ザ・グレート・展開予測ショー

夕闇(裏側)後編2


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 5/30)

違うということを―そんな事なんて無いということを言いたくて―
だけど、言葉でいうだけでは足りなくて―ゆっくりと首を左右に降る。
否定の意味をこめて。
そして、ぎゅっと手のひらを握る力を少しだけ込める。
この言葉に―すっと横島の瞳が眇められる。
いつもより細くなった瞳には、つらそうないや、なにか諦めたかのような、光がある。
自分の言葉では、何も伝えられないのだろうか?
こんなに、こんなに、元気であってほしいと想っているのに。
「だけど―」
そしてその口から伝えられる声音は、弱弱しくて―
そんな声をださせたくなくて―途中で、言葉をさえぎってしまっていた。
「だって―」
と。
大きな声を出したつもりなのだが、それは驚くほど小さい。
それは、何を言いたいのかわからないからだ。
言葉は出たけれども、続けて何をいっていいのか―わからない。
横島はこちらの話を聞こうとしている。
その表情には、話を中断された事に対する怒りはない。
ただ自分の言葉を聞こうとしていてくれる。
じわりとあたたかいものがこいあげる。
このひとは、こんなひとなのだ。
どんな時も―、自分が苦しいのに、痛いのに、きちんと人の話を聞けるひとなのだ。
思いやる―というものとは違う。
優しいと―いうものとも違う。
ただ、どんな時も、自分だけ『が』と想わない人なのだ。
誰もが辛い事をちゃんとしっている。ひと
それを頭で理解しているわけではない。
自然に、こころでわかっているのだ。
そして、それを分かった瞬間―いや再度理解した瞬間。
言葉が溢れていた。
それは小さな小さな声だけども。
決定的な響きを持って。
「好きですから」
―と。
言った瞬間かあっと顔が赤く染まる。
そして、今まで言う事を禁忌としていた言葉をいったせいだろうか?
手が、全身が細かく震える。
喉がからからに―渇く。
「え?」
聞き返す声。
それはひどく、すっとんきょうなもので。
どれだけこの言葉が横島にとって意外性のあるものかということがわかる。
「―でも、おれ―忘れたわけじゃ―ないのに」
何を―とは聞くまでも無いこと。
たったひとりのひとのことだ。
―と、いうかおきぬには何故横島がそんなことを言うのかわからなかった。
当たりまえのことだ。
大事な人を忘れないものは。
なんらかの形で落ち着いて欲しいとは想っていたが、忘れてほしいとは一度も想ったことは無い。
くすりと唇には淡い微笑みすら浮かべ言う。
「だって―本当に好きだったんでしょ?忘れるわけないじゃないですか?」
「…私は、ずっと―ずうっと好きでしたよ?彼女がいるときから―いなくなってもずっと―」
―と。
「知らなかった」
と心底驚いたように横島。
その言葉におきぬは、微笑む。

自分は、横島が好きだ。
この感情が迷惑ならば、ずっと言わないでおこうと思える。
それにこんな気持ちは横島にとって迷惑かもしれないとも想える。
だけども、この感情が駄目だとは思えないのだ。
あたたかいだけものもではない。
どろどろした部分だってある―黒い部分も。
それでも、である。
それでもこの感情をしって嬉しいと思える。

こんなこころ。
―忘れられるわけがない。
だから、言うのだ。
忘れなくてもいいと、忘れることなどないと。
きっと―そのひとは全部すきになってくれると
「私は、いなくなって―忘れられなくても、それでも好きだというひとがいてもいいと思いますよ―だってもうそのひとは、横島さんの一部なんですから―きっとその人は、その忘れられないこころごと好きになってくれますよ―私だってそうですもん」
こころをこめて。
ちゃんと、伝わるように。
じわじわと襲ってくる苦しさに耐えて
笑顔で―言う。

その言葉に、横島は笑う。
嬉しそうに―『本当の笑顔』で。
どくんっと心臓が撥ねる。
そして―
おきぬをみて言う。
「好きだ」
―と。
おきぬはきょとっとめを見張る。
横島は、ゆっくりと手を握りかえし、恐いくらい真剣な顔で、だけど優しい瞳で好きだと繰り返す。
それが嘘かどうかわからないわけはなくて―。
好きだ
言葉にしてたった一言時間にして一秒にも満たないもの。
だけど、そこに込められた言葉にできることのない感情や、時間の長さ―はとても密度の高いもので。
それを感じた瞬間。
涙が出た。あとからあとから涙が溢れた。
私もですといいたいのに、嗚咽で声がでない―だから何度も何度も頷く
おろおろと横島があわてふためく。
困らせたくなんかないのに、でも涙はとまらない。

あたたかな涙は、星の光が見え初めてもまだ、流れていた

おわり

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