ザ・グレート・展開予測ショー

夕闇(後編)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 5/17)

―闇は少しずつ深くなってっゆっくりと夜の訪れを告げる
そしてゆっくりと横島は口を開いた。
何を言おうとしているのかまったくわからない。
ただ口から勝手に言葉が零れだすと―言うのが正しい。
「―俺、うまく言えないんだけど、…うん。好きなひとがいるんだ」
「そ………そう、なんですか…」
おきぬの声が震えている。
それがなんのために震えているのか―ということは横島にはわかるわけがない。
少し、怪訝そうに眉を潜めるが―だが、そのまま言葉は続く。
「良かった―ですね」
おきぬは、震える声のまま言う。
良かった―と。
自分が彼女以外を好きだといえたことに喜びの言葉を送る。
それはとても自然な言葉で―もういなくなった人に囚われていた大切な仲間がやっと他のひとを好きだといえるようになったのだ。
おきぬにしては喜ばしいことでしかないだろう。
その事実にずきりと心臓が痛んだ。
―だけど、その言葉を聞いて喜ばないといけない―仲間の気遣いに対して礼を言わないといけないのだ。
横島は、一つため息をつきそして
「ありがとう。」
という。
なんとか笑顔は作れていたのだろうか?
「どんな人なんですか?」
―と無邪気ともいえる残酷さでおきぬ。
目の前にいる人だとは、いえない。
だけど―と思った。
もしかしたらこの機会を逃したら本人に言える事などなくなるかもしれないのだ。
なら―
ならば、直接、好きだというわけじゃないのだからいいよな―と思う。
本人を前にしていっても―
多分、これはもういえないであろう言葉なのだから。
そして口元を緩ませ言う
「―優しいひとなんだ」
と、おきぬに向かって―おきぬのことを。
「アイツのこと好きなのと―同じくらい―か、それとも同じじゃないくらいなのかわからないけど、だけど、好きだ」
いつからなんて―もう忘れた。
だけど、もう引き返せない。
言う事もできない―ただ、この気持ちがなくなるのを待つだけしかできない。
「…―」
「―うん。でも、おかしいんだ―俺アイツの事忘れたって訳じゃないのに―もう好きじゃなくなったって訳なんかじゃないのに―」
―だけど、好きなのだ。
「―こんなんじゃ俺の事好きだなんて言ってもらえるわけない」
―言ってもらえるわけも、資格もないのに―まだ期待している。
くつくつと自嘲の笑みが浮かぼうとした瞬間―
「そんなことないです―」
という声がした。
その声は、真摯な―そして切実な響きがある。
そして近ずき、そっと手を握り、首を左右に振る。
「―だけど…」
だけど、無理なんだと言おうとした瞬間
小さな―ほんとうに聞き取れるかというくらいの小さな声が聞こえた。
「だって―………………………………好きですから」
―と。
「え?」
「だって…好きですから―私横島さんの事」
目の前にあるのは真っ赤な顔。
そして繋がれた手のひらから伝わる震え。
「―でも、おれ―忘れたわけじゃ―ないのに」
思いもしなかったところから思いもしなかった言葉を聞いた横島はひどく不安定な言葉を紡ぐ。
「だって―本当に好きだったんでしょ?忘れるわけないじゃないですか?」
くすりと笑いおきぬ。
「…私は、ずっと―ずうっと好きでしたよ?彼女がいるときから―いなくなってもずっと―」
「……知らなかった」
好きだと言う言葉は一回貰った事があるが―それは、昔のことで―まさかこんな風に好きだと思われる感情だとは知らなかった。
「私は、いなくなって―忘れられなくても、それでも好きだというひとがいてもいいと思いますよ―だってもうそのひとは、横島さんの一部なんですから―きっとその人は、その忘れられないこころごと好きになってくれますよ―私だってそうですもん」
ぎゅっと手を握り―微笑む。
その姿がやさしくて―綺麗で―愛しくて。
じわりと目頭が熱くなる。
横島は嬉しそうに笑い―そして言葉を紡いだ。
「好きだ」
―と。
その言葉に対するおきぬの表情は訪れた闇によって隠れて見えない。
ただ、泣きじゃくるような音だけが闇の中に響いた。

おわり。

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