ザ・グレート・展開予測ショー

夕闇(裏側)。前編


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 5/17)

―黄昏時の―奇跡。
事務所の窓に腰をかけ横島が座っている。
視線はもちろん西の空にむかっており―そして今広がっているのは、夕焼け。
ああ―と思う。
この人はもう、夕焼けをきちんと見れるようになったのだと。
いつか―夕焼けから目をそむけるのを見たことがある。
なんでもないような振りをして視線を夕焼けからそむける。
だけど、ふと、どんな気持ちで見ているのだろうか―?と思ってしまう。
珈琲を入れ―それを届けるという大義名分のもとに―隣までゆく
ことん
と音をたててマグカップを置くと『ん?』という声と共に横島が顔を上げる。
その表情はひどくあどけない。
そんな横島の表情が可愛らしく思え思わず笑みが零れる。
「綺麗ですね」
空を眺めおきぬ。
「―…………うん。あ、珈琲ありがと」
少しの間を開け横島。
その声音は、穏やか―だがどこか寂しく聞こえるのは気のせいだろうか?
少しだけ―胸に痛みを感じる。
もしかしたら、この時間を邪魔してはいけなかったのだろうか?
そんなことを感じながらも出る言葉はいつもと変わりない―
「いいえ」
というものだけで、自分の言葉のストックの無さに呆れる。
「―明日は、晴れかなあ?」
窓へと視線を戻し横島。
その声音はいつものとおりだ。
さっき感じた違和感―寂しさのようなものは感じない。
そのことに安心して
「そおですね。天気予報では、晴れだっていってましたけど―」
と空を眺めながら言う。
その声には答えず横島はじっと空を眺めていた。
何をおもっているのだろう―と再度思う。
横島にとって―彼女がいなくなってから『夕焼け』が特別な意味合いを持つものへと変わったのをおきぬは知っている。
昔とは違う―その光景。
いきなり、大切な人を失うというのは、どんなものなのだろう?
いつも自分は、『失われる』ほうの人間だった。
元からいない―というものは経験している
すでにいなかった―と言うことも
だけど、永遠に『失う』というものはわからない。
―だからだろうか?
声の掛けようがない。
―何もできない。
珈琲を一気に飲み干しそして、視線をそむける横島の表情はほんとうに辛そうで―
太陽が沈みあたりに夜の気配がただよい始めてもその表情は変わらなくて
どうこう思う前に声が出ていた
「どおかしたんですか?」
と。
聞いてどおすることができるわけではない。
だけど、それはきっと本心。
「―なんで?」
聞こえる言葉は、声はいつもとおりなのに―
なんでこのひとはこんなに哀しそうな、苦しそうな顔をしているのだろうか?
「だって―すごく苦しそうな顔してますよ?」
おきぬはじっと横島の顔を見据えたまま言う。
するとひゅっと横島は言うべき言葉をなくし息を呑んだ。
「そ、うかな?」
次に聞こえる言葉はひどく頼りない。
いやこれが本当のこころの声なのだ―ただ見せてなかっただけで―。
「―はい。今も泣きそうな顔してます」
なかないでください―という思いをこめておきぬ。
本当は、そう言いたいのだ。
けれども―それを言う事はきっといや、少なくとも自分にはいえない
『仲間』でしかない自分には。
だから―仲間に許された言葉を言う。
思いをこめて。
つづく

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