ザ・グレート・展開予測ショー

【リレー小説】『極楽大作戦・タダオの結婚前夜』(21・終)[エピローグ(前編)]


投稿者名:Iholi
投稿日時:(02/ 7/11)

* * * * *

「……ん? あれ、美神さん、ヒャクメさま? ……皆さん無事ですね! 良かった……。」
「何なのよ、この薄暗くて陰気臭い所は? うわ、ヌラヌラした壁が波打って点滅してるっ!」
「細長い、ピンク色の筒の中みたいですねー。まるで小さくなってミミズさんの中に居るみたい。」
「……おキヌちゃん、そーゆー面白い例えは止めてくんないかな?」
『ここは未来と過去を繋ぐトンネルの中なのね。」
「へっ、そうなんですか? でも確か……、」
「……未来へ往く時は真っ暗だった様な……。」
「それは前とは逆に時間を流れを逆行しているから、こんな風に見えている訳なのね。で、どうやら私たちはさっきまで居た「未来」から弾き出されちゃったみたいなのね。』
「……と云う事は、私たちはこの先どうなるんですか!?」
「まさか、この手のSFのお約束で、時間も空間も無い世界で永遠に迷子、なんてのは御免だわよ。」
『……それは大丈夫なのね。今、私たちは「因果律」の導きで本来居るべき時空、つまり「現在」に逆戻りしているのね。だからこの侭順調に行けば元の世界に帰れますねー。』
「順調に、って本当に大丈夫なんでしょうか?」
「最初の間が無茶苦茶不安を誘うんですけどヒャクメさん?」
『心配は無いってば、いやマヂでね。そもそも美神さんや美智恵隊長の時間移動能力だってこの「因果律」を利用しているのね。
 理論上、時間移動の終点は「確定的未来」の周辺に設定される場合が多いわ。そこ以外では「宇宙意思」が強力な上、平行世界が点在していて危険も高いのね。
 しかしもっと問題なのは帰りの時よ。元々の出発点は「確定的」である必要は無いけど――宇宙意思の引力と本来の時空の流れを振り切るだけの勢いが有れば充分だけど――、それが帰る段に成ると、往きの場合の話と同じく目標として「不確定」過ぎると危険度が大きいわね。』
「往きは好い好い、還りは怖い〜〜♪」
「……縁起でもないっての。」
『でも、実際の時間移動能力者は高い確率で元の世界への帰還を果たしている。つまり出発点と能力者を繋ぐアンカーの役目をしているのが、本来在るべき場所に存在させようとする作用、つまり因果律が考えられるって訳。』
「成る程。それなら良いんですけど……ねえ美神さん?」
「うーーん? そんな都合の好い話ってアリ?」
『まあ、実を云うとね、私たちが「未来」から弾き飛ばされたのだって、この因果律が原因なの。
 要するに、同じ時空に全く同一の事物が存在するって云うのは本来の時空の在り方、つまり因果律に大いに矛盾するのよね。
 ただ単に同じ世界に居る位ならまだまだ許されるけど、もし違う世界に居る筈の両者が直に接触する事になったら、余所者の方が弾き出されてしまうって訳なの。』
「結局、私たちは因果律の逆鱗に触れてしまって、元の世界に強制送還されているって事ですか。」
「そして今ここで私たちがこうなってる事自体が、因果律とやらの実在を証明している訳なのかしら。」
『その通り。その上、「在り得ない記憶」にも因果律の矯正が働く筈だから、私たちが出会ってしまった時の事は彼らの記憶からバッチリ消えているわね。』
「へぇ〜〜、凄いんですねぇ、因果律って。」
「ん、でもさ……因果律とやらの機能とか意味合いから考えると、因果律って宇宙意思の一種と見なして可いんじゃない?」
『へっ、……ま、まあね。』
「で、それが強く働く、って・云・う・コ・ト・は……?」
『ぎ、ぎくりっ!』
「……全身のお目々が泳いでますよぉ、ヒャクメさまぁ。」
「……つまりさっきぃ、私たちが往ったぁ、未来ってのはぁ、……確定的未来っ、じゃなかったっ、て事じゃないのかなぁ〜〜、ねえ、ヒャ・ク・メ・さ・まぁあ?」
『……ははははは、ひひ、ふふふふ。』
「……へーーえ。」
「……ほーーお。」
『………………』
「………………」
「……くぅおらぁぁ、ヒャクメーーっ!! よっくも私たちをこんなに危険かつ無意味な任務に附き合わせてくれたわねーーっ!」
『わーーーんごめんなさいごめんなさいごめんなさいーーっ! シミュレーション実験は細心の注意を払って繰り返し何度も行ったんだけど、やっぱり神魔が遣る以上どんなに万全を期した処で誤差を完全に無くすのは絶対不可能なのよーーっ!……って、怒り剥き出しの美神さんも怖いけど、ブツブツ呟きながら人魂しょってるのも心底怖いわおキヌちゃんってば!!』
「……横島さんとの結婚……確定してなかった……結婚……してなかった……」
「……武道館でのの騒ぎの時も、妙神山のラスト・バトルの時も、私たちが颯爽と現れて並み居る悪党どもを一網打尽にする、……って描写が一行も無かったし、結局私たちって、蔭でコソコソ覗きをしてただけ!?
 態々(わざわざ)9年前の、過去から遣ってきといて!? しかもそこが、お目当ての未来じゃないと判るや、もはや用無しと言わんばかりに、追い返されて、一体私たちは何だってのよ!? 炭鉱夫が連れて歩いた小鳥や兎みたいな扱いなんて、真っ平ご免だわ!』 
『だから、読点(とうてん)で区切るたんびにアイタッ、1発蹴りを入れるのは止めるのねッテテーーっ! 第一目立って活躍できなかったのはゥツッ、飽くまで結果論なんだから仕方がなァイタタタッ! それに……そう云えば、炭鉱の小鳥や兎ってガス探知機代わりだったのよね……ふふふ。』
「……結婚……」
「はっ……ってよく見たらヒャクメ、さっきから顔に附けてるその不細工なお面は、ひょっとして?」
『ふふふふふ。さーてさてお2人さん、全ては悪い夢だったのねー。次に目が覚めた時には2人とも元の世界に帰っているから、安心してよーくお休みなさーいねー……。』
 ぷしゅ〜〜〜〜〜〜〜っ
「……結婚…………っ、」
「ちょ、ちょっとカバンを閉めなさいって、ヒャクっ……ぇねぇっ、私は世界一のゴースト・スイーパー、美神令子よっ、……こんな主人公らしからぬ悲惨な仕打ちっ、なっ、納得いかないわーーーーーぁぁぁぁ……、」

 薄いクリーム色の記憶消去ガスが充満する仄暗いトンネルの中、ヒャクメは緩やかにフェード・アウトしていく念仏と断末魔のおぞましいハーモニーを、自動装着型生体装備・瓦斯魔守鬼(がすますき)越しに……軽く聞き流した。

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