣そのものだ。
張良は、さゆりの方に翳していた手を一旦戻し、タマモの方に体全体を向けた。
その小さな顔に良くマッチした吊り眼は、しっかりと張良の方を見据えている。
その目つきは、どこか訴えるように張良の心を惹き、また睨むようでもあり張良を怯ませた。
――外から唸るような音が聞こえてきたので、空を見渡すと、遠くの空に飛行機のような物が飛んでいるのを見つけた。
ふと、その時、張良は、タマモから逃げようとしている自分がいる事に気づいた。
普段なら人間の造ったモノなどは興味を惹かないのに……
やはり、あの真剣な目から逃げようとしている……
それを隠すように張良は、微笑み、改めてタマモに眼を移した。
「……コッチは、とっくに終わってますが……“中”は、未だかかりましょう」
「……!? 見れるの……?」
タマモの予想以上の反応に、その場の空気が緩んだことに張良は、安心した。
そして、もったいぶるように「フフ…」と笑って
「興味がお有りのようですな。……良いでしょう。小竜太殿も貴女を信頼しておられた……」
「え? ナニ? 最後の方が良く聞き取れなか――――……」
行きますぞ。と張良が言うと同時にタマモは、自分が頭の中で思い描いていた暗黒の空間が視界に飛び込んでくるのを感じた。
地上では見られない黒い大海原。赤、青、黄色く光る星々……
そして、宇宙空間で真剣な顔で何やら話している竜太と清水……
「……ってゆーか、あの二人、しゃべっているだけなら座れば良いのに……」
タマモは、自分の姿が二人の眼に映らないのを確かめ、自分は宇宙空間に座り込んでしまった。

竜族の期待を一身に背負う剣志。しかし、それ以外は全く不器用な竜太が匠としてここにいる。
匠に人生を変えられて、そして取り残された清水がいる。
胡座をかいて、じぃっと二人の方を食い入るように睨み付けているタマモがいる。
三人の奇妙な組み合わせが『匠』という過去の男に引き寄せられて不思議な空間に存在している。
そして、そのキッカケをつくったのは………


張良は、声を漏らさないようにしてクククと笑い、窓の外に眼を移した。
何気なく眺めているだけだと、最初は思っていたのだが、その内、無意識に飛行機を探している自分に気づき、ハッと息を呑んだ。
そして、またも自分の以外な行動に恥じた。
2・3秒だが、眼を閉じ、落ち着くと、ある事実に辿り着いた。
完全に自分は混乱している……
張良は、恐怖に近い感情さえ覚えた。
それを振り切るようにタマモに眼を向けた。しかし、こんな些細なことにも“彼女”が関わると勇気を振り絞る必要がある。
幸い、張良の目に映った“彼女”は、目を閉じ、精神のみ仮想世界に存在している為、ある種の抜け殻だった。
そして、その抜け殻に、今は安堵すら覚える……。
張良は、タマモの方に静かに歩み寄り、タマモの額より少し離して手を翳した。
彼のいろいろな疑問が、一見して無意味な行為により取り除かれ、彼の心は再び落ち着き、澄み渡った。
そして……
「私も随分と悪趣味でしたな……」と、独り言のように呟くのであった。


―――― シンデレラの寂寥 〜かぼちゃの馬車〜 ――――



彼は自分に、正直でありたいと思っていたが、別に嘘を吐かない訳ではなかった。
………いや、それどころかよく吐くほうだった。
しかし、彼の言葉に悪どいものは生まれなかった。悪くても子供地味た悪戯程度のものだった。
いや、むしろ真実よりも善良だったかもしれない。

彼は、自分に正直なのだ。彼は、人を傷つけるのを何よりも嫌った。
そのため、彼が吐くのは優しい嘘だった。それは、子供の夢を壊さないように努力する親のものであり、治る見込みの無い患者に対する医者の言葉と同じであった。

彼は、人を幸せにしたかった。幸い、彼の言葉は、誰にでも通じた。
彼は自分の発した言葉が種族を超えて――動物にさえも―――コミュニケーションがとれるという『能力』で人を幸せにすることができると信じていた。
――この能力は、神族の力の片鱗であり、『霊力のこもった言葉は種族を超えて通じる』ということを匠は知らない。知る必要は無い。
それは、特殊な使命感からではない。それが、自分にできる唯一の恩返しだと思っていた。
誰に?
別にそんなことはどうでも良い。
人が苦しんでいると自分も嫌だ。
人が笑うと自分も嬉しい。
人が傷つくことは自分が傷つく何倍も苦しい。傷つけたくない!
――その点、彼は積極的だった。
傷つけるのを恐れ、人に接するのを恐れることは無かった。

(彼は、しかも頭と顔が特に良く、道を歩けばギャルの黄色い声援を一身に……。)
(……なんか、話の中で妙に良い男が出演しているのだが……?)
(……。)
(…まぁ、良い。続きを頼む)

(五月になったからと言って大した変化はありませんでした。ただ、違ってきたのは―――……。)
(ただ?)
(ハイ。俺が子供たちを脅かすことに何か面白いモノを見つけたということでした。)
(……………)
(あれ?どうかしました??)
(それは、話に関係あるのかな?)
(……。)
(どうした?)
(…続きを話ましょう。)
(……って、オイ!)

施設に怪談が流行りだした。広めたのは言うまでもなく匠である。
彼は、霊に関する知識は人以上にあったが霊能力―――攻撃的なものはなかった。有るといえば、言葉そのものに霊力が自然に乗っかってしまう為に種族を超えてコミュニケーションが成立することくらいだろうか。しかし、彼の弁舌……子供に喜ばれる口調が幸いし彼は怪談を通して身近な『霊』への対策を子供たちに教えた。
その一つに日本でも知られているものも多くあった。一例を挙げると、「夜に口笛を吹くと――出てくるのは蛇だけじゃない」「嘘吐きはドロボウの始まり。これは、確かに教訓の意味が大部分だが真の意味は――……」と、まあこんなものが多かった。
話は、変わるが、ある暑い1日の出来事だった。

「でぇ〜とぅえ〜〜ッッ!!………………………………(溜め)。クぅエェーーーーーッ!!」
雄鶏もビックリの鳴き声……もとい、怒鳴り声だ。
今日も、ここが日本ならば蝉が黙っちゃいないほど暑いというのに“いつもの”怒鳴り声が空気そのものに響き渡る。
しかも、“あの”第一印象バッチリの院長が、“あの”匠にである。
「子供たちと、『泥合戦』ですって?道理で昼過ぎから村の方が騒がしいと思っていたら……」
「……?騒がしかった……?」
「とにかく!全員が全員、茶色に染まって帰ってくるとは何事です!!」
「ウワーッハッハッハ!!一対三十余人が引き分けですよ。スゴイもんだろ!」
ヤケクソ気味(というか思いっきりヤケクソだが)そう言い放つと、匠は、またもガハハと笑い出す。
図体のデカイ彼に似合う豪快な笑いだが、しかし乾いた笑いである。
院長は、それを難なく遮り彼を洗濯するように“勧めた”。
実際、彼自身、被害がもの凄く、十秒ごとに泥が袖から滴り落ちる。
「清らかなる河の水で頭を冷やして来なさいッ!」
がんっっっっっっっっっっ!
と激しく院長にフライパンで“頭”を“押され”、匠は体の洗濯に向かった。


「医者を?」
医者を紹介して下さい。
その唐突な質問に匠は、水で濡れたままの顔をさゆりの方へ向けた。顔を洗っているところだったのだ。
匠のボサボサの頭が輪をかけてひどくなり服の至る所が泥で汚れていた。
子供たちと一緒に遊ぶとついエスカレートしすぎ洗濯しなければならない場所は服や顔に留まらない。
これから着替えて『泥合戦』の後始末をつけに村中を掃除しなければならない。
始めた時は、施設だけが戦場だったのだが『子供連合』の30余人に対したった一人で果敢に応戦していた匠だったが、流石に勝ち目が無いと見えて村の中心部まで逃げ込み二十分ほど潜み、そして一人一人を確実に始末していく方法――ゲリラ戦を展開したのだった。おかげで勝負がつくのに丸一日かかった。
「何故ですか?まさか……」
「いえ。匠さんは、あくまで手加減してくれたのよね?大丈夫よ〜。破傷風になったってそのくらいの医療設備は二時間ほどかければブノンペンに整ってるし、村はアスファルトじゃないから転んでも打撲が良いところだし…」
嫌味をたっぷり効かせたさゆりの笑顔は異常な迫力が混じっていたが匠は、どこか安心する場所を見つけた気持ちがした。
匠は、さゆりからタオルを受け取りながら
「ハハ……。じゃあ、何故?」
暫しの沈黙があった。その時は別に重苦しい雰囲気も感じられず、興味はあったのだが何気なく聞いていた。
「……今は、その子だけ、しかたなしに……その…隔離のような形をとっているんだけど…」
感染病。
匠は、一瞬でそう判断した。――そう判断せざるを得なかった。
「今は…無理です……。でも、俺が責任をもって看病します!そこに案内してください!」
ここで使わず何の知識だ!一人の為に死ぬきはないが、仕方ない。そうなるかもしれない。
しかし、必ずやってみせる天下万民を救わんたる者がたった一人救えなければそれはそれで、俺がそれまでだったということよ。
天命だったと諦めるまでよ!
「フフフ…しかし、あわよくば……(妄想中)
キャー♪たくみ、どうしよ〜〜う〜〜〜ッ!!」
「あの……でも、医者じゃなくても良いのか解らないんだけど……とにかく大変なの」
「おひょひょひょ!♪(←笑い声)でも、未だ、たくみってば24だ〜しぃ……ん?何か言いましたか?」
これまた、仮想世界にある匠の意識を取り戻したのは、さゆりの詳しい説明であった。
そして、匠は、その予想がハズれていたことを告げられる。

                   つづ……けられるかな?(←自信なし)

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