ザ・グレート・展開予測ショー

【リレー小説】 『タダオの結婚前夜』(19)[一番湯のシロタマ(最終回直前準備号)](前編)


投稿者名:Iholi
投稿日時:(02/ 5/13)

 かっぽ〜〜〜ん

 銭湯ではお馴染みである処のこの音――かなりランダムな確率で外壁素材に衝突した室内備品から発する振動が適当に加温された湿潤な空気を媒介し、そのエネルギィを著しく減衰しながらもこの特殊な形状の閉鎖空間の外壁に反響を繰り返した際に生じる音色(おんしょく)……まあ要するに、知ってか知らずか力任せにタイルに打付(ぶつ)けられた「ケロリン」の悲鳴が、湯煙溢れる浴場に存外柔らかく響いているモノ――が、広葉樹生い茂る谷川を望む一面に大きく開かれた広大な露天風呂の中に響き渡っているのは、何とも間が抜けている。が、実はこの露天風呂を含めた地域一帯が光学的に透明な結界の内側にあるのだが、この場所の特性上からこの程度の無粋は我慢しなくてはならない。
 ま、その一点を除けば、この浴場は概ね彼女の欲求を満足させていた。日本の伝統的な造園技術によって仮借された遠景の山々は、初夏の清々しい空気と初々しい緑の息吹をこちらに届けてくれる。加えてちょっとしたプール程の広さを持つ岩風呂が提供するある種の開放感と安定感は、都会の狭い銭湯では味わい得ないものだろう。それに元々彼女は銭湯は余り得意ではない。見知らぬ人間が忙しなく入れ替わり立ち代わりするのも至極落ち着かないが、第一じっくり浸かろうにも湯が熱すぎる。その点ここの湯温は熱過ぎず温過ぎず、その癖身体の内側から物理的にも霊的にもじっくりと癒されていくようなこのまこと不思議な充足感……心臓から下までじっくりと腰を落ち着けるいわゆる半身浴でそのまま何時まででも浸かり続けて居たくなるようなそんな心地好い倦怠感は、湯を幽かに白濁させている霊妙な成分の所為なのだろう。諸手に掬い上げた湯をそのままぴしゃりと白い顔(かんばせ)に押し当てて、彼女は晩春の花畑のような薬湯の薫りを存分に味わった。

 ざぶざぶざぶざぶざぶざぶざぶざぶ

 前言撤回。もう一点だけ、彼女が我慢すべきモノがあった。
『おーーい、お前も泳がんか? 広くて気持ち好いでござるぞ!』

 ざぶざぶざぶざぶざぶざぶざかっぽ〜〜〜〜ん
 ……ぶくぶくぶくぶく

『……ふぅ。』
 湯船の真中でぷかぷか遊覧している蛍光色の「ケロリン」、その傍らに犬掻きの姿勢でうつ伏せで再浮上する相棒ことシロを確認すると、彼女ことタマモは優雅なストロークを描いた白い腕を収め、再びどっかと腰を落ち着けて半身浴を再開する。
 成るべくその白いものを見ないよう、遠方の景観に焦点を合わせながら。

* * * * *
 以降、「玉」はタマモ、「白」はシロのセリフとしてお読み下さい。


玉『と云う訳で、今回はタイトル通りの番外編よ。』
白『(後頭部をさすりさすり)いたたたぁ……ええいこのメギツネ! 一体どう言うつもりでござるか!』
玉『あら、あんたにしちゃ良い質問ね。
  ……実はね、このリレー小説企画も1年余りに亘ってしまって、お客さんの方から
  「もうどんなお話だったか忘れちゃった。テヘ。」
  と云う健全なご意見を戴いたのよ。』
白『いや、そういう意味じゃなくて……』
玉『(無視)で、企画者の根性無しでこのリレー小説もそろそろオシマイにしよう、って事になって追悼の……もとい、今迄の総決算と参加者への感謝の意味を篭めて簡単かつ端的にお浚(さら)いしてみよう、って事になったらしいの。』
白『(涙目)あの、だから拙者にこの洗面器を……』
玉『(無視無視)そこで白羽の矢が立ったのが私たち! 物語が中盤辺りで「未来」中心になってから、「現代」で暇を持て余していた私たちに目を着けたのは流石だけど……単にこれ書いている人間が取り敢えず女の子出して適当にお茶を濁そうとしている姑息な意図が丸判りね。今ん処の設定じゃ単に「タマモとシロが妙神山に往く」としか成っていない筈なのに、わざわざ入浴シーンにしている辺り、アザトイにも程があるわ。』
白『(涙々目)ねぇ、だから……』
玉『(トコトン無視)そのアザトサの証拠に……今の私の格好は説明にもあった通り、ムネ下水面の半身浴。一応……バスタオルは巻いているけどね。髪の毛は一々纏めるのが面倒だから短めの夏ヴァージョン。元々が色白なだけに全身に薄っすらと紅が挿したかの様に程好く火照った玉の肌、その表面で初霜の様にキラキラと輝く細かな水滴が外見年齢相応の健全な色気を醸し出している……と云った処かしら。(ずいっ)あんたは?』
白『(ドッキン)え、拙者?! ……え、えっ〜と、拙者一番の自慢のぷらちなぶろんどはさっき洗ったばっかりでござるから、バスタオルに絡めて頭の上でそふとくりーむみたいに巻いているでござる。そして「風呂は肩までシッカリ浸かるのが作法」と先生が口を酸っぱくして仰ったので、無論今もそうしているでござるよ(ニコニコッ)。』
玉『……とまあ、サーヴィスはこんなトコでもう十分ね? じゃ、そろそろ本題に……』
白『先生は更に「湯船にタオルを入れないのが作法」と仰ってたからして、無論湯の中は
かっぽ〜〜〜ん
白『……ぶくぶくぶく』
玉『はぁっはぁっ、……もう、本題に行くわよ!(かぁっ)』

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