いいコじゃん -第一章:きゅうりと少女-
投稿者名:来栖川のえる
投稿日時:(02/ 5/28)
シャキッ!
水々しい音がする。
「う〜ん!やっぱりうまいなあ!」
「仕事後っていうのはやっぱ格別やね!」
「そうやな〜!」
続いて、少年少女の声がそよそよと風になびいている畑に響き渡る。
「やっぱとれたての生が一番うまいんやなあっ!」
「そうや!塩なんかかけるんは外道のすることや!」
とれたてのきゅうりをほおばってしゃべっている三名の名は、横島・銀一・夏子といった。
辺りはセミの声が降ってくるように聞こえてくる。
空は、雲ひとつ無い晴れ。
畑では農家のおばさんたちが、汗だくになりながら作業をしていた。
誰でもここに来れば、きっと自然の優しい匂いを感じることができるだろう。
風の運んでくる草花の香りがなんとも言えない。
「のどかな風景」とはこういうものを言うのだろう。
彼らはこの頃、農家の人々を手伝って、仕事の後にこうして肩を並べて野菜を食べるのがはやりだった。
汗も野菜も、三人で居る時間も、彼らにとってはかけがえのない「勲章」だった。
「それ食べ終わったら、もう上がっていいからね〜っ!」
「は〜いっ!!」
彼らの座っている位置からは背の高い草が邪魔をしていて見えないが、彼らはおばさんの優しげな声のするほうへ、元気に返事をした。
「さて、次は何するん?」
「そーいや、神社の方の小川で、ザリガニが良く取れるって友達が言ってたで!」
「よ〜し、じゃあ次はそこやねっ!」
「彼らは自転車をまたぐと、初夏の気持ちの良い風を切って、走っていった----------
まぶしいばかりの陽光が、彼らを優しく包み込む
-いいコじゃん- 02 NOE
「おい!そっち回ったぞ!」
「キャッ!水かけないでよーっ!」
「よっしゃ!捕まえたで!銀ちゃん!」
小川からパシャパシャという水の音と、子供たちのはしゃいでいる声が聞こえてくる。
彼らが三人で遊び始めたのは、それがいつからだったかはよく覚えていないが、とにかく彼らにとって、一番楽しい時間、といったら三人で遊んでいる時間だった。
春は、満開の桜の下で鬼ごっこして花見客を困らせたり、
夏は、汗だくになってザリガニをとったり、魚をとったり、
秋は、農家のおじさん・おばさんに頼んで芋をとってみたり、
冬は、手を赤くしながら雪合戦をしたり------------
彼らにとって、これ以上の「楽しい時間」という物は、果たしてあるのだろうか?
時に怪我をしようと、時に虫に食われようと、彼らは好きだった。
この「三人一緒」の時間が好きだった。
強く言うなら、「ずっとこの時間が続けばいいのに」と、彼らは子供心に思っていたのかもしれない。
「じゃあ、またねーっ!」
「バイバーイっ!」
「じゃねーっ!」
辺りがすっかり赤みがかって来た頃、三つの小さな影は、それぞれ疲れきった顔をして、それぞれの家路についた。
太陽は、彼らを優しく包みながら、ゆっくり沈んでいった。
チリンチリーン!
翌日、横島は急いで自転車を走らせていた。
「おばさ〜ん!」
彼は、昨日の畑につくと、大声でおばさんを呼ぶ。
「はいよ、なんだい?」
今日も仕事をしていたおばさんが、仕事着のままで横島の方に顔を出す。
「そないに急いで、どないしたん?」
「夏子が風邪ひいたらしいいんや。お見舞いにきゅうり持っていきたいから、きゅうり分けてくれや。借りは明日にでも返すやさかい」
「あら、夏っちゃんがねえ。よっしゃ、じゃあ今取ってくるから、そこで待っとってな」
おばさんの後姿を見つめながら、横島はあせりを隠しきれないようで、自転車のベルを意味も無くなんべんも鳴らしていた。
夏子は彼らと付き合い始めるまえから、若干病弱な身体で、学校も一ヶ月に3、4日は必ず休んでいた。
そのたびに横島、銀一はお見舞いに行ってあげるのだが、今日は学校で帰るときに銀一がつかまらず、横島一人で行くことになった。
なぜ横島がここまであせっているか、というと、実はこの前夏子はひどい肺炎にかかり、大変苦しそうで、横島たちも思わず顔をしかめてしまうほど痛々しかった。
だから、彼は今回も彼女の病気がそのくらい重かったら、早く行って元気づけてやらなくてはいけないと思い、ひどく気が逸っているのだった。
「はい、きゅうり。袋につめといたからね!」
彼女は走ってきたらしく、方で息をしていた。
「あんがと、恩に着るわ!」
横島は袋に詰まった十本ばかりのきゅうりを抱え、夏子の家に自転車を走らせた。
「夏子ーっ!おるかーっ!?横島やーっ!」
彼が夏子の家のトをガチャガチャあけようと死ながら、何度も呼んでいると、鍵の開く音がして、夏子の母が出てきた。
「あら、横島君、いらっしゃい」
「夏子は!?夏子は大丈夫なんか!?」
彼が思わず食ってかかるように夏子の母親に聞くと、彼女は彼をなだめるように彼の方に両手を置いて、
「大丈夫よ、ただの風邪みたい」
と、優しく言った。
「本当ですか?よかったぁ〜・・・」
彼は肩の荷が降りたように、ほっと胸をなでおろした。
「お見舞いに来てくれたんやね?夏子はこっちの部屋よ」
彼女が案内してくれた部屋に行くと、夏子が布団の上に座って本を読んでいた。
「夏子・・」
「横島!来てくれたんかーっ!待っとったんやで!」
そういうと彼女は彼を手招きして自分の布団のそばに呼んだ
ついでに、目配せで彼女の母を部屋から追い出したり。
「ん?何?その袋?」
「ん?・・・ああ、これ?こりゃ、おみやげやねん」
「どれどれ・・・・・!わあ、あのきゅうりやんかっ!ありがとなっ、横島。ちょーど冷たいもの食べたかったんよーっ!一緒に食べよ?食べよ?」
そう言って彼女は横島にもきゅうりを渡すと、自分も元気よくかじり始めた。
シャキッ!
軽快な音が、彼女の部屋に響く。
「でも良かったわー!元気そうで」
「ん?何や?心配してくれたん?あんがとな」
こういうセリフを恥ずかしげもなく言えるのも、彼女の魅力の一つなのかも知れない。
横島は、うすうすと気付いていた。この頃、彼女に対する何か特別な感情が生まれてきたことを。そしてそれが何であるかも。こうして二人で居る間中、心臓の音が聞こえそうなほどドックンドックンしているのが、その証拠。
そのせいで意地悪したりしちゃうけど・・・・。
好きなのだ。心の底から。
彼女といると心が温まっていくのが感じられる。
だけど。
だけど彼は彼女にそのことについて何も言わなかった。
・・この関係を崩したくないから。「三人一緒」の時間、大切にしたいから。変わりたくないから、この現状。
こうして会話しているだけで良かった。
そうだ。会話するだけで
-----------いいんだ。
ドンドンドンッ!
彼らが仲良く語らっていると、突然家の戸が激しくたたかれる音がした。
「は〜い!」
夏子の母親があわてて戸を開けに行く。
「あら、銀一君、いらっしゃい。夏子のお見舞いに来てくれたの?それなら、こちらの部屋よ」
すぐ、銀一は部屋に入ってきた。彼は自転車を全速力で走らせてきたらしく、大量の汗を額に浮かばせていた。
「あ、銀ちゃん?・・どうしたの?そんな所に立ってないで、こっちに来なよ?」
夏子が、突っ立ったんまの銀一に対してやわらかく尋ねる。
「・・・・・・!」
突然だった。
突然、彼はその場に崩れたかと思うと
-------------------------大量の涙が、彼の頬を塗らした。
第二章「転校」に続く
{作品解説まで入るのか?字数。まあ、簡単に。こんにちわ。のえるッス。連載物になってしまいました。嫌です。かなり。一話ごとに起承転結をつけるのが難しいし、なんとなくまったりとしちゃうし、第一、一話ごとに無駄な部分多すぎ。今回の話もなんかあらすじだけ追っちゃったって感じダシ・・・・・。三章か四章で終わると思われるので、最後まで付き合ってくださいな。 2002 のえる}
今までの
コメント:
- ふぅ。とりあえず、前回のコメントに入りませう。
しかしですねえ、こんなに賛成票も反対票も総じてうれしかったのは、はぢめてですよ。いやはや、勉強させていただきました。皆さん僕より深く考えているようで・・・え?ははは・・・・。 (のえるぅ(シヴォンヌ))
- >台所さん
ありがとうごぜぇます。そうですね。ルシオラの魅力は、多分にその点にあると、「僕は」考えております。しかし「罪」に賛成の人が居るとは思わなかったなあ・・・。 (のぇる)
- >ふちこまさん
ふむふむ。そうでしょう。元々そのように書いたのですから(苦笑)。
『愛し、愛されたこと』=『罪』=『些細な事』
これをあえて第一印象にすることで、別に効果を狙ったんですね。
それはなにか?
ずばり、皆さんの先入観を排除してむしろ僕に対して、否定的な目で見てもらいたかったからです。ココの読者の皆様はまさか、この二人の関係に「罪」なんて否定的な言葉を持ってくるなんて思わないし、むしろそれを否定したいでしょう。
だからこそ、意外ななげかけがないと、意味がないと思われたんですね。この僕の意見に対しても、嫌な人はいるでしょう。しかしまあ、僕的にはこういう意味合いが5割をしめていたんですね。もう5割は、「愛」が「罪」なのかどうか?最初になげかけておきたかったのですよ。 (来栖川)
- >魚高さん
まあ、そういうことよ(笑)>太陽は罪なヤツ
ついに連載ですよ!ええ。まあ、見守ってくださいな。 (のえるだっちゃ)
- >黒犬さん
そうでふねえ。全ての愛は「罪」である。たしかに、そうでしょう。いや、というより、「人が人を信用する」ことも罪ですかね?信じれば痛みをいつか伴う。だが、人間は信じることを止まないいんですけどネ。 (NOE)
- >Iholiん
来た来た来た来た〜っ!
・・・・なにが?
で、本題に入ると、その意見には大いに賛成ですよ、僕は。
>かの慟哭の際には「口先ではホレたのなんの」と言っておきながら「てめえのことばっかりで」、「命も惜しくない」と言っていたルシオラに「何もしてやらなかった」己(ヨコシマ)を責めています(同参照)。
しかしその後、彼女が転生する可能性を得た段で彼(横島)は「彼女に会えてよかった」とも言っています。
はい。そうです。しかしそこで、彼は大いに苦しんだでしょう。前半の部分ですね。
↓続く。 (のえっる♪)
- そこは彼が彼女を愛した結果、というわけです。いほりさんの言うとおり、「罪」の話題は「肝」でありまする。彼はその優しさゆえに、{「口先ではホレたのなんの」と言っておきながら「てめえのことばっかりで」、「命も惜しくない」と言っていたルシオラに「何もしてやらなかった」己(ヨコシマ)を責めています(同参照)}こう、苦しんだ。
彼女を愛さなければ、苦しまなかった。いつもどおり、魔族を倒しただけだった。だが、彼は愛した、ルシオラを。いや、べスパやパピリオにだって好意を抱いていただろう。「だから」彼は罰を受けて、苦しみぬいた。
だがここで、「彼女に会えてよかった」という結論。一見矛盾しているようだが、なんのことはない、ここに真の仕掛けを残していたんですよ。
↓さらに続く。 (NOE)
- ここは彼が「彼女を愛して、愛され、それがシアワセなときであった」と自分で自分にいい、そして認めたところなんですね。ルシオラも同じようにシアワセだった・・・とも思ったはずだ。
つまり、彼の犯した「罪」は彼に一時の「苦悩」という「罰」を与えたが、彼は罰を受けながらも、それがシアワセだったということに気付く。そして、ルシオラにとってもシアワセな時間だったことに気付く。それは真ん中らへんのルシオラ主体の文である程度はつづれたかと・・・・。だから、彼にとって、「愛し、愛されたコト」は「些細な」罪なのです。愛したことが「些細なこと」なのではなく、彼のしたことは、彼に対して「罰」を与えたが、だが、彼の罪は、彼も、ルシオラもシアワセにしたというのは変わらない事実。だから、「些細」なんですね。
↓続く。 (NOE)
- しかしまあ、その辺がうまくつづれなかったのは、僕の力不足であることは言うまでもありません。いほりさんの意見を尊重すると共に、その意見が今後文を書く時の力になることでしょう。
つづかない (NOE)
- >マサさん
ふむぅ。そうですね、「罪」という言葉は多様性があると共に、大変危険な爆弾ですね。注意しまふ。 (のえるさんっ!)
- さて、今回の作品の解説を簡単にしておくと、今回の作品では色々なテーマを追っていきたいと思っております。その中心はもちろん「子供たちの多彩な感受性」であるのですが。ほのぼのとした情景などもテーマにとっていますし、横島の心についてあるテーマを置きたいと考えております。でわ。 (来栖川のえる@一番好きなのは恋のジャックナイフ)
- いや〜、題名見たとき一瞬びびりました。(汗)
ん〜やっぱりきゅうりはとりたての生が一番!
ってそれより第二章転校たのしみにしております。でわ!またこんど! (きゅうり)
- 夏子様登場!!(あいさつ) しかも「病弱」というキャラ設定が夏子に付されるのはこの「展開予測ショー」のコーナーでも初めてな気がします。大概「元気な気の強い女の子」として描かれることが多いので、新鮮味を感じました。女の子のことになると必死になる横島クンの原点はここにあったのですね(多分)。次回の「転校」編も期待しております♪ (kitchensink)
- はい、『いいコ』見ただけで瞬間的に〔いいコ=おキヌちゃん〕の方程式が出来上がってしまうかなりダメダメなマサです。
いやぁ〜、のえるさんに教える事なんて私は無いですよ。本当に。逆に教わりたいくらいです。わざわざ反対票を貰うようにしているその心理に負けを確信しております。
しかし、きゅうりさんの気持ちも分かりますよ。うん。
ところで、きゅうりを食べる時の音って微妙ですよね。「パリッ」「ボリッ」「コリッ」「シャリッ」…やっぱり難しい…。(汗) (マサ)
- 罪と罰に塗れながら、それでも誰かを愛し、信じ、求めずにはいられない。そして、求め続ける事こそが永遠を体現する歓喜であり、人の生きる糧なのでしょうね。
懐かしさと、少しばかりの切なさを含んだ、美しいお話ですね。流石です。
今回の話、非常にノスタルジアを感じてしまいました。田舎育ちの上、祖父母が趣味とは言えかなり本格的な畑作をやっていた環境で育った俺には、色々と共感できる話でした。(特に、畑仕事を手伝って、褒美に貰ったきゅうりをパキッと……懐かしいなぁ) (黒犬)
- きゅうりにスイカ。瓜科の青は日本の夏の風物詩ですね。あの涼しげな――色、音、食感、みずみずしさ、味――まさに夏の味方!!
……なんて。ちょっときゅうり談義にのってみました。
きゅうり以外にもザリガニ、雪合戦…と、魅力的な響きが多数でてきますね。
また、夏子を前にした時の横島くんの様子が詳細に描かれており、この視点で次回は原作にも出てきた例のシーンを……?? と、勝手に期待してしまう限りです。 (斑駒)
- とても楽しく読めました。
ああ…読んだらきゅうりが食べたくなりました。(野菜大好きです) (3A)
- 夏子ブーム!? ブームなのか!?(←挨拶)
つーか、二章で『転校』って……?
つまり、あのシーンは、クライマックスじゃないんですか??ないんですね!? (魚高@連載バンザ〜イ)
- そ、そうだよねえ(涙)
そ、そうなんだっうちが書きたかったのもこーゆうなっちゃんだったのに!(涙)
続き純粋に楽しみです (hazuki)
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