終曲(鞘贄)
投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 5/11)
ー終曲ー
先までとは、まるで逆の光景だった。
狼牙の放つ白い輝きは、デナリウスの赤煌により完全に抑え込まれており・・・両者の表情も入れ替えた様になっている。
喜悦に濡れた眼差しを、表情の無い雪之丞へと、否、狼牙へと向けたままに、デナリウスは左手を動かす。
強まる赤光。 カーマイン色の輝きの奔流が、今度こそはと狂った獣の身を呑み干さんとする。
その時。
デナリウスの首筋に、何かが突き立った。
『!・・・何?』
デナリウスは視線まではそちらに向けぬまま、空いた右の掌で首筋を撫でさする。
ーー針???
そう認識した瞬間には、デナリウスの思考は白く霧のかかった空間へと沈みこんでいった・・・
「やれやれ・・・」
今だ大穴の塞ぎ切らない魔城の外壁部分から、童顔の青年が姿を現した。とんっ、と身軽に外へと踊り出る。
「こちらは何とかなりましたか・・・よっと!」
意識を失い、落下してきたデナリウスを支えて(その瞬間幽かに顔を歪めて)その青年、GS副会長は上空を仰ぎ見た。
狼が在る。
惨たらしくも半身は全て失っており、首から上の部分は僅かに
繋がってはいるが、軽いチョップを入れただけでも落ちそうな状態だ。 なお断面には強いヒーリングの光が満ちており、少しずつ失った『肉体』が補われてゆく様が見てとれる。
「だが。 それにも時間がかかる。 ・・・動けますか?」
デナリウスをそっと地面に横たえるようにし、言葉の終わり際には視線を、ようやく人の形を形成し終えた侍の男へ向ける。
『無論・・・今が彼奴を討つ最後の好機・・・』
「はいすっこんでてください」
ふいに、水流が侍の男を取り囲んだ。
『貴様!?』
途端、敵意剥き出しの目を侍は向けてくるが、副会長は動じもせずにその敵意を流した。
「昔、僕の恩師が言ってましたよ。 『切り捨てるのは簡単、だけどそれは同時、自分の心も切り捨てる』ってね。 僕は僕の『僕らしい心』を棄てるなんてゴメンなんです」
いつの間にか、副会長の一人称が変わっていた。
それに気がついたわけではないが、侍の男が眉をひそめる。
『お主・・・』
「ようやく来ましたね」
副会長の目線につられて、侍の男もそちらを見やった。
一人の女がいる。侍の男も知ってる顔だった。
「陸奥季さん・・・いえ・・・」
その女性が、うつむいてた顔を上げる。
「勘九郎さん」
勘九郎(陸奥季)は、ニッ!と太い笑みを浮かべた。
『や〜〜っぱり、アタシは生まれてくる身体を間違えたわよね、もう何というかさ、このまま乗っ取りたい気分に・・・』
瞬間、ビクリ!と勘九郎の?身体が震えた。
『冗談よ、ジョ〜ダン! 全く小娘はすぐ本気に・・・』
「ゴホン!」
わざとらしく咳込んだ副会長に対し、顔をしかめて、勘九郎は口を開いた。
『で? ・・・どう使うわけ?』
ズイッ!と一歩進み、勘九郎は上空を見上げる。
『あのバカ正気にするのに要る、アタシの『生命』を』
「簡単な事です」
副会長もそう言い、上空を見上げた。
「貴方の・・・」
『貴女!』
「・・・・・・貴女の・・・ゴホッ、精神を、狼牙の刀身に贄として捧げます。 彼を救うには、もうこの方法しか・・・」
そこでとうとう、束縛されたままの侍の男が吠えた。
『バかな・・・それがどれほど危険な事か解らんのか!?』
侍の男は続けて叫ぶ。
『それがあの女傑の、美神美智恵の対応策か!?! だとしたらとんだ買いかぶりだったわ! いいか、よく聞け・・・』
副会長は聞かなかった。
「では・・・よろしく頼みますよ」
『ええ』
「丁度良い事に、狼牙の刀身は『血』に濡れてます。 液体になら僕の霊力を通せる。貴、女と、リンクし易いように・・・」
侍の男は霊力波を放った。
しかし、形を持たぬ水の結界に阻まれる。
目も向けぬまま、副会長は言い放った。
「無駄な事はやめてこそ賢明です」
『愚かな行いを試みる、愚者よりはマシだ!』
「ほう?」
『貴様は・・・美神美智恵は知らんのだ! そのような手段などとうの昔に使われ尽くした! かつて遠い過去に所有者を募った時に、志願してきた者の中でも、最も屈強な肉体を持つ二人の内、その一人を所有者に、もう一人を狼牙の鞘にせんとした! しかし結果は・・・』
「いずれも暴走。 狼牙までも意志を持った分、それを抑えるのに貴方の一族は途方もない苦難を強いられ、やがて・・・」
吐き棄てるように、侍は叫んだ。
『全滅だ! そして我もこの様な姿でやっと生きのび、狼牙の浄化と封印に成功したのだ! 貴様らが行おうとしているのはそんな愚行でしかーー・・・』
『なめるなよ?』
たった一言。
割って入ったのは雄々しい声。
陸奥季綾の、鈴の様に清らかな声音でありながら、その声には、言葉には何物も抗えない『何か』があった。
『この俺が鞘となるんだ。 そんな連中が失敗した例なんて、参考にもなりはしない』
ーー呑まれる。
勘九郎が言い放った言葉。 恐れも迷いも、つまらないプライドも全く見えない。 そこには『強い自信』がただ、在った。
『さぁ。・・・始めろ』
副会長が頷く。
「・・・行きますよ。 陸奥季さんが『貴方』の手を離した瞬間に、そこで『私』が狼牙の中へ、貴方を送り込みます」
今度は勘九郎が、迷わず頷く。
『ーーやれ』
そして、次の瞬間。
『ま、待てっ! ーーく!』
目映い『光』が、狼牙の刀身から放たれた。
今までの
コメント:
- 「続きです。今までずぅっと書きたかった、『男言葉で喋る勘九郎』を今回にてやっと書けました・・・ともかく読んで頂けて、面白かったら嬉しいです』 (AS)
- おお! 今まで勘九郎はガタイが良かったのに女言葉を使うというアンバランスさが売り(売り?)でしたが、ついにその体格に似合った男言葉を...使ってませんね。今度は男言葉を使いながらも体は女性なんですか(汗)。どんな状況でもアンバランスな勘九郎がいいですね(笑)。そしてマジメモードに入った彼(彼女?)がこれからどのような活躍を見せてくれるのか、楽しみです♪ (kitchensink)
- なんで原作当時あんな小悪党でしかなかったオカマがこんなに昇華されているんだろう?
シナリオに合わせて役者もキャパシティが変動したんでしょうか?
個人的に、水使いの性格がまたつかめませんでしたw (ダテ・ザ・キラー)
- 友の礎となる事を、自ら望んだ勘九郎……。
結局の所、彼の短い人生の最後に残ったものは、雪之丞への拘りと友情だけだったのかもしれません。 (黒犬)
- 勘九郎さんにとって、雪之丞君はいったいどんな存在だったんでしょう?
かつての仲間で、ライバルで、そして敵になって・・・・・・・・・。
でも、きっと誰よりも大切なひとだったんでしょうね。 (猫姫)
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