ザ・グレート・展開予測ショー

彷徨う二つの心(7、二人の心は交差して…・訂正版)


投稿者名:マサ
投稿日時:(02/ 5/24)

「はあ〜、体がだるい…」
昨日の激しい稽このためか、横島は軋む身体を引きずりながらのっそりとした様子で本日の授業を終わらせ、アパートの自分の部屋の扉の錠に鍵を刺し、回す。

 カチャッ

「あれ?」
錠が掛かる音がする。
「おっかしいな〜、今朝ちゃんと掛けたはずだけど…」
再び鍵を回し、今度こそ錠が外れる音がして彼は中へ入る。
と、中から現れたのは…
「お帰りなさい、横島さんっ!」
「おキヌちゃん!?」
それは制服姿のおキヌだった。
いつものごとくそう字をしていたらしく、室内は殆ど片付いている。
「勝手にお邪魔してま〜す」
「どうやって中に?」
「幽体離脱して中から開けたんです」
「ははは…。(苦笑)流石おキヌちゃん…。《鍵いらず…》……いや、それはいいとしてだな。別に俺は自分で掃除できるし、汚い部屋でも平気だからいいんだって、掃除なんか。毎回毎回見られたくないものがあるって言ってるのに…」
「これのことですか?」
そう言って例の如く彼の『見られたくないもの』の一ページを開いて見せる。
「…いや、だから見せなくていいって(汗)」
「くすっ…心配してたんですよ。タマモちゃんに聞いたら昨日の修行の後ふらふらだったそうじゃないですか。……無理しすぎです」
澄んだ高い声が優しく響く。
いたわりを込めたゆっくりとした言葉に乗せて。
「ああ、昨日は帰った途端に眠っちまったな」
「『ああ』じゃないですよ!大丈夫なんですか?!」
突然の彼女の怒声に横島はひっくり返る。
「…か、体がだるいです…」
「はあ、やっぱり。私、元気の出るもの作りますよ。材料は持って来ましたから」
溜め息を吐きつつ、台所へ向かうおキヌ。
やがて、食材を刻む音が様々なリズムを奏で、続いてガスコンロに火をつけるカチッという音が聞こえてくる。
《あのコンロに火をつけるコツ、何時の間に憶えたんだか…》
そう思いながらその華麗な後姿を見詰める。
―俺は…―
―俺は…気付いた―
―本当は誰が好きなのか―



普段は『仲間』の輪の中であえて乱すことなく振舞っていても、何時もどこかで自分の心配をしてくれていた。

いつも明るくて
頑張り屋で
包み込むように優しくて
他人の事を自分の事のように心配して助けようとしなくてはいられなくて
傍にいるだけで救われる気がする

あいつを失って落ち込んだ時も、自分の手を握って励ましてくれた。
自分はこの少女に何度助けられたのだろうか。

思えば、彼女は自分では理解しきれないほど辛く悲しい過去を持っている人間であるために形成されたものなのか。
否、彼女だからこそ、その心の強さがあったからこそ、辛さを乗り越え、マイナスをプラスに出来たのだろう。

しかし、時折寂しげに見えるのもまた事実なのかもしれない。



そして、彼は気付いたのだ。
―俺はこのコが…!―
彼はゆっくりと立ち上がると、そっと台所に移動し、背後からおキヌを抱き締める。
―唯、その背中が愛しくて…―
「!!!!?」
一瞬何が起きたのか分からず、声が喉の奥で止まったまま出ない。
彼女の手に持っていた包丁がするりと落下し、まな板の上で鈍い音を響かせ、静止する。
おキヌは必死に言葉を紡ぎだして一言。
「…横島…さん?」
「……………ごめん。なんか後姿が可愛いなって思ってつい…それだけだから…本当に…それだけ……」
横島は掠れた声で言う。
―本当は言いたい事があるのに、言うとあいつが可哀想で…。だけど、それ以上に言い出せないことが苦しくて―
「……あのひとのこと考えてるんですか?なんだか…辛そう…」
「!?」
何時の間にか感情が外に現れていたらしい。
「もういないひとのことを何時までも引き摺ってたって良い事なんて無いですよ。そのことは誰よりも私が知ってるんですから…!」
=私じゃ、何もしてあげられないのかな?…あのひとじゃないと…ダメ?=
青い瞳が―潤む。

 ズキンッ

彼の胸が締め付けられるように―痛む。
「ごめん…!あいつにまた会えた時は親子なんだよな。何時まで気にしてるんだろ、俺。おキヌちゃんの方が辛かったのに…」
自分の情けなさに嫌気がさす。
「私はもうそんな事で辛くなったりしませんよ。元々母の顔なんて知らないし、何よりも今はその溝を埋めるだけの温かさがありますから」
「!?…おキヌちゃん…!」

 ぎゅっ

抱き締める腕に力が入る。
「…あのひとは大切だったんでしょうけど、きっと何かが埋めてくれますよ」
そう言って横島の手を両手で優しく包み込む。
=辛い顔は見たくない…=
「……ありがと。大丈夫、もう結構立ち直ってるから。これもおキヌちゃんがいてくれるからかな?」
「え?」
「な〜んて、俺らしくも無いキザな台詞並べて、なに考えてるんだかこの作者」
「あの〜、別に創作者への文句はこんな所で言わなくても(汗)」
―このコの指摘の仕方はなんとなく受け止めやすい。
 当たり前すぎて気付かなかった―
=こ〜いう親しみやすさがいいのかな?=
二つの心は交差して、言葉に出さない所でつながっている。
見えない何かが―ある。
「…ま、とにかくおキヌちゃんがいて良かったよ」
「…どう致しまして」
溜め息混じりにおキヌ。
=今はその言葉だけで…充分嬉しい=
「…こうやってると、おキヌちゃんが霊団に追われていた時のこと思い出すな。…考えてみたら、あの時初めて俺の方から抱いたんだよな」
「そうですね。…でも、あの時はこんな事しませんでしたよ……」
そう言って彼女は横島の方に向き直り、自分の唇を彼の唇に重ねた。
「!」
「私は横島さんが好きだから、誰にも渡しません!」
「……おキヌちゃんは強いよ、心が」
「そうですか?」
「そうだよ」
どこか優しげで、心からすうっと出てくる会話。
互いに微笑する。

あいつのことはずっと俺の心から離れないだろう。
しかし、俺はもうそのことで落ち込む事は無い。
忘れたわけじゃない。
唯……
―気持ちの整理が出来ただけなんだと思う―
「横島さん?」
「ん?」
「…そうだな。あんまり遅くなって疑われるといけないし(特に美神さんには)」

それから少ししておキヌちゃんは帰り支度を始める。
「それじゃあ、私はこれで帰ります。あと、ココに栄養ドリンク置いときますから飲んでくださいね」
「そんなに気を使わなくたって俺は大丈夫だって(汗)」
「駄目ですよ、油断しちゃ」
そう言いながら人差し指を立てて横に振る。
そして、俺に背を向け、ドアのノブに手を掛けた。
「また…来てくれるかな?」
「!」
照れくさくて出来るだけ顔を見ないようにして言った俺の台詞に一瞬動きが止まったかと思うと、さも嬉しそうに笑って
「はい!」
と言うと、そそくさと帰っていった。




「……………………」
横島は無言で買い物袋の中に入った小さな瓶を取り出し、眺める。
「滋養強壮・霊力の回復に『エンゲル炎帝液』。…あ、ヤモリ入ってる。…つ〜か“厄珍製薬”って書いてあるぞ、おい…!(滝汗)」
とりあえず『エンゲル』(笑)を左手に持ったまま、コンロに乗ってる鍋の蓋を開けてみる。
蓋を開けると湯気が立ち上り、中にあったのは……
「…クリームシチュー?」
市販の簡単に出来るものらしく、ゴミ箱に一人分の空パックが入っていた。
「まったく…、泣けてくるよな。俺なんかにこんな事までしてくれて…」
―だから、こんな気持ちが、愛しさが生まれる―

互いに、相手の存在がかけがえの無いものになっている。
一緒にいた時間の長さが相手の多くを理解させてくれる。

―でも、俺が他人を幸せになんて出来るのか?…俺に人を好きになる資格なんて…―
『相手のことを考えすぎて自分の気持ちに素直に…』
―!?…そうだ…俺は…―
『どーせ後悔するなら―――』
―あれこれ考えるなんて俺らしくない。後先考えずに突っ走る方が俺らしいよな―
「正しいと思う事を…か…」
―俺が正しいと今思う事は…一つ―
「もう、おまえ以外の人を好きになっても言いか?許してくれるか?ルシオラ…」
そう言うと手に持った瓶を再び見る。
瓶の蓋を捻り、独特の音が響く。
開いた瓶の中身の色を見ないようにして、鼻をつまみ、彼は一気に飲み干した。
「ぐっ!?」

 どがげげんっ 「ギャ――――ッ!?」 …ばたっ

そのあまりの素晴らしい味に意識を失う横島。
「これで…いいんや。今、俺にしてやれるのはこれくらい…だぁ…」
―俺は臆病者なんだろうか。たった一言が言えなかった、あのコには―






「…ちょっと我儘だったかな?『誰にも渡しません』なんて。………でも、あのひとに何時までも横島さんを取られたままなのは嫌だから…」
そう一人ごちて西の彼方に沈み始めた太陽を見る。
―あのひとはずるい。いきなり割り込んで横島さんをとっていったと思ったらすぐに遠い手の届かない所へ行っちゃって…―
「………」
おキヌは夕日を右の掌で隠すと、ゆっくりその手を握る。
「ルシオラさん、貴方には絶対に負けません!」
―叶えてみせるわ!…だって、私の初恋なんですもの!―
静かな住宅街の中で、彼女の姿は一層輝いて見えた。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa