ザ・グレート・展開予測ショー

水使い(〜交錯〜)


投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 6/ 1)




 ー水使いー(〜交錯〜)



 暗殺と、その暗殺の阻止と。
 その二つを成した一組の男女が、狭い路地裏の道をただ歩いていた。
(美神・・・)
 足早に先を急ぐ小女を見失わぬようにしつつ、数メートル程後ろのコートを着た男は、思索にふける。

 美神。

 彼女の名乗ったその名は、多少なりとも耳にした事がある。
 かつては霊体の癌、そう恐れられたチューブラーベルに取り付かれ、それを跳ね退けたという伝説の女性GSの名だ。しかしその女性は、ごく最近に亡くなったとも聞いている。つまり信じるのなら、彼女はその娘であり、いわば2世という事か・・・

 違う。

 何が、何故かは判らないが、違う。

 彼女の見た目の年齢と、その亡くなったと聞く女性GSの、その娘の年齢はピタリと符合する。しかし違和感は拭えない。
 霊能力者。常人からは離れた者としての直感。それが彼の人間としての推論を真っ向から否定したのだ。
(・・・・・・)
 背を向け歩く彼女を見る。
 こうして良く見ると実に・・・あからさまに不自然な格好だった。もはや秋のただ中というこの季節に、半袖の、何やら古くさい風景画のプリントがなされた白いシャツに、下は男物らしき黒ズボン。季節感も上下の調和も、全く感じられない服装だ。
 しかし。それでもその少女は美しかった。
 その一挙動全てに、それは人間としての格とでもいうのか・・・優雅さ、力強さが見てとれるのだ。
 依然として隙を見せないその後ろ姿にも、変わらず『オーラ』としか表現の出来ない何かがあって、自然、見る者の目を釘づけにしてしまう。
 ふと、そうして歩くだけだった彼女の足が止まった。
「いつまでついてくるの?」
 ドキリとした。
 容姿だけでなく、この目の前の女には声にすらも特別な力があるのか? そんな疑念が涌いてくる。
 彼は精一杯平静を繕い、こちらの優位を示すよう答えた。
「お子様だな。ストーカー、とでも騒ぎたいのか?」
 その言葉を受けて。
「すとーかー?何それ?」
 彼女は予想もし得ない答えを返した。
「何それ、て知らないとでも・・・」
 そう言い、思わず彼が手を伸ばしかけた瞬間。
 少女と彼とを遮るように、何かが飛来した。
「っ!」
 後退さって回避。
 そこから飛来してきた物を見る。
 路地裏の舗装の行き届いてない地面に突き刺さったそれは、何枚かのカードだった。
「時間だ」
 カードに気を取られてる彼の耳に、新たな、聞きなれない声が飛び込んできた。
 上だ。
 右側の建物の屋上付近から、何者かがカードを投じた事に気がついて、彼が見上げた瞬間。
 突如として・・・青白い閃光が、弾けた。
(な・・・!?)
 目を灼かれた。彼がそうとまで見粉うほどの強い閃光は、誰が見ても明らかに自然なものではなかった。反射的に両腕で身体の前面をかばうようにする。
 そうする事20数秒。その閃光は掻き消えた。
(・・・・・・)
 ゆっくりと、何度か瞬きをする。
 やがて視力が正常に戻っていくにつれ、彼の胸に不吉な予感が沸き上がってきた。焦燥が募る。
 あの少女は!?
 焦りに支配され、今だ閃光の余剰効果によって立ち込める粉塵の中へ足を踏み込む。
 瞬間。
 首筋、動脈の辺りに鋭い何かが押し当てられた。
 途端・・・嫌な汗が、噴き出す。
 特に隙を作ったつもりはなかった。しかし今こうして致命の部位に相手のエモノを突き付けられている事実。
「・・・何者だ?」
 掠れた声でそう尋ねる。答えはすぐに返ってきた。
『殺し屋に答える気はない』
 男の声だ。どこか『なまり』のある日本語。
 視界を覆っていた粉塵が掻き消え、こちらの動きを制した者の姿が彼の目に映る。しかし彼女の姿は既に無い。
 ゆっくりと相手のいでたちを見やる。
 身につけてるのは黒装束、とでもいうべき代物で、パッと見ただけでは、むしろその男の方が殺し屋に見えるだろう。
 他に目を引くのは仮面。西洋の古い仮面舞踏会ででもつけるような仮面をかぶり、男は顔を隠していた。
 しかし、何よりも語るべきは男の放つ威圧だ。
 一向に隙も見せず、首筋に触れるカードに込められた霊力。
 生半可な腕ではない。その道で天才と言われ続けた彼の眼力からしても、その仮面の男の力は到底押し計れいものがあった。
「あの子を・・・どうした?」
 彼がそう尋ねると、ふと仮面の男からの圧力が和らいだ。
 笑み混じりの口元を動かし、男が答える。

『帰ったよ、居るべき場所へ』

 そう告げられた瞬間、首筋のカードが閃光と化し、彼の意識を闇に沈めていったーー・・・




「あ〜・・・」
 黒を基調とした、呪術用の装束を身に纏った女が、いかにも気疲れの伺える声を出した。
「・・・疲れた」
 それに対し、あざけるような声が返される。
『キキッ! ・・・どっかの誰かが失敗した後の尻ぬぐい、ゴクローゴシューショーサマ!』
「うるっさいワケ!」
 そう喧嘩をしつつ、奇妙な二人?は、漆黒の闇の中へと消えていった。



 後に変わり果てたターゲットと、混乱や悲鳴を残して。






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