ザ・グレート・展開予測ショー

【リレー小説】『極楽大作戦・タダオの結婚前夜』(21・終)[エピローグ(後編)]


投稿者名:Iholi
投稿日時:(02/ 7/11)

『どもどもーーーっ! 美神さんにおキヌちゃんっ!』
 人工幽霊とは全く異なる間延びした女性の嬌声に続いて、電気の火花が部屋の中央で激しく渦巻く。やがて湧き上がる煙と閃光の中から出現したのは、派手な模様の付いた繋ぎを着た個性的な女性だった。
 美神とキヌは顔を見合わせた。お互いがお互いを「やっぱり」と云った風情が漂っているのが見て取れる。それは最早、2人だけの真実であった。
 2人して一斉に来訪者を見る。と云うより憮然と睨み付ける。
『……そうそう、今日はね、2人に協力して貰いにきたのよー。 神魔上層部の依頼なんだけど……未来へ飛んで貰えられないかしら?』
 やや怯えた風を見せながらも、ヒャクメは気丈にも全身の瞳を潤ませて懇願し始めた。
 協力者の2人はただ、既視感(デジャ・ヴュ)と未視感(ジャメ・ヴュ)の狭間にゆらゆら身を任せながら、ただぼんやりとヒャクメの説明耳を傾けていた……始めの内は。

『神魔の共同プロジェクションによる未来予想シミュレーションによると、今から23年後……その、横島さんの娘さんが何者かに攫われるらしいわ。 しかもこの誘拐劇には今から9年後、突如ヴァチカンから姿を晦(くら)ました……あの「ラプラスの悪魔」が一枚噛んでいるらしいのよ! でね、……』
 ………………

『……という訳で、お願いできます?』
 事件の概要から横島の子供の重要性、そして依頼の内容から条件・報酬に至るまで一気に捲し立てると、ヒャクメはハンカチで額の汗を拭う。
 美神は腕組みをしたまま、傍らの少女を力強く振り返る。
「そうね……どう、おキヌちゃん?」
「そんなの、決まっているじゃないですか。」
 キヌが不敵な笑みを返す。全ては決した。
「ヒャクメ、出立はいつなの?」
『あっ、出来るだけ早めが望ましいんだけど……。』
「それもそうね。じゃ、今から準備を始めるわよ! 人工幽霊一号、私たちが出掛ける迄の間、ここのセキュリティを迎撃レヴェル3に移行して!」
『畏まりました。』
「それとおキヌちゃん、貴女は横島くんに至急来るよう連絡つけて!」
「はいっ!」
 既に電話機に取り付いているキヌに、美神もまた大胆に口元を緩めた。
「半分は横島くんの責任みたいなものですもの……せめてテメエの分の尻拭い位は遣って貰わなくっちゃねぇ。」
「……もしもし横島さん、キヌですけど……」
 言いつつテキパキと必要装備を集める美神もキヌ、2人ともいつに無く燃えている。
『(……ひょっとして「前回」の記憶の跡がまだ、深層意識に残っているのかしらねー? 一応検査では問題の無いレヴェルで消えててくれてたと思ってたんだけど。
  今回もお世話になるかもしれない、と云うか絶対になるんでしょうけど……、頼むわよ?)』
 そう心の中で呟きながら、ヒャクメは尻の下の旅行カバンを撫で上げる。
 カバンに内蔵されたラップトップパソコンは、彼女の諜報活動をサポートすべく何重にも改造の施された超高性能マシーンである。
 美神令子の時間移動能力の制御は勿論、諜報活動に欠かせない霊科学特殊迷彩、果ては周囲の霊能者の発する霊波の危険な異常推移を自動でキャッチ、「記憶消去ガス」を周囲50メートル圏に放出すると同時に内部に一時複製した時間移動能力で緊急退避させるという機能――平たく言えば「緊急脱出装置」まである。
 特に最後の一つは成るべく使わずにおきたい機能ではあるし、事件に関する情報を人工幽霊の記録等から一切消去・復元する「前回」の骨折り作業と併せて、もう懲り懲りであった。
 それに実を云うと「前回」の緊急退避が果たして美神たちの感情の乱れによる装置の発動による物だったのか、それとも「確定的未来」で無かった故の因果律の干渉だったのか、まだ正確には解明されていなかったりする。
『(ねえラプラス、全ての因果を知る貴方ならばこの状況、どう見るの? ――訊いてみようかしら、もし逢えたら……ううん、きっと逢えるわよね?』
 ヒャクメは勝手に独り手酌で空きのカップにコーヒーを注ぐ。この女性神族には少々苦過ぎたのか、喫(すす)り上げた琥珀色の液体に微かに顔を歪めた。
 喧騒の中、人知れず。

* * * * *

「さあ、みんな、準備は可い?」
「はいっ、バッチリです、美神さん!」
『おーるおっけーでござるよ!』
『可いわ。』
「いやだーーーっ! 触ったモンの未来が百年先までみーんな解っちまうあんな奴を敵に回すなんて、冗談じゃ無いっふぐぅ!」
「……点呼終了っと。さ、ヒャクメ、全員健康、異常無しよ。」
『あはは……じゃあ、行きますよ。……えい!』
 ぽち

 約1名の「まるで猿轡(さるぐつわ)でも嵌(は)められた様な」くぐもった絶叫を残響させつつ、部屋の中を一瞬で覆い尽くした光の壁は急速に収束していく。
 後には誰も居ない、いつもの事務所が在るだけだった。
『……お気を付けて。』
 夏の日差しの中、何処か夢見心地な響きを残し、人工幽霊の声は事務所の空気に溶けて消えた。

 そして、全ては時空の彼方、無限の未来へと繋がっていく。
 そう過去の、今の、全てが。

# # # # #

 ――くっくっくっ……もう、おかわりかい? お嬢ちゃん。


[relay novel] "TADAO'S WEDDING EVE" , now that has come to the end or ... ?

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