ザ・グレート・展開予測ショー

推定無罪! その8


投稿者名:A.SE
投稿日時:(02/ 7/15)

「正直言って、脱税に関する限り彼女は明らかに有罪ですよ。」
 弁護士が、右上で留められた分厚い書類をめくりながら言った。
「裏帳簿まで押収されてしまいましたから…。複雑な暗号帳簿にしてあったそうですからいまのところ検察側も内容までは分かってないはずですが、向こうもプロですからね、解読されるのは時間の問題でしょう。」
「脱税ですか…。美神君…。」
 唐巣神父がひきつった苦笑いを浮かべながらつぶやく。
「他の件に関しては何とかできると思いますが、この脱税は起訴されてしまえばお終いでしょうね。とにかく証拠が揃いすぎてて弁護のしようがない。」
「しかしそれでは…」
「もちろん、それでは済まされませんよ、それはわかってます。私には毎日上から何とかしろと矢の催促です。しかし、上が言ってるのは選挙に影響しない様にしろと言う意味であって、美神令子を助けろという意味ではないんです。」
「つまり美神君を切り捨てろと?」
「状況によってはそれもありうると言う事、それに美神さんが社会的信用を失うのは避けられない、ということです。とにかくこの件がこれ以上協会や党と関連づけて考えられるのはまずいんですよ。下手な抵抗で目立つよりもここは慎重に、という理屈で今のところ上は納得してますが、宙ぶらりんの悪影響が大きくなり始めた場合、党はバッサリいけと言う可能性が高い。協会選任の形にはなってますが、実質私は党に動かされてますからね。協会の代表であるあなたの意見を尊重したいのは山々ですが、やはり…。」
 弁護士は苦い顔で最後を濁す。唐巣神父は黙ったまま深刻な表情で渡された書類をめくっている。しばらく沈黙が続いた後、弁護士が軽いため息をついてから、低い声で言った。
「まあ、唐巣さんには個人的にお世話になった事もあるし、ここだけの話しと言う事でお教えしますがね、どうも上の一部、はっきり言えば叔父貴が独断でなにか国自党と政治取引を目論んでるらしいんですよ。」
「鴫ノ池さんが?美神君のことでですか?」
 唐巣が顔を上げて同じく低い声で聞き返す。
「ええ。まだ材料を集めてる段階の様なんですが、どうもそのためには美神さんに検察で拘留されててもらわないとまずいらしいんです。」
「しかし…?普通に考えれば美神君が捕まっていると取引に不利なはずでは…?」
「そのはずなんですがね…そこが私にも分からんところです。とにかくその取引が成功すれば、美神さんの事も一緒に解決してしまう可能性が高いらしいんですが、もし失敗したらその時は…バッサリと言う事のようです。」
「党の策謀が上手く行けば全て解決、失敗すれば破滅…。他力本願のきらいな美神君が聞いたら頭をかきむしって怒るだろうが…いまのところそれしか希望はないわけか…。」
「もしこの後何もなければ上手く行くでしょう。こと政治策謀に関する限り叔父貴は当代一ですからね。問題なのはもしなにか予想外の事態が起こった場合、話しがどう転ぶかですよ。特に他に逮捕者がでたりスキャンダルが起こってしまったら、もう美神さんにはかまっていられなくなるでしょう。そうならない事を祈るほかありませんよ。」
「なにも起こらなければ…か。」
 唐巣神父は額に手を当て、苦々しげつぶやいた。やはり彼らに詳しい話しをしたのは失敗だったか…。いまやどこでいつ問題を起こしてもおかしくない美神事務所の4人が、唐巣の頭の中で跳ね回っていた。

「いいかシロ、お前は勘違いしてるんだっ!」
 横島がどうしようもなくなった時の叫び声と同質の甲高い怒声をあげ、右手を大仰に動かしてジェスチャーする。  
「何がでござる?どこがでござる?どーしてでござる?」
 シロも負けじとわめいて左手を振回す。左手なのは、右手が横島の左手と手錠で繋がっているからである。これは別に逮捕されたとか言うわけではなく、シロが飛び出して行かない様に、横島が以前美神事務所からくすねてきていた手錠をかけたのだ。
「唐巣のおっさんはな、国自党が悪いなんてことは一言もいってねえんだっ!俺の説明が悪かったのかもしれんが、国自党のやった事は危なくなりゃどこの政党だってやるフツーの作戦なんだよ!」
「じゃあ一体誰が悪いのでござるか?!」
「だから、誰が悪いとか良いとか言う問題じゃねえんだよ!政治ってのはそう言うもんなんだ!」
「それならどーして美神どのなのでござる!?どーして美神殿が捕まるのでござる!?」
「そりゃ美神さんが捕まるよーな事してたからだ!狼の群れ同士がナワバリ争って怪我する奴が出たのとおんなじだ!威勢良く暴れてた奴ほど怪我しやすいんだっ!!」
「ナワバリってなんでござる!?どこの山を取り合ってるというのでござる!?」
「お前何にもわかってねーな?この国だよ!この日本取り合いしてんだよ!!」
「こんな広い国ナワバリ争いせずに仲良く住み分ければよいでござろうが!!」
「それができねえのが政治ってもんなんだ!国は広くても餌場はひとつ、取ったら渡したくないし、取られたら取り返さずにはおさまらないんだよ!」
「それにしたって怪我した仲間の恨みを晴らすのが何故いけないのでござる?!」
「今がナワバリ争いの正念場だからだよ!!恨み晴らすより餌場とるほうが先決だろうが!!餌さえ手に入れりゃ怪我なんぞすぐ治る!!お前も狼なら集団行動を乱すな!」
「拙者そんな群れに入った覚え無いでござる!」
「覚えが無くてもはいってんだよ!だから唐巣のおっさんがどうしろこうしろって言いに来ただろ!」
「でも先生も唐巣殿の言った通りにしなかったではござらんか!?」
「だーっうるせえ!!師匠の言うことが聞けねーのか!お前弟子は師匠のとこに住みこんで当たり前とか言ってたろうが!だったら弟子は師匠の言う事聞いて当たり前だっ!!」
「免許皆伝にしてもらって今出て行くでござる!!」
「誰が免許皆伝にしてやるなんて言った!?そんなわからん事言ってる限りお前は修行が足りてねえんだ!!」
「それでも拙者行くでござる!!」
「いいかげんにしろっ!!」
 思わず横島はシロの頬をひっぱたいた。基本的には女に手を上げない主義の横島であったが、もうそんな意識など吹っ飛んでしまっていた。そう言う意味で確かにシロは横島の「弟子」なのかもしれない。
「ぐわーっ!!拙者悔しいでござる!!カタキの棲家を知っていながら成敗できんとはーっ!!」
 シロは歯噛みしながら床をたたいて唸る。
「カタキったって別に美神さんが死んじまったわけじゃないんだ。GS協会が何とかしようとしてくれてるし、あの美神さんもそうそう再起不能になったりしねーよ。お前が危ない目をして美神さんが助かるわけじゃないんだ。俺の言う事聞け…。」
 このままじゃ収まりつきそうにないな…。どーしたもんか…。
 そう思いつつ師匠らしくシロの肩を抱いて慰めてやる横島であったが、雑誌仕込みのリクツも交え比較的論理だってシロを説得した割には、当の自分の事には思い至っていないのだった。

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