ザ・グレート・展開予測ショー

真夏の陽光  −まなつのひざし−


投稿者名:来栖川のえる
投稿日時:(02/ 5/19)

通りは真夏の暑さに包まれていた。
「へい、らっしゃいらっしゃい!今なら大根安いよ〜」
「あら、そこのかわいいお嬢さん、今なら夏みかん一つおまけしちゃうよ!」
元気な声があちらからもこちらからも聞こえてくる。
私、氷室キヌはこういうのが好きだった。
真夏の照りつける太陽、活気づいている数々の店達。そしてそのお客さん。
熱のこもったセミの声、通りを行きかう人々のしゃべり声。
様々な人々の歩く足音、舞う土埃。
そんなものがいっぺんに私に降りかかってくる。
-だけど、全然嫌じゃなかった。
むしろ私の心に心地よい風が吹き込んでくるように感じる。

そこには、「生」があるから?

・・・そうかも・・、そうかもしれない。多分、確実な説明はできないけど、そうなんだって思う。
「おばさん、これください」
「はい、1000円ね。・・・まいどあり!」
私は花屋のおばさんから甘い香りのする花束を受け取ると、そのまま商店街を離れた。

商店街から少し歩くと、さっきまでの活気が嘘のように、人の声が聞こえなくなる。
時折、自転車が私の脇を通過していくくらいだ。
でも、セミの声は一段とそのヴォリュームをあげたようにも聞こえる。
遠くの方の草むらで、子供達がキャッキャいいながら鬼ごっこをしていた。
この風景の黄色い色彩が、私の顔から思わず笑みをもらす。
『・・・きれいだな・・・。子供達も、セミ達も、みんなみんな・・』

----真夏の輝かしい日差しが、私を照りつける

私は暫く歩いてから、ある神社の鳥居の前で立ち止まって、中を覗いた。
そして元気よく
「こんにちはーっ!」
中に、叫んでみる。
三十秒ほどして、一人の女子が私のところへ走ってきた。
「あ、おキヌちゃん、よく来たねーっ。ずっと待ってたんだあよー?」
彼女は、Tシャツに短パンというボーイッシュなカッコをして私の前に顔を見せた。
名は、「氷室早苗」-----私の、姉と言える存在であった。
「はい、これおみやげ」
私はさっき買ってきた花束を彼女に渡した。
「わぁ、ありがとう!ん〜いい香りっ!」
彼女の元気なのを見ていると、思わず私も元気になってくる。
私達は、互いに再会を喜び合うと、縁側に座って一緒に語らった。
---彼女の学校の男子が何しただとか、彼女のバストがどうこうとか---
そんな、他愛のない話を。
途中、彼女の母親が私達に運んできてくれた西瓜をつまみながら。
「おキヌちゃん、向こうではどんな感じなの?」
彼女が西瓜の種を飛ばしながら私に尋ねてきた。
「んーっとねえ・・・・」
私は、これまでの生活を、彼女に出来る限り詳しく話した。その間、彼女はじっと聞いていた。

セミの声が聞こえる

ゆったりとした風が吹き抜ける

熱い緑の匂いがする

家の材木の匂いがする

いい、心地だった。
そして、思い出していた。私自身も、東京でのことを、噛み締めて・・・・。
横島さんが相変わらずスケベなことや、美神さんの相変わらずなところや、タマモという新しい仲間のこと。
そんな、日常。
そして----------

「おキヌちゃん、せっかく来たんやから、参拝していかへん?」
私の話が一段落つくと、彼女は西瓜の皿を片付けながら、こう言った。
もちろん、私は反対の理由などなく-------一緒に参拝することになった。
私たちは、熱くなった砂利道を歩く。
「うちの神社はなあ、よく当たるってぇ評判なんよ」
「ホントに〜?」
「ホントやって。おキヌちゃんの願いも、絶対叶うから」
『願い・・・・かあ・・』
なんだろう、私の願い。

賽銭箱の置いてあるところは、どことなく神聖な感じがした。
霊能者のはしくれである私が思うのだから、間違いないのだろう。
もしかしたら、ホントに願いが叶うのかもしれない・・・・。
-----なんて、ちょっと可笑しいかな?

私達は百円玉を一枚投げ入れて、鈴を鳴らし、共に手を合わせて瞑想した。
また、聞こえる。
セミの声。
また、鼻をくすぐる。
緑の香り。

美しい

生命の姿。

私は、また思い出していた。
どうしてかな?ここにくると、何か心に染み渡る物があるの。-----やっぱり、私が本当に生まれた場所だから・・・?
そうだ、私の身体の氷塊を壊してくれたのは、横島さんだった。
長い年月、真っ暗なところにいて・・・・もうよく覚えていないけど・・・・。
ずっと、一人で・・・・。
前も、後ろもなかった。
命の輝きがなかった。
風が吹いていなかった。
木々のざわめきが聞こえなかった。

------そんな世界から出してくれたのが、横島さん達だった。

うれしかった。本当に。この世界は、生命に満ち溢れているから。
他愛な日常が、輝きに満ちているから。
私の虚無の心にどんどん何かが、満たされていった。

命は、こんなにも美しいんだ---------

私の頬を、涙が伝って、地面に落ちた。
私は永遠に、忘れないだろう。この「シアワセ」------を















----真夏の輝かしい日差しが、私を照りつける




















{お久しぶりです。来栖川のえるです。同人関係で忙しくて、こっちのほうにかまけていられなくて、ずっといなかったんすが・・・・まだ、当時のメンバーが残ってますねえ。うれしい限りです。
作品解説としては、やはり心残りなのは、「横島への愛情」をかけなかったことでしょうか・・?これは、今のおキヌの根本的なものに、既になっているような気がするんですよね。その辺も、いつか書いてみたいですがねえ・・・・。
表現力の乏しさが目に付く・・・・。みなさんすごいもので・・・。
また、キヌがプレゼントした花ですが、何故現地の花を買っていって、「おみやげ」などとしたのか?疑問に思った方も多いと思いますが、それは僕の手が勝手に動いただけなんですが・・・まあ、しいて言うなら、彼女がこの地を愛するがゆえ、でしょうか?早苗の輝きに合う花を、ということでしょうか・・?
しかし、誤解してほしくないのですが、何も「東京はダメ」と言っているわけではありません。たまたま、早苗のあの光が、現地で育ったものであるから、であって、東京を卑下したわけじゃありませんのであしからず。わし烏。
「真夏」ということで、みなさんがいくらかでも「生命」を感じられたら、私はうれしいです。                2002 来栖川のえる}

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