ザ・グレート・展開予測ショー

livelymotion【プログラム5:「ジ・インナー」】


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 7/15)

「フィールド未作動……バグ・仮呼称・『悪霊』が・混入した・疑い…
エラーチェック…警告。『マリア』は既にコミュニケーションモードを
ハックされた可能性があり、エラーチェックの結果を正確に
報告しない場合が考えられます。新規のメタ・ソウル換装を推奨」
雪之丞には半分も理解できなかった。ただ、漠然と思う。
――ほらな。俺を守ったりしたからだ。
彼の心は、彼自身が苛立たしいぐらい穏やかだった。

その頃の横島とカオス。
「粗茶ですがどーぞ」
スーツ男が、盆を持ってくる。お茶請けは煎餅だった。
「らっき♪やっぱこっちの当番でよかったぜ」
「若いにしてはなかなかどうして、よく気が利くのぉ」
「はぁ。あ、いえ、お茶を淹れたのは兄さんですから」
言いつつテキパキと縁側に座布団を並べる。
「どれどれ?お!ぽたぽた焼きじゃんか!!懐かしいぃ」
「ん?なんじゃそりゃ」
「おばあちゃんのぽたぽた焼き、っつってな。
砂糖醤油でキャラメルコーンみたいな風味と
サラダ煎餅を厚くしたような独特の食感に
根強いファンがいる銘菓だぜ」
「ほぉ。どらどら、茶請けを食すなら先に茶を啜るのが礼儀じゃて」
ずつっ
「ん。こりゃなんか良いお茶だな。嫌味な苦さが全くない」
「そりゃあ違うな。どんな上等な茶だろうと、苦さを抑えるのは
淹れる時のウデじゃ。ここの住職とやらは美食家なんじゃろう」
平和なひとときを愉しんでいた。
閑話休題シリーズVol1「その頃の横島とカオス」了。

キヌは落とした笛を探す手を止めた。異常事態を悟って。叫ぶ。
「雪之丞さん!マリアは!?」
「ガタつくな!どうせちょっとけつまづいただけだろうよ」
「そんな風には見えません」
「うるせーな!
なんでどいつもこいつも自分の心配より先に他人の心配すんだよ!?
お前のほうにだってじきにホネどもが行くぞ」
「雪之丞さん、一旦戻ってきてください。マリアの様子確かめないと」
「………なんだと?」
「え?だから、マリアを連れて……」
「退かせるのか?俺を!テメー何様だ!!?」
猛る。本心ではキヌと同じ気持ちだが、事情はそれほど単純ではない。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう?」
「そんなことが一番大事なんだよ!
今退くと、見逃しちまう。ロボットをぶったたいてった奴だ」
「それが、どうしたんですか?」
普段の彼女からは考えられない、強い語気を込めて、言う。
「やり返すに決まってんだろが!
こいつはバカだから、わざわざ自分から攻撃くらいにいったんだよ。
だが、バカを哀れむ気持ちなんぞねーが、それで
あいつが『俺は強い』なんぞとくだらねー妄想でいきがるのは、
本当に強い俺からしたら無性に腹が立つぜ」
「……本気じゃないですよね?」
雪之丞はありったけの力で拳を握り、
「この状況で冗談言えるほどのクズに見えるか?」
それをまたさらに強く握りなおす。
「そんなのマリアが可哀相です!お願いだから戻って!!」
「守りに入れってのか…この俺に……」
死ねといわれてるに等しい不快感。
自分の提案が何の生産性もないことは、よく解っているが。
納得できない。それだけでは、理屈だけでは人の心は変えられない。
「二度三度なんて言いません。一回でいいんです」
ひた、と静かに告げる。妙に存在感のある一言。
「…………チィ…ッ!
足手まといを置いて来たら、残さず殺すからな。ホネヤローども!!」
ザンッ
200kgを抱えて、墓石の上を伝ってぴょんぴょん跳ねて移動する。
そして、繰り返す。
「解ったか!?一匹残らず、全部まとめて、だッ!!」
着地の時に、止まらないよう意識して、重心が
足元ではなく前方にかかる着地。
スケルトンが殴りかかるには、少しばかり高い足場である。
キヌのもとにたどり着いたときにも、結局足音は立たなかった。
「それで、どーする?」
「もう少し距離をとりましょう。
心霊治療をするにも、敵の勢力圏内じゃあ……」
「おいおいもっと逃げんのかよ!笛は拾ったか?」
「一回は一回ですよ。笛なんかマリアには代えられません」
言われて、マリアを見る。
「言っておくぜ。助けられたのなんか、借りでもなんでもねェ。
お前の自己満足に付き合わされて、このままくたばられんのは夢見が悪ィ。
だから助けてやるだけだ。次こんなメーワクなマネしたら、ぶっとばすぞ。
………それにしても、あんな奴らに追い立てられんのはシャクだな」
「解ってます。でも反撃するなら、三人で行きましょう」
「よし。そいつが聞ければ充分だ。今はとことん逃げるぜ!」
その言葉が言い終わらぬ内に、雪之丞はキヌをひょい、と片手で抱える。
「ひゃ!?」
「だが、逃げるったって、どこまでも、ってんなら賛成しねーぞ」
「それは私も同じ気持ちです。
私達は、除霊そのものを諦めたわけじゃありません。
この旧墓地の敷地からは一歩も出ませんよ」
「そのとおりだぜ。へん!どーしたぁ?お前が俺と気が合うなんてよ」
「骸骨には知性がありました。なら、彼らはどんな作戦を選ぶか…
セオリーどおりなら、多分、あそこにとどまって、私達を迎え撃ちます。
あそこには笛を置いてきてしまっていますから、あれを抑えれば
彼らにしてみれば敵の数が実質3分の2になるわけですし
追撃するよりも腰を据えたほうが数の有利をより生かせるんです」
つまり、そう大げさな距離をおかなくとも、追撃は来ない。
「おい!?まさか追っ手を封じるためにわざと笛を拾わなかったのか?」
「えへへ。
あ、でも先に言っておきますけど、学校で習った事じゃありませんよ」
「ったりめーだ。
どこのボンクラ学校でも、そんなワリにあわねーマネさせっかよ」
「吹いて成仏させてしまうべきかどうか悩んだんですけど、
ロコツに手を伸ばしたら彼らにマークされてしまうでしょう?
ジャックランタンとかに抵抗されてピンチになった事あったんで
いちかばちかの賭けになりますから、先にマリアの回収を」
「お前もとことんバカだな。仲間じゃなくて競争相手だっつーのに」
「仲間でいいじゃないですか。
みんなで依頼を果たして、結果的に誰が儲かったって」
言われて、雪之丞はまともに言葉を詰まらせる。
確かに、この勝負、依頼を成功させるのが前提条件である。
そして、彼らの当初の想定より、はるかに苦戦している。
こうなると、雪之丞が当初考えていた『矢は前から
飛んでくるとは限らないぜ』攻撃どころではなく、敗走もありうる。
「………まぁ、足引っ張り合いながら戦う、ってーのも
メンドクセー話ではあるよな、実際。
けどよ、カネの話は抜きにしても、俺は俺流にしか戦えねェぜ?」
「そんなのみんな同じですよ。私も…………マリアも。
それで今こーなってるんじゃないですか。違いました?」
違わない。雪之丞が無策に攻め、マリアがそれを庇って倒れ、
キヌは除霊よりもマリアの救助に重きをおいた。
これらはそれぞれにマニュアルどおりの除霊には程遠い。
「なら、自分にできることを、それぞれで、
みんなのためにするんです。巧く言えませんけど。
それが私達に出せる最強のチカラだと思います」
雪之丞は、答えられずにいた。
彼女らは簡単に言う。力を合わせる、と。当然だろう。簡単だ。
しかし、自分は?守る戦いや、救う戦いは、「誰か」を意識している。
自分だけが違う。自分だけが、対象の「誰か」など見えてはいない。
ただ壊すだけだ。自分の力は、決して味方へは向わない。
「………そう、だな。お前は強いよ。あの骨が言ってたぜ。
強さにも色々ある、ってよ。でも多分、今のお前みたいに、
説明できない強さ、って、どんな強さで抗っても勝てねェぜ」
「私の強さ…やっぱりよく解りません。ただ、私達は強いです。
だって、雪之丞さんが負けるトコなんて、私には想像できないな」
くすっ、と笑うのが聞こえる。彼女には懸念は無いのだ。
三つのピースのうち一つが、すでにそれだけで完成していることに。
ピースとしては致命的な欠陥である。
「……ロボット…もしもヒーリングで治らなかったなら………」
「え?」
「…治らなかったら、ぶったたきゃあいいさ。なぁに、きっと直る!!」
景気よく叫び、そこで足を止めて二人を降ろした。
キヌは無言で、倒れたマリアに両の手をかざす。
淡く、蒼く、そして晧い光がほのかにともる。
倒れたマリアは服の背中を完全に炭化させており、
ぼろぼろと剥がれ落ちて、彼女のボディの金属の光沢を覗かせる。
それを見ると、らしくもなくイライラする。雪之丞は背を向けた。

『それ』の右手に喉を掴まれて、声が出せない。
とりたてて重いほうではないと信じたいけれど、いくらなんでも、
人に片手で持ち上げられるほど華奢な体躯をした覚えは無い。
それだけに、『それ』は私の知ってる『彼女』のハズ…だと思う。
それと、首に全体重の負荷が集まったら、多分死ぬ。そう思う。
つまり、殺されかけてる。彼女に。あぁ、でもよく解らない。
なんで殺されるんだろう……考えるだけ無駄かな。
人が死ぬのに理由なんて要らないもの。
人が生きるのに理由が要らないんだから。
当たり前に生きて、当たり前に死ぬ。でも、なんで殺すのかな。
生きるのも自然。死ぬのも自然。だけど殺すのって、つらいと思う。
つらいこと、哀しいことは、多分ダメだよ。もう頭も巧く働かないけど。
とりあえずよく解るのは、首を絞められるというのは苦しい。
それは息ができないだけじゃなくって。
かといって血管がどうのこうのとかの頭でっかちなことでもなくて。
なんだか喉の壁と壁がこすれあってるみたいな。
そう、なんだか肉感的な気持ち悪さ。水っぽい嫌悪感。
あと、とにかく怖い。このままなら死ぬんだなって思うと、やっぱりね。
慣れないよ。良い事だか悪い事だかよく解らないけれど。
――死、ってね。――

<ぷはぁッ!?>
不意に背中でそんな声があがり、雪之丞は反射的に首をひねった。
「な…なにやってんだ、テメーら!?」
キヌの幽体と、
抜け殻になったキヌの首根っこを掴んでるマリアを交互に見て言った。
<なにされたんでしょう?
血の巡りが悪くなってるせいか、頭くらくらしてよく解りません>
雪之丞は自然体で、しかし間合いは適度に取って、向かい合った。
マリアの姿――いや、確かにマリア本人でありながら、別の何者かである相手と。
もっともそれは、雪之丞の推測があたっていれば、の話だが。

つづく

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