ザ・グレート・展開予測ショー

BOY MEETS A GIRL  その十五 〜 後・過去との決別 〜


投稿者名:魚高
投稿日時:(02/ 5/23)

宇宙は広い。そして悠久の時が流れている。
この暗黒の世界に身を投じていると、極度の興奮状態に陥り、走り出したい衝動に駆られた。
きっと、地球が存在する銀河以外にも生物の存在する銀河が在る筈だ。
今すぐにでも、駆け出して、それを確かめたい、見てみたい。
しかし、体は思うように動かず、気持ちばかりが膨らむだけだ。
確かに、周りは見えているのに―――

彼の顔は、憤怒ともとれる必死の表情をしていて――例えば、寝ている友人が何か呻きながら歯を食いしばっているところを見たことは無いだろうか? 丁度、あんな感じに似ている。
ちょっと竜太は、話しかけづらかった。
「テ、テ……ゥオホン――テルさん!」
半ば諦めともとれるように、大声で竜太は呼びかけた。
ここは、病室といえば病室なのだが、先ほどのように誰かに水を差されるということはない。
――そう、先ほどとは違う。
先ほどの不完全なものとは違い、張良の力も上乗せした為、空間そのものが、
あたかも異界に在るかとまで思い込ませるほど幻術自体の効力……というよりスケールを高め、
独自の仮想フィールドを築き上げているのだ。
少しくらい、声を張り上げたって他の患者や、医師たちに気づかれる心配はない。
ただ、難点なのは、メインとなりイメージをし、幻術を駆使している術者――
――この場合は、張良は竜気(霊力)を提供しただけなので、タマモを指す――
が、フィールドに入ることは、術者に掛かる霊的負担が増大してしまう。

―今現在は、竜太と清水(テルさん)が被術者であり、幻術の一部分であり、効果は、そのものだけに表れる―

被術者は、フィールドで他の被術者、あるいは自分を傷つける以外のことは、
何をしても、フィールド外(実在する世界)に、盛れる事は無いのだ。
同時に、フィールド外で何が起きても、ほとんど被術者に影響はない――

――術者に異変が起こること以外は――

この仮想フィールドが維持されるには、術者と被術者の安定した精神が必要で、
双方とも、精神的案性を保たねば、術者に霊力的負担がかかる。
術者は、二つの世界の中間に位置する存在、という訳でもなく、基本的には、現実の世界に位置する。
その為、仮想フィールドと現実を結ぶ地点――この場合は、さゆりの居る病室――に
術者が足を踏み込むことは、どちらの世界に意識を置いても精神的不安定に追い込まれる為
今、霊力の残量が稀少なタマモには、避けなければならないものとなっている。
術者でも被術者でもない張良は、現実世界の病室で、さゆりの完全回復を図り、
竜太は、匠の時の事情で、当時の上司である清水と、あやふやになった別れを済ませようとしている。
そして、タマモは、辛うじてフィールド外の位置――それが最も使用する霊力が少ない――
に身を置いている。
つまりこの場合は、窓の外にへばり付いているのだ!(一応、両手を翼に変えて浮遊している)


「テルさん? 俺の声が聞こえるね? 答えてよ!」
「……そんな風に呼ばれたこともあったな……だが、今は無いよ…」
清水は、かろうじて竜太の問に答えてはいるが、心ここに在らず、といった感じで
その眼は、小さな流星一つでも逃すまい! といった感じで食い入るように暗黒の世界を凝視している。
半ば無視されている竜太は、それでも気分を害すことはなく微笑みながら清水を見ている。
「相変わらずSFは好きなのかい?」
「ああ、最近はデキが良いぞ! 特に、お勧めなのは、『猿の銀河大戦争』だ。君も観たほうが良いぞ」
「あれは、もう観たよ……確か、脚本にゴーストライターを使ってたって噂になったヤツだろ?」
「何、本当か!? 私は、ジョージ・スピットゥルバーグと会ったことがあって、一昨日も職場で自慢したんだ……」
「へぇ……すごいじゃないか、なんにせよ有名人には変わらないぜ」
「違うぞ! 私は、ただのミーハちゃん(←ミーハ―のこと)じゃないぞ! 真剣に尊敬していたんだ……」
清水は、やっとこちらを向いた――にも関わらず肩を落として下を向いてしまって竜太の顔を見ようとしない。
「なぁ、君! 教えてくれ、じゃあ誰が書いたんだ!? 私は、これからソイツに会って――」
清水は、竜太の肩を揺さぶり……そして、もちろん竜太の顔に視点を合わせた。
竜太は、しめた! と、喜び頬がさらに緩んだ。普通、赤い髪の男が目の前に立っていたら取り乱すものである。
しかし、別に清水が驚くわけでも避ける様子も無い。
少しガッカリしたが、同時に『テルさんらしい』という懐かしさもこみ上げてきた。
「……少しも疑わないんだね。見ず知らずの男が言ったのに……でまかせかもしれないのに…」
そう聞くと清水は、メガネを人差し指で直し、竜太の肩から手を離した。
しかし、その顔には、疑念や不安等といったものは微塵も感じられなかった。
「君は信用できるよ。……少なくともSF好きに悪いヤツは……結構居るけど……君は違う」

竜太は、匠が所在していた特務機関によって収集された情報の『本機関所属人物欄』に書かれていた清水についての一遍を思い出した。
――ったく…なにが『未知の事態にも冷静に対処でき……』だ!
清水は一見すると、人気の無い教頭先生だが、匠にとっては、違った。
少しぬけていて、寂しがりやで……でも、頼りがいのある男だった。

「……奥さんとは、幸せにやってるかい?」
「あぁ……。だが、家内は怪我をしちまってね――その為の見舞いさ……」
清水は、あきらかに落胆し、竜太が見ていても痛々しい光景だった。
この表情を見て、竜太は胸が苦しくなった。まるで自分自身が締め付けられているように。

竜太は、匠に問いただす。やがて訪れるであろう質問に答えるために。

何故、オマエは、こんなことをしているのだ?

……わからない……

――偽りの世界は、ゆっくり回っており地球が微かに二人の視界を掠めたのだが
  二人は、それぞれに自問しているので最早、宇宙等はどうでもよくなっていた。

宇宙は、何も答えてくれない。
―――竜太と匠の問答は続く

    
    ――― 横島クンとシロちゃん♪ Part4 ―――
「なァ、シロ。俺…本当に、なんかしたか?」
本当に不思議そうに訊く横島に悪意は無い。それをシロも承知しているのだが……。
横島は、そんなシロの様子をみてもどうすればいいかわからず、苦笑しながら頭を掻いている。
――先ほどから、こんな調子が幾度となく繰り返されている。
「だから! 別になんでもないって言ってござろう!?」
シロは、突っ伏してしまっているので、横島にとっては、声だけが飛んでくる。
声は、実にかわいらしく、たまに行く学校の同級生となんら変わりはない。
そういえば、最近、本当に学校行ってないな。
窓の外に再び目をやりながら、フッとそんなことを思い出した。
ギリギリ視界に入るシロの肩は、微かに震えていた。
日も沈み、星が観えない。
――雲行きが怪しくなってきた

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