ザ・グレート・展開予測ショー

【リレー小説】『極楽大作戦・タダオの結婚前夜』(20)[遠き山にも日は昇り(後編)]


投稿者名:Iholi
投稿日時:(02/ 7/11)

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「(……なんかカユイと云うか何と云うか、妙な雲行きになってきたわよ? ヒャクメ、これはどう云う事なのよ?)」
『(うーーん。そうね、今考えられる可能性としては、一寸今迄のお浚(さら)いになってしまうんだけど、可い? ……先ず「確定的未来」では後の事象に関係するあらゆる事象が決定される、これは可いかしら?)」
「(……ええっと、つまり確定的未来で起こった事はみーんな、その後に分岐する未来全部に影響する、って事ですよね?)」
『(ええ、その通りね。それに確定的未来は、それまでの過去に並列していた全ての平行世界(パラレル・ワールド)が、「宇宙意思」の平衡作用によって再び本道の時空の流れに収束する場所でもある訳ね。)』
「(要するに、『一番有り得そうな展開』から遠く離れれば離れる程強固に――宇宙処理装置(コスモ・プロセッサ)の時みたいに――働こうとする宇宙意思の力が、横並びしていた過去の世界を一旦一つ所で結び合わせる。その結び目こそが謂わゆる『確定的未来』である。……どう、先生?)」
『(ご名答。でもそれって、逆に言えば「ここ」の前後では全ての平行世界が本道に接近している分、宇宙意志からの干渉が少ない、と云う事でもあるのね。私たちが「ここ」での敵襲を恐れた理由もそこにあったのよねー……相当派手な歴史干渉が行われても、宇宙意思が介入してくる可能性も少なくなるもの。)』
「(……成る程。)」
『そして宇宙意思の干渉が少ないと云う事はまた、「ここ」ではあらゆる未来世界への分岐が発生し易いって事にもなるのね。だから……、)』
「「(だから?)」」
『(……ひょっとして、今の今迄一番本道に近かった筈の「おキヌちゃんが横島さんと結婚するだろう」と云う事象の確定性が、宇宙意思の不在で揺らぎつつあるのかも。しかも一旦時空の流れにある事象が刻まれた場合、それを覆すのは非常に難しいわ。だから……。)』
「「(って、それってもしかして、今未来が決まってしまったら、それが……!」」
『(しぃーーーーっ!! あ、ほら、2人がお茶室から出て行くわ。)』

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 高さの無い上げ戸を潜ると、令子は俄かに眼を細めた。
 外は東の方から微かに紅く色付き始めていた。茶室を照らしていたのは西向きの月明かりだったから、この変化には気付かなかったのだろう。
 振り返ると、続けて出てきたキヌまでも同様に眩しげにしたのが、ちょっぴり可笑しかった。
 改めて2人して、正面を見る。
 数メートル離れたそこには、多くのギャラリィに取り囲まれた彼の姿。その透明感のある眼差しは、山間の寒気に晒された2人を優しく包み込む。
 2人は互いに目配せする。春風に似た爽やかな笑顔が、まだ産まれたての陽光の中にキラキラと光っている。
 そして再び正面を見る。薄汚れたねずみ色のスーツ姿の彼が持つベールの純白が、寝不足の眼に優しく刺さる。
 互いに薄く、深呼吸をして、そして……
 今まさに、時を同じくして、自分たちの胸の内を告げようと

「あんたたち、ちょっと待ちなさいよ! 仲良く告白して、選りにも選って横島くんに選ばせようだなんて、正気の沙汰じゃないわ!」
『(わっわっ美神さん、出て行っちゃダメだって、、もっと落ち着いてねっ……)』
「あんたはすっ込んでなさいよ! あのねえ、美神令子、もっとこう、ガガーーッと行っちゃいなさい、ガガーーッと! あんたはそんなに弱い女じゃ無い筈よ! そう、『ドラえもん』で喩えるなら、あんたはドラえもんよ! 幾ら全人類を滅ぼしかねないよーなリスクを冒していても、自分の都合の良い未来に変えてしまう事に一片の躊躇も覚えない、あの冷徹非情なサイバー青ダヌキよ!」
『(ああっ、前は自分の事をしずかちゃんだって言っていたのに、割と冷静な自己分析……っじゃなくって! ねえ、おキヌちゃん、貴女も美神さんを止め……)』
「美神さんがドラえもんなら、私はジャイ子ちゃんです!」
『(へっ?)』
「だって、もしもドラえもんが来なかったら、のび太くんと結婚してたのはジャイ子ちゃんなんですよ? 本来手に入れる予定だった幸せを奪われたジャイ子ちゃんが、もしも全ての真相を知っていたのなら、絶対彼女はのび太くんにモーレツアタックした筈です!」
『(あああーーっ、とうとうおキヌちゃんまでオカシな事に!』
「ちょっとおキヌちゃん退(ど)きなさい!」
「いやです、美神さんこそ退いて下さい!」
「何よ、もう! ジャイ子の癖に生意気ね!」
「あーっ、それはお兄ちゃんのセリフ!」
「何がお兄ちゃんかーーっ!!」
『ああーーん、もうさっぱり何が何だか! 私はいったい、どうすればいいのーーーーっっ?!』

 呆気、としか形容しようの無い、3人を始めとした未来の一同。
 愁嘆場を演じ、ようとしていた筈の彼らの前に突如、怒声と共に現れた3人の過去ご一行。
 全く同じ顔の3人が3人、互いにそれぞれと目が遭った。

 瞬間。 # # # #

「……おや?」
 軽い眩暈感の中、忠夫は軽く首を振る。
 ……今、目の前に衝撃的な光景が展開されていた様な気がするが……辺りをもう一度見回すが、そこには依然として穏やかな夜明けの風景が広がっているだけ。
 何故だか、安堵を含んだ息が漏れた。
 地平線沿いに目を走らせると、頭を見せたばかりだと思っていた太陽は何時の間にか半分以上その顔を覗かせていた。自分は職業柄、朝日を拝む事も決して珍しくはないのだが、今朝の曙光は一層眼に沁みる様でならない。
 山間の尾根伝いに巻き上げられた火山灰は、今だに匂う熱いマグマの余韻を微かに孕(はら)みながら、その巨大な掌(たなごころ)で紅い光の半球を優しく包み込んでいる。その隙間から四方に放射される橙色の陽光は、つい先刻まで永らく満月が支配していた蒼い夜の海と溶け合いつつもその領域を紅く鮮やかに侵食している。
 あたかも、夏の日の夕暮れの様に。
「…………。」
 忠夫はその光景に魂を奪われていた。そして苦々しそうに眼を細める。
 ――このまま、この太陽は沈んでいってしまうのではないだろうか。今はその版図を主張する紅い光もやがて満月が支配する異界の夜にじわじわと溶かされ、宵の明星を伴った紅き光は最期の一瞬の輝きだけを夜気に残して沈んでいってしまうのではないか?
   ……あの日の、夕焼け空の様に。
   いやそんな事、ある筈は無い。あれは朝日なのだ。時間が逆周りにでもならない限り、あの輝きがそのまま山の端に没する事など有り得ない。
   そう、時間でも戻らない限りは……。
「……昼と夜の狭間のつかの間の輝き。だから……」
   今、目にしている、あの輝きはあんなにも美しいのではないか? こんなにも自身が惹かれているのではないか?
   ……朝焼けと夕焼け――産まれたばかりの新しい一日、それとも時間を逆走させた「あの日」、甦る無垢な魂――自分が望んでいるのはどちらなのか? それとも……?
 忠夫は祈るように、ただ只管(ひたすら)紅い輝きの拡がりに身を焦がした。
 やがて、
 霞む空の中で、太陽はただ静かに、円い全身を晒していた。
 そして一陣の涼風。不意に、靄が途切れ、一筋の光線が恋人の手の様に忠夫の頬を優しく撫でる。
 眩しさになれた視界の中には、完全に逆光となった2人が佇んでいる。
 2人とも、無邪気に微笑んでいる。たった今、この世界に生を受けた赤子の様に。
 だから忠夫は、微笑み返す。その顔には一塵の迷いだに見当たらない。
 忠夫はベールを持つ手に少し力を篭めて2人の元へ歩き始め……ようとして。
 ?!
 己の背を焼く、とてつもない気の塊!
 右手を巨大な霊力の大砲に変じるが早いか、忠夫は猛禽の動作で背後の襲撃者を振り返った。
 そこには、

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