ザ・グレート・展開予測ショー

夕闇(前編)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 5/14)

『太陽と月、―同じ空にある、もの。』

自分の感情を自覚したからと言って何が変わるのだろうか?
―ふと、そんな事を思いつつ横島は窓から西の空へと落ちていく太陽を眺める。
その光はあたたかで、まるでこの世界との別れを惜しんでいるかのように見えた。
―あたたかで、やわらかいひかり。
やっとそう思えるようになった。
寂しい別れのひかりではなく、優しいものだと。
―こんなふうだったのだろうか?
と考える。
彼女は―夕焼けを見るとき今の自分のように、静かで、暖かで、満ち足りた気持ちだったのだろうか?と
生きているときは―どんな風に見ているかなんて分からなかったし、考えた事もなかった。
いなくなってからは、そんなこと考えきれなかった。
ただ、彼女を思い出させるものが哀しくて。
だけど、日常のいろんなところに―いて、その中で、この夕焼けが一番思い出させる。
『綺麗だね』
―と
いつか二人で見た時いっていた。
嬉しそうに笑っていた。
いなくなった最初のうちは、ひどく夕焼けを見るのが辛かった。
思い出すから。
全てを、彼女の笑顔も、最期にかわした言葉も全て。
毎日当たり前のようにやってくる、夕焼けがひどく苦しくて―。
―なのに、今は穏やかな気持ちで彼女を思い出せる。
こころのどこかに彼女だけを失った苦しみや喪失感が、消えたわけではない。
薄れた―というわけでもない。
ただ、整理できただけなのだ。
思い出すたびに胸は軋む、たとえようもない息苦しさに襲われる。
―だけど、それは彼女が生きていた証のようなもので―。
自分の手のひらには、確かなものはなにもない。
彼女がここにいたというものは何も―。
ならば、この痛みが、このこころが、記憶が、―体が、彼女の生きている―いや『生きていた』証のようで―。
そう感じた瞬間。
すべてがいとおしく思えた。
自分は生きている限りこの痛みを抱えるだろう。
だが、それは―彼女を忘れるということに、較べるとひどく嬉しくて。
生きていた―その事実
それを、確かめらることが―彼女は幻ではなかった。
確かにここに存在した。
自分とともに生きた。
それを証明するのが、この痛み―。
ならいいや―と思う。
―それなら、まあ、自分が苦しいのもいいや―と。
だから、胸に確かに痛みを感じながらも思う。
すこしの痛みと暖かい感情。
―そしてこんなに満ちている気持ち―彼女も夕焼けを見ながらこんな気持ちになったのだろうか?と。

ことん。
と音をたててすこしばかり大きめのマグカップが置かれた。
「ん?」
と顔を上げてみるとそこには黒髪の少女―おキヌがいた。
オレンジ色の光に包まれた少女は、ひどく綺麗だ。
「綺麗ですね」
―と今自分が思ったことをおきぬが言う。
「―…………うん。あ、珈琲ありがと」
少しばかりの沈黙の後に―横島。
「いいえ」
柔らかい―優しい声。
さっきとは別の意味で胸が軋む。
今、二人の距離は直線にして五十センチはなれていない。
―体中の神経が―あっというまにおきぬへと向かう。
おきぬへの特別な感情に気付き始めたのは最近―いやもしかしたら、長い間気付かないふりをしていたのかもしれない。
だけど、一旦自覚してしまったら―もう止まらなくて。
こんな気持ちで、おきぬに言えるはずもないのに、分かっているのに―体中の神経が全ておきぬへと向かうのだ。
つづく

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