ザ・グレート・展開予測ショー

BOY MEETS A GIRL  その十一 〜リメンバー・マイ・ラヴ〜


投稿者名:魚高
投稿日時:(02/ 4/17)

「ぬおおおおおおおおおおおぉっっっぉおお!!」

    ズドドドドドドド…… 

街中を人目も気にせず必死の形相で竜太は走り続けた。
今は竜太自身が不安定な状態にある為、竜気の消耗が激しくなる。
そのため、病院に到着できるギリギリの場所まで、もう超加速も使えないし、空も飛べない。
(あと十キロくらいだろうか? そろそろ、いいのか?)
誰も答えてくれない。
それはそうだ。口に出してはいないのだから。
(ああ、ランナーは孤独だ。)
流石に疲れたが、冗談が言えるくらいではまだまだ、だ。
いくらか動いてはいたものの、少し鍛錬を怠るとすぐこれだ。
わき道にそれると、竜太は再び眼を閉じ、精神を統一した。
周囲に風が吹き乱れ、髪の毛は逆立ち、足は宙に……浮いた。
それと同時に、断片的な記憶が頭の中で歌いだす。


竜太の長い人生経験から言えば、それは、それほど大したことではなかった。
だが、今でもその時のことは鮮明に記憶している。

匠は、朝起きると、初めて来た街を歩き回り、それなりに楽しんでいたが、それも、しばらくすると、飽きてきたので道を聞き、孤児院に向かった。
簡単だと言われていたのだが、道に迷い、着いたのは、お昼頃になってしまった。
やっと、庭で遊ぶ子供の姿を見れたときは心底安心した。
しかし、無邪気な子供の笑顔を見れたのも束の間だった。
一瞬、ざわめきが起こり、そして沈黙が流れた。
それはそうだ、誰とも知らぬ外国人が、ふてぶてしく両手をポケットに突っ込み、こちらを向いてニヤニヤ笑っているのだ。
子供たちの中の誰かが心配して、呼びつけたのだろう。建物の中から女性が歩み寄ってきた。
後ろで結んだ長い黒髪、黒目がちな大きな瞳、厳しく結ばれ。意志の強さを表す薄ピンク色の唇。
紛れもなく日本人だった。
黒い髪の女性はアジアに多いが、それだけではない。
匠には、何故か判るのだ。
子供たちからも信頼されているのだろう、その女性の堂々とした歩き方を見ると、ホッと安堵の息が漏れた。
女性はツカツカと匠の側まで来て……。
――これまた派手にスッ転んだ。
匠は訳も判らず少しの間、ポカンとしていたが、ポケットに突っ込んでいた手を何時の間にか空中にさらしていた。
「匠……田代 匠です」
ちょっと、もったいぶって自己紹介を済ませた匠は、さゆりに向かって右手を差し伸べた。
「ありがとう……。加賀野 さゆりです」
こちらも、ちょっと戸惑ったものの、素直に手を預けた。
「よろしく」
匠は、そのか細い手を優しく引き上げ、握手は救済の為のものから、挨拶の為のものへと変わった。
すぐに、救急箱を持った院長と呼びに言った子供が駆けつけたが、さゆりは、ジーパンを履いていた為ケガは無く、
胸の前で空いている左手を固く握り締め、「大丈夫」のポーズをとって見せると、子供たちは安心して建物の中に入っていった。
匠は、しばし、そのままの格好で子供を眺めていた。
「あの……」
「え? あ、ああ……。スミマセンでした」
さゆりがちょっと苦笑いしながら手のほうへ目を向けると、匠は恥ずかしそうに手を引っ込めた。
「オホン…。あのう、大変失礼ですが、あなたは誰?」
一人、取り残された感じの院長が極自然な質問を求めてきた。
院長は、5〜60歳くらいの、もう白髪交じりの髪をした女性で、その時は厳格な顔をしていたが、それくらいでは隠しきれない温かみを持っていた。
「え……。ああ、私の名前は田代 匠です。しばらくここで働かせて貰えませんか?」
あまりに唐突なことで戸惑う二人を観て、匠は慌てて言い繕った。
途中、さゆりが口を開きかけたが、匠は、構わず言葉を続けた。
「いえ、ちょっとした理由がありまして、こんなところ……いや!!
 ここは良い所です!! 私が言っているのはそうではなく……。
 とにかく、いろいろ問題が有りまして、ボランティアとして、ここで使って貰えません か?」
「ええ!! もちろん、こちらのさゆり先生もボランティアとして働いてくれているんですよ」
匠の思った通り、院長は安心し喜ぶと共に満面の笑みを隠すことなく見せ付けてきた。
「そうだったんですか……。それじゃあ、先輩、いろいろ教えてください」
匠は、さゆりに向かって深くお辞儀をしたのだが、さゆりは口をポカンと空け、驚きを隠せないような表情だった。
「……? どうしたんですか? 僕の顔に何か付いてます?」
匠が声をかけると、さゆりは、今度は口を真一文字に結び、ゴクっと唾を飲み込んだ。
しかし、その眼は片時も話さず匠を見つめていた。
「いやだなァ……。そんなに見つめられると照れますよ、アハハ……」
「さゆり先生。本当にどうかしましたか?」
さゆりは、自分の方へ歩み寄る院長を手で制すと、やっと口を開いた。
「院長先生は、日本語がわからない筈よ……」

さゆりの額から頬を伝わり、汗が流れ落ちた。

匠は、やっとさゆりの言葉の意味を理解した。
真剣な表情になったと思うと、そっと唇に手を当て、さゆりの言葉を制した。
さゆりは、始め訳がわからなかったが、匠の瞳がゆっくり動き院長のほうへ向いて止まったので、やっとその意味を理解した。
さゆりは、院長に(建物の)中に入るように頼み、質問の続きをした。

「あなたが今まで喋ってたのは、全て日本語……。最初は、私が日本人たからかと思った…。
でも、院長先生は違う……。日本語はわからない……。でも……。どうして……」
匠は、言葉を選んでいた為のか、しばらく口を開かなかった。


―――1999年 地名を考えるのも、めんどくせーような山奥にて―――

ズダダダダダダダダダダダ……ギュッ!!
ズド〜〜〜〜〜ン……!!

今の今まで砂煙を上げるほどの勢いで爆走してきた白い足が急停止し、半分、宙に浮くほどの勢いで引っ張って来た――
――もとい、手を引かれて来た横島も、シロと共に止まり、やっと、地面と再会することができた。
あまりに長い間、不自然な形で宙に浮いていた為、正しい立ちかたを忘れてしまったのか、横島は頭から着地した。――鈍い音ともに。
シロは、横島が仲良く大地と口付けしていることは気にせずに、急いで振り向いた。
「女狐は……来ていないようでござるな」
シロにとって嬉しいことなのだろう。語尾の方は声が上ずっていた。
「先生、やったでござる!! 二人きりでござるよ!!」
シロが再び前を向くと、顔面が血に染まった横島が丁度立ち上がろうとしているところだった。
「ジ ロ゛〜゛〜゛〜゛……」
それを見たシロは、ほんの一瞬、二週間前に美神たちと除霊したゾンビを連想したが、流石にすぐに頭から離れた。
「先生!? ――あの……!! と、とにかく、タマモは振り切ったようでござるよ……エヘヘ」
シロは、頭を掻きながらペロッと舌をだしてみせたが、すぐに横島の治療に取り掛かった。

「……だいたい、タマモのヤツはすぐに見えなくなった筈だったが……?」
「そうでござるか? しかし、霊気は確かに……」
「それじゃあ、何か? オマエはタマモが付いてこなければ、ゆっくり歩いたのか!?
確かに、これよりはマシだろうが――ともかく、帰りもこんな調子だったら、二度と散歩なんかしねェぞ!」
「すまないと思っているでござるよ……。でも、申しませんから―――」
「……それよりもう帰っていいんだろ?」
すっかり全快――という訳ではないが、横島も立ち上がり、ホコリを払った。
あまりに落胆するシロを見て、ちょっとかわいそうに思えてきた横島は、『毒を喰らわば皿まで』
たまには、こちらから誘ってみたのだ、控えめだったが結果は予想できた。
「先生、どうせ、こんな遠くまで来たんだから、もう少し……お願いでござるよ」
「――ったく……。もう少しだけだぞ、本当に」
シロは、すぐさま飛び上がり手を叩いて喜んだ。
こんなに喜ばれると、横島も苦笑する他ない。
――せめて、夕飯までに帰れますように――

――T市 上空――
雲の隙間から顔を覗かせる純白な病院は、竜太の心に何か痛々しいものを感じさせた。
「308号室……。3階……か?」
竜太は、ゆっくり高度を下げ、病室を覗き込んだ。

ある人は、緑色の呼吸器をしていて、所々に包帯が巻いてある。
―――――足を怪我したらしい、子供が静かに本を読んでいる。
―――――病人らしい老人が家族と激しく口論している。

多くの利用者がいた。
竜太は、一つ一つの病室をかたっぱしから見て回った。 
――が、五分ほど経っても、さゆりは見つけられなかった。
どうも、竜太には探しモノを見つける、という能力に欠けているようだ。――と言うか、常人以下である、確実に。
だが、その分、見つけたときの喜びは大きい。

普段ならば――

結局、最初に見た呼吸器の女性がさゆりだった。
竜太は、さんざん苦労しながら無理に作り笑いをして、窓を開けた。
「先生、久しぶり……」
ちょっぴり、返って来る筈のない返事を期待しつつ、竜太は病室に入り、音をたてないように窓を閉めた。
竜太は、その場に在った椅子に腰掛けると、さゆりの髪を撫でた。
「最初に見た時はわかんなかったよ……。丁度、あのときの俺と同い年か……」
今まで、頭の中に居たさゆりと現代のさゆりを照らし合わせてみると確かに面影がある。
竜太は、そっとさゆりの頭の上に手をかざした。
「俺、ケガも治せるようになったんだぜ。ちょっと時間は掛かるけど……」
竜太は手に神経を集中させると共に言葉を続けた。
「ヘヘ……。テルさんが、『俺』の墓に泣き付いてきたよ。『さゆりを助けてくれ』ってネ。
 あのバカ……。『死人』に見せつけるな、ってんだ」
『匠』は、ちょっと寂しげに笑い、呟いた。
「清水 さゆり……か」
竜太は、昔のことを思い出さずにいられなかった。
沈黙がそうさせるのか、運命なのか、それは誰にも――神にも――わからないことだった。

          つづく

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