ザ・グレート・展開予測ショー

水使い(〜出会い〜)


投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 5/30)




 ー水使い(〜出会い〜)ー

 
 そこは真の水の無き街。

 途方もない数の、作られた光によって、その街は不夜の世界へと変貌していた。
 駅ビルに設置された巨大モニター。
 休む事無く、誰彼に構う事も無しに、新たな情報を次から次へと映し続けるそのモニターに背を向けてーー『彼』は駅とは反対の方向へと足を進めていた。

 彼。

 一見して若く見える青年。
 その顔はどこか幼くも見え、また背丈も低い為に、着ている丈の長いモスグレーのコートは、余りにもアンバランスとしか人の目には映らない。その様は子供が大人の服を着て、精一杯の背伸びをしてるようでもあり、懐具合から、何か良からぬ事をもくろむ輩には格好の獲物とされるであろう・・・頼りなげな青年。
 しかし真っ向から相対すれば、そのような軽はずみな考えしか持たずに彼の歩む道を遮ろうとするならば、それらの輩は残る一生を後悔のみに費やす事になるだろう・・・気弱にしか見えぬ青年の瞳の奥には、それほどの昏き闇の色が見え隠れしていた。
 
 ふいに、彼の表情が曇る。

 客寄せの声や、歩きながらの携帯越しに話す声。
 車の騒音、特に意識しなくとも聴こえてくるのは、電化製品の店、その店頭に並ぶモニターの音だ。
 不必要なまでに溢れた音。音。音。
 その中から幽かに彼は、一つの『音』を察知した。
 全身の感覚を研ぎ澄ませる。トクン、トクンと・・・感じ取ろうとしてた、ただ一つの臓器の音だけが、全ての『音』を無理に排した束の間の静寂の中で、はっきりと聴こえてきた。

 表情から、曇りが消える。

 同時に、仮面をかぶる。

 いかにも世事に疎い箱入りの坊や、としての仮面。

 コートのポケットの内側には、小瓶が用意されていた。片手の指先だけでも開けられるようにしておいた『それ』から、その中に入ってた液体を、先端を鋭く、まさに『針』と変化させる。

 確実に近付いてくる標的。

 酒によって完全に前後不覚となってるらしく、数人のガードマン達が周りを囲んでいた。仕事を請ける前に仕入れた情報通りに、車に乗ろうとする気配は見えないが、すれちがうところで、というのは使えそうにない。

 ならば、どうする?

 そう彼が思案した一瞬の内に、一人の女性が目の前を通り過ぎていった。なびいた髪から微かな香水の匂いがし、その後ろ姿も何かしらのオーラのようなものを感じさせていて、自然彼の目はその女性に惹きつけられてしまった。
「キャッ!」
 人同士がぶつかる音と、次いで上がった小さな悲鳴。
 我に返る。それと同時に気が付く。尻もちをついているのは先程の女性。そして何よりも、その女性とぶつかった相手は標的の男だった。
 好機だ。
 その女性にぶつかった時には、標的の男はいらついた顔をしており、ガードマン達も警戒していたが、今は男は好色そのものといった下卑な笑みを浮かべており、ガードマン達も呆れ顔で肩をすくめるなどしている。
「大丈夫ですかぁ〜〜〜」
 そう間延びした声と共に、彼は駆け出した。
 決してガードマン達の気を緩めた状態を壊す事なきよう、隙を多分に見せてようやく立ち上がろうとしてる女性の側へと近付いて行く。それは同時に標的にも近付けるという事だ。仕事を済ませば、女性には人違いだったとでも言って、顔を覚えられる前に姿を消せばいい。
 そうして思念をもって、ポケットの内に潜む『毒針』を操ろうとした時。彼はそこで雷に打たれたという誇張表現としか思えなかった感覚を、初めて味わった。
(無い! 馬鹿なっ!?)
 流石にその動揺は隠せず、数人のガードマン達も眉を潜めて警戒心露に近付いてくる。無論その内二人程度は標的の側に残っている。
「おいお前・・・」
 素早く弾き出された答えは二つ。
 強硬。そして諦め。
 もはや九千九百九十八事は休みという状況。残る手段は強硬か諦めかしかない。
 やむなく彼が後者を選び、ため息を漏らした瞬間。
「遅〜〜〜〜〜〜いっ!!」
 スパアン! はりせんが頭を直撃した。
「!!???!!?」
 混乱する。どこから出したか、はりせんを繰り出してきたのは先の女性だった。
「貴方がそんなトロいからあたしがこんな目に遭うのよっ!くぬっくぬっ!」
 次々襲いかかる驚異のはりせん攻撃。何が驚異かといえば、かわせないのだ。一発も。自分が。
 聴こえてくる失笑と嘲笑。標的も早々姿を消し、脱力しかけた彼の目前に、彼女が何かを差し出した。
「これ、返すわ。強硬に走らなかったの、偉い偉い」
 差し出された掌。その内にあったのはやはり『針』だった。
「うんうん、霊的犯罪を未然に防ぐこの手際!我ながら惚れぼれしちゃうわね!」
「・・・・・・」
 ゆっくりと、針を受け取る。すぐさまそれを霧散させた。
 憤りは感じる。この女性の人をくったような言動も腹立たしくてしようがない。しかし何故だか『そうだという事』も、どこかで解ってもいた気がして、文句を言おうと口を開いた彼は自然、こう尋ねていた。
「あんた・・・名前は?」
 にっこり、と彼女は微笑んだ。
 初めての彼女の、その笑顔に不覚にも見とれてしまった彼をよそにして、彼女が名乗りをあげる。

「GS美神よ」





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