母への想い その1
投稿者名:NOZA
投稿日時:(98/11/27)
おきぬちゃんの短編なんですが、モチーフが『エミ外伝』によく似ています。が、神に誓って
外伝を読む前に書き進んでいたものです………(エミ外伝おきぬちゃん版でもいいかも)。
感想を頂けますと、ものすごーーーーく嬉しいです。
この子の可愛さ限りない
山では木の数萱の数…………
「おきぬ…………」
母の声がした。でも、何故だろう。顔だけが見えない。
「おかあさん、おかあさん、おうたうたって……………」
「いいわよ…………」
しかし聞こえてきたのは母の子守歌ではなく、無機質な目覚まし時計の電子音だった。
何故かおきぬはここの所、まるで顔を覚えていない母の夢を見るのだった。
それはきっと死んだと思われていた美神の母が生きていたため、自分の心の奥で少しうらやましいと
思う気持ちがあるから、とおきぬは思っていた。
だからといって、嫉妬したり意味のない反感を美神に対して持ったりはしなかった。そんな負の方向
の心の動きとは、生まれてから死んで生き返ったあとも、彼女には無縁だった。
自分は幸せだと思う。しかし母のことを思い出すと少し寂しくなる。そのことについて誰も責める資格
などはなかった。
その日美神事務所は休みだった。雑魚が動かなくなっていたからだ。
美神は横島を連れて何やら貴重な植物の採取に出かけていた。おきぬもついていきたかったのだが、
『極めて危険』な土地柄のため、連れていけないと美神に言われた。
美神は横島を頼りにしているわけではない。例によってマンドラゴラをひっこぬく犬と同じ位置づけだ。
横島はいやがったが、犬よりひどい扱いで引っ張られていってしまった。
おきぬは所在なげに町外れの公園の辺りを散歩していると、公園の隅で泣いている小さな男の子の霊を見
かけた。
自分にはやや霊が見えすぎてしまう。直さねばならない癖だと思う。いつ霊につけ込まれるか判らないのだから。
でも今日は何となく無視ができなかった。
「お母さん、お母さん……………」
この子はここでずっと泣き続けていたに違いない。そしてこれからも泣き続けるのだろうと思われた。
「どうしたの……………」
男の子の霊は不思議そうに顔を上げた。死んでから、この子に話しかけてくれる者などいなかったから。
その日から、おきぬの日課にこの子に会いに来ることが加わった。
「………同様の手口による女性の惨殺が都内で相次ぎ、警察では事件の関連を調べ…………」
美神は全く不機嫌そうにニュースを見つめながらぶつぶつと文句を言っていた。
「なにさ仕事がないからこちらから出向いてやったて言うのに、『捜査中』何て。
無駄飯ぐらいの税金泥棒。あれは絶対に悪霊の仕業だってのに。」
あれから五日後、美神達は戻ってきた。『無事に』と言う接頭語は付かない。やはり横島はひどい目にあった
ようだ。
もしかして横島の最大の能力は、どんなひどい目にあっても生きていることではないか、とおきぬは最近真剣
に考えていた。
「ああ、不景気が憎い…………この私が営業しなくちゃいけないなんて………」
おきぬは困ったような笑顔を浮かべ、美神達のためにお茶を入れた。
「おきぬお姉ちゃん、こんにちは。」
おきぬが近づくと、男の子は泣き止んだ。それまでの間、この子はずっと母を呼んで泣き続けているに違い
なかった。
「こんにちは。ゆうじ君。」
その名を聞き出せたのはつい先日のことだ。それまでの間はお母さん、お母さんと泣きじゃくるだけだった。
美神だったら「男のくせにいつまでもママ、ママ、と泣いてるんじゃない!!」と言って怒っただろう。
それも良いと思う。しかしおきぬはそう言わなかった。
闇雲にあやしたりもしなかった。ただ黙って、聞いてあげていた。のんびりとするのは全く苦手ではなかった。
何時間も黙って泣き声を聞き続けてあげたあと、「また明日ね。」と言って事務所に帰って行った。
「お母さんが好き?」
何日間も黙って泣き声を聞き続けてあげたあと、おきぬは唐突に、本当に唐突に切り出した。
男の子の霊はまた不思議そうにおきぬを見つめた。
「私は自分を産んでくれたお母さんって覚えていないんだ…………覚えているのはよく歌ってくれた子守歌だけ。
あなたのお母さんは、どんな人だったの?」
この時から男の子とおきぬとの間にシンパシィが通じたようであった。ずっと黙っていた期間はおきぬなりの醸
造期間のようであったかも知れない。
男の子の霊はうつむいたまま黙って首を振った。
「そう、覚えてないの………」
男の子の霊はまた首を振った。
おきぬにはよく判らなかった。
「でも、お母さんが好きなんだ。」
今度は小さく頷いた。
「そう、良かった。…………」
それからおきぬはなるべく子供の好きそうな、とりとめのない話をした。
初めの頃は反応が良くなかったが、男の子の霊は徐々におきぬにうちとけていった。
そしてやっと「ゆうじ」と言う名を聞き出すことができた。
その日のおきぬは「ミニ4駆」の話をした。この手の話は得意だ。以前横島がそんな事件に関わったことがあるからだ。
楽しそうに話すおきぬの横顔を見ながら、ゆうじは静かに尋ねた。
「…………おきぬお姉ちゃんは、どうして、僕にそんなにおはなししてくれるの?」
何故自分に構うのか、ゆうじはそう聞きたかったに違いない。
「何故かしら?」
それはあまりにも意外な返事だった。
ゆうじはきょとんとしていた。
「お姉ちゃんにもよく判らないわ。………お話、嫌い?」
ゆうじは首を強く振った。そしてじっとおきぬを見た。
「僕がかわいそうだから?」
おきぬは目に優しい色をたたえ、首を振った。
「それは絶対に違うわ。もちろんかわいそうだと思うけど………。どう言ったらいいのかしら。そう、ゆうじ君が
寂しそうだったから。」
「さびし、そう?」
「………お姉ちゃんもお母さんの顔を覚えていないって、前に話したよね。でも今はちっとも寂しくなんてないの。
とても大事なお友達がいるから。」
「ともだち?」
「そう。大事な、大切な……」
「………僕にもいるよ。」
おきぬは少し目を見張った。ゆうじに友達なんて、想像もできなかったからだ。
「お姉ちゃんにも紹介してくれる?」
ゆうじは黙り込んでうつむいてしまった。触れられたくないのだろうか。
「じゃ、お姉ちゃんもゆうじ君の友達に入れて。」
「それはだめ。」
「え………お姉ちゃんのこと、嫌い?」
ゆうじは激しく首を振った。
「好きだから、だめ。」
それ以後はおきぬが何を言ってもゆうじは返事をしなかった。ただ、うつむいてばかりいた。
しかたなく、ゆうじに別れを告げて、おきぬは事務所へと帰った。
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