ザ・グレート・展開予測ショー

夕闇(裏側)後編1


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 5/23)

そのことばに横島は、どこかぎこちなく、だが笑みをつくって
「ありがとう」
という。
その様子は、嬉しそう―というよりも、ただなにか義務的に言葉と、表情をつくっているといえるかもしれない。
だが、おきぬはそんな様子に気付かない。
いや、気付けないのだ。
懸命に痛みに耐えていたのだから。
さっき付けられたこころの傷は、生々しく今も血が溢れ出し―止まる事もない。
体の痛みというものは、心を引きずり込む―それと同じようにこころの傷みは体をひきずりこむ。
こころが痛い―同時にひきずりこまれるように、全身が痛いと叫んでる。
胸がいたくて―それでもその痛みに耐えていた。
おきぬはぐっと両手を握り締めたまま―
言葉を口にする。
この傷を決定的なものにするために。
きちんと諦めるために。
―ニ・三度瞬きをし、首を軽く振り―顔に笑みを張り付かせて言う。
「どんな人なんですか?」
声はもう、震えていない。

それに還ってきた言葉は―優しいものだった。
口元を緩ませ目には柔らかい光を浮かべ言う。
「優しいひとなんだ」
横島自身がもっと優しいのに。
でもよかったとも思う。横島が好好きになった人も優しいひとで―
よかった―と。
もちろんそれだけじゃない。
苦しくて、嫌で、うまくいかなければいい―と欠片も考えていないのかと言われると困る
―そうじゃないとはいいきれないから。
それでも―良かったと思うこころに嘘はないのだ。
横島は、尚も言う。
「アイツのこと好きなのと―同じくらい―か、それとも同じじゃないくらいなのかわからないけど、だけど、好きだ」

優しい―だけどすこしだけ寂しさがまざった声音で。
「―……」
何故だろう?と思う。
好きな人の話をしているのだからもっと嬉しそうにするなり、てれたようにするなり普通はするのに―哀しそうなのだ。
いや辛そうだと言ってもいい。
そしてうっすらと横島の口元に笑みが変わる。
ゆっくりと、柔らかい笑みから、自嘲を含んだそれへ
そして紡がれる言葉
「―うん。でも、おかしいんだ―俺アイツの事忘れたって訳じゃないのに―もう好きじゃなくなったって訳なんかじゃないのに―」
その声音は哀しくて、思わず自分の痛みすら忘れそうなほど痛くて―
いけない
と思った。
「―こんなんじゃ俺の事好きだなんて言ってもらえるわけない」
ずきんっとしんぞうが痛んだ。
すきだと言えない
―今の言葉はそう言っているように聞こえたのだ。
まるで、このひとは、自分は一人の人を好きになれないから、たったひとりを思うことをもうできないから、そのひとに―言葉を継げることができないといっているように聞こえたのだ。
―駄目だと、強く思った。
このひとにそんな顔をさせては―そんな言葉を言わせては―と。
意識する前にもう口は動いていた。
「そんなことないです」
と。
そして近づきそっと右手で両手を握った
つづく

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