ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(未練)


投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 4/17)




 ー終曲ー



 眼に映るは、罪という名の闇の姿。

『さあ、始めましょうよ・・・『続き』を!』

 ーー既視感。

 その構えも、その初動も、殺意を追って繰り出されてくる霊力を伴った拳撃と蹴撃の軌跡も、全てがあの時のままだ。
 過去に思いを馳せつつも、雪之丞は嵐のような連続攻撃をしのいだ。バックステップを使って、距離をとる。
『・・・いい動きね。見切りにもまた磨きがかかったわね』
 勘九郎は口元を染めた液体をぬぐう。それは一瞬の間の攻防。しかしその僅かな中でも、雪之丞は勘九郎の顎先に、やや変則的な回し蹴りを叩き込んでいた。
『・・・ふ・・・』
 掌に付着した赤くはない『液体』を見て、勘九郎は自嘲するかのような笑みを浮かべた。哀しく歪んだ笑み。
(神・・・いやこの身体からして悪魔よね。ただどちらにせよアイツはあたしの願いは叶えてくれた・・・けどね・・・)
 一瞬薄れかけた勘九郎の殺気が、収束し倍以上に強まるのを感じて、雪之丞は戦慄を覚えた。
『けどね・・・まぁだ!足りない!足りないのよぉ!!!』
 勘九郎が左手を挙げた。
 それを合図としたかのように、地面が鳴動する。
「な・・・!?これはーー!?」
 彼ら二人を囲むようにし、一気に盛り上がった地面の内側から、巨大な石板のようなものが姿を現した。

 火角結界。

 それも香港で出現したものよりも、明らかに大きい。
 あの大きさではカウントが0を迎え、爆発した時、このローマのみならず、イタリア全土にも深刻な打撃を与えかねない。
「勘九郎っ・・・てめぇ!」
 胸に広がる焦燥感を吐き棄てるかの如く、雪之丞は叫んだ。
「てめぇっ!てめぇ正気かよ!?こんな・・・」
『何言ってんの?』
 友が。笑う。
『狂ってるわよ・・・とうの昔にね!』
 笑う。しかし。
「そう、か」
 ーーー訂正する。
「そうかよ・・・」
 そう。訂正する。アレは友ではない。ただの化け物だ。
 そこまでを己が心に言い聞かせ、雪之丞は雄叫びを上げた。
「ウオオオオオ!!!!」
 ーーー閃光が、弾ける。
 彼の腕が、胴が、脚が・・・霊力の輝きに包まれてゆく。
『イイわ・・・そうこなきゃ!』
 それは歓喜か? はたまた愉悦か・・・勘九郎の、魔族の表情は喜色に染まった。
 そして、魔の眼前にーー出現するもう一つの魔。
 霊力を完全に物質化させ、しかも暴走を招くものでなく意志の力でコントロールを可能とした、魔装術の極み。
 極めし者が叫ぶ。
「あの時と同じままかよ・・・勘九郎っ!」
『なぁに?』
 それに雪之丞が答える事は無かった。
 信じ難い踏み込みと、そこから生まれる勢いを生かしたスピードで、自ら離した数メートルの距離を0にする。
「あばよ!」
 必殺の、会心の一撃。
 手合わせした勘九郎の力は、どうやらあの香港で別れた時と大差はない。しかしこちらは軽く数倍の力を手にしてるのだ。
 それはつまり勘九郎に自分の一撃は、避ける、それでしか凌ぐ事は出来ないという事。そしてここまで接近すれば、それすらも手遅れ。

 勝負ありだ。

 そう思った瞬間。

 雪之丞は突き出す拳を・・・止めていた。

「勘九郎・・・」

『・・・何よ?』

(勝負ありだ、降参しろ)

 その言葉が、雪之丞の口から洩れるより先に、どこからか飛来した霊力の盾が、脇腹を大きくえぐったーー・・・


『油断ね』

 声がする。

『先にトラップを仕掛けてたのよ・・・前のお返しにね』

 誰の声? 聞いた事はある。 ある筈なのに。

『これくらいのハンデはあってもいいわよね?罠があるのに気が付けなかった。あんたの・・・』

 痛い。 痛い? ・・・どこが?

 脇腹だ。 ・・・何かを思い出す。あの輝く青白いーー

『負けよ。これで未練もーー・・・』

 ーー虎。


 勘九郎は背を向けた。

 とどめを刺す気などない。

 最初からそのつもりだった。あたしは呼び戻された。代わりとしてアイツが欲したのは、友のーー命。

(逆らったからには、あたしは即消える。けどね・・・)

 未練はない。

 今度はぶつかりあえた。真正面から。最後に拳を止められたのは残念だが、それも罪の償いなのかもしれない。

 霊力の盾を使っての不意打ちも返した。これでやり残した事もない。自分はこれで満足。・・・満足だ。

 ゆっくりと、自己が崩れるのを感じた瞬間。


『狼牙!』


 叫び声が、こだました。




『うざってぇ、・・・あばよ』






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