ザ・グレート・展開予測ショー

BOY MEETS A GIRL  その十六 シンデレラの疑惑  ―― 舞踏会の招待状 ――


投稿者名:魚高
投稿日時:(02/ 6/ 3)

『何故、オマエは、こんなことをしているのだ?』
「……わからない……」

竜太にとって、今の匠は、美しい思い出の『一部分』であり――とても奇妙なことだが――『目標』でもあった。

『貴様にとって、さゆりとは、なんなのだ?』
「……大切な人……」

本音だ。
竜太は、自分に嘘がつけないことは、竜太自信が一番良く知っている。
これは、紛れもない『本音』だ。
――しかし、恥ずべきことではない。
竜太は、そう言って高ぶりを抑えようとしていた。

『アンタがこんなことをしている理由を教えてやるよ。未練さ!』
「違う………!」

匠は、意地が悪くてこんなことをしている訳ではない。
きっと、『二人』の『これから』に、すごく必要なことなのだ、と竜太は受け取った。
竜太は、思い出せそうで思い出せない。そんな不快感が一気に消し飛んだような感覚だった。

『そうか……では、再び訊こう! オマエにとってさゆりとはなんなのだ!?』
「……大切な人……だった……」

今でもそうだ。
――違う。そう思い込みたがっているだけだ。嘘じゃない。自分でも気づかないだけなのだ。
訊いてみろ。
答えは、オマエとオレが知っている。

『何故、オマエは、こんなことをしているのだ!?』
………………………………
…………………
…………
時間切れだ。ブザーこそ鳴らなかったが、竜太は、直感で――と言えばかっこうが良いが――
なんとなく、そんな感じがした。

「君は、そう言えば何者だい?」
なんとも場違いな質問である。普通ならこの場の空気が一気に緩むところだ。
竜太は、どこか寂しそうに――でも、どこか楽しそうに笑った。
「外国人に見えるかい? そう、違う。俺は、神様だよ」
清水は、黙って首を振った。――彼は、無信仰者だ。
悪霊は、居ても神などは、いない。清水は、そう考えている。
彼の人生は、正直、後悔だらけだ。神様は、それを修正するチャンスもくれない。
神族は居ても、大昔まで人間が本気で信じていた『神様』などは、絶対にいない。
……彼が竜太を否定する理由は他にある。
「信じてくれよ。だいたいここは、どこだ? 人間が来れるところじゃあない」
竜太の目つきは、真剣そのもので清水は、それだけでも信じてあげたい気持ちもやまやまだが、
彼は、黙って首を振り続ける。
「私も、人間だ。君も、人間だ」
「……良い理由だが、それはヘリクツと言う物だ」
「……いい加減に冗談を言ってると私だって怒るぞ」
清水がゆっくり動かしていた首が、顔が、瞳が、やっと竜太の正面に落ち着いた。
威厳と、迫力を兼ね備えた良い面構えだ。
――1800年前の中国に生まれていたら、こちらが地に伏せてまで引き抜いていたな――
……などと、場違いな感想を抱いている竜太は、次の瞬間に再び彼を尊敬することになる。
「本当に私が気づいてないと思っていたのか? 悲しいものだな……私は、君の父親代わりだぞ? え、違うか?」
最初は、竜太もよく聞き取れなかった。
訳のわからない。といった顔をしていると、清水が、「君とは、十数年付き合ってたんだ。
四、五年ほど、別々だったって、君を間違える筈はない」と付け足した。
竜太の顔は、驚きと感動が半々に表れていた。実際の胸中もそんなものだったのだが……
「……ごめんなさい…でも、いつ気づいたんですか?」
「バカモノ! 楽をしないで自分で考えろよ、神様なんだろ?」
清水独特の言い回しだ。最初は、叱り付けるように厳しく、文末は、励ますようにあたたかく――
竜太は、今にも涙がこぼれそうで、清水は歩み寄り(というのもおかしい気がするが……)
竜太の肩をポンと叩いてやった。彼にとっては、自慢の息子だ。
その清水と竜太は、年齢も(外見的には)背丈も同じようなものなのに、あきらかに立場は違っていた。
赤い髪は、大柄な体を隠そうともせず震わせ、メガネの男は、それを優しく受け止めた。
まるで、宿題を忘れた子供と、それを叱り、そして慰める教師のような関係だ。
「匠、君が妻を助けてくれたんだろ? 願いが通じたな……ありがとう……」
清水は、現実主義者だ。それなのに、自分を信じ,墓参りまでして頼ってくれたのだ。
突然表れた容姿の違う男を見て、すぐさまに自分だと気づいてくれた。
竜太の頭の中は、そんな喜びでいっぱいだった。
「……いいえ、礼なんて、そんな――」
あと少し、あと少し、竜太は溢れそうになる涙をあと少し先延ばしにするように努めた。
「第一、さゆりは、俺のが先に目ェ付けてたんスよ? それを……ひでぇや……」
竜太は、冗談交じりに言ったのだが、半分本気だった。
こんなこと言うつもりは無かったけど。今なら、笑って許してくれそうだったから――
――単なる、『良い思い出』として済まされそうだったから
でも……清水は、笑って済ましてくれなかった。
清水の沈黙に竜太は一瞬、たじろいだ。
初めは、泣いちまったかな? って思ってた。それで、テルさんが叱りつけるのかとチョッとビクついてた。
でも、手で目の周りを擦っても湿ってるのは心だけ――
「……どういうことだ?」
清水は、眉間にしわを寄せ――― 今日一番の厳しい顔をして訊いた。
「どうもなにも――日本に帰ったさゆりさんを世話してくれたのがテルさんで――」
「あぁ。確かにその通りだ。しかし、俺は、さゆりから君のことなんぞ一言も聞いてないぞ!?」
一瞬、もう単なる背景であり、清水の注目の対象ではなくなっている宇宙が揺れた気がした。


二人は、謎の不快感に襲われ、同時にある種の興奮を覚えた。
まさに、ミステリーだ。―――それほど悪くはない――と。

               つづく

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