ザ・グレート・展開予測ショー

misson:7thH`EVE`N「ファイルNo01:パーティー<邂逅>」


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(02/ 4/16)

時は折しも、人類総霊能者時代。悪霊は人類の脅威ではなくなった――。
この歪んだ時代を、怪奇現象恐怖症という重いハンデとともに生きる美神ひのめ。
これは、そんな彼女が世界の真実に迫る物語――などではない――。


「いっやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
悲鳴とともに目覚めた彼女を、部屋の角から先ほどの霊体が眺めていた。
「や、おはよ……うございます」
その挨拶にはまるで取り合わず、彼女は飛び退ってから周囲の意識する。
霊から目をはなすことができないのだ。
「こ…ここは……あの洋館!?冗談じゃないわ、すぐに出して!!」
「連れ出そうにも借物の身体、表に置いてきちゃいましたし」
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!あたし、ほんとにダメなんだってばー!!」
と、その場にうずくまって泣き出してしまう。
「んじゃ、体取ってくるまで一人で待ってて下さいね」
「わざとでしょ!?わざと言って楽しんでるんでしょ!!?独りなんて
信じらんないくらいヤだし、かといってお化けのあんたがそばにいるのもヤダー!」
「世話がかかりますねぇ」
「あんたでしょ!?自分殺したヤツぐらい自分で祟ってよ!!」
「できることならそーしますよ…しかし良くできたお化け屋敷じゃありませんか」
言って霊は、周囲をぐるりと見渡す。
「良く…できた?」
「カモフラージュですよ、これは。奥でなにやら火遊びでもしてるんでしょう
どうです?いまの時代、お化けより人間のほうがよっぽど物騒でしょう。
逃げて、警察に連絡した方が賢明ですよ。怖がってる場合じゃ…」
もっとも、内心ではこの霊は「むしろ安心しそうだな」と考えていた。
霊にしてみれば、彼女が通報してくれるならどちらでもかまわないが。
「そー思うんなら離れてよー!」
死霊は肩を落とした。自分がお化けだったことを失念していた自分の浅はかさに。
「えぇ、いいですとも。もう一人で平気なんですね」
「うん…無垢な乙女心をおもちゃにした、お化けには復讐できないけど
人間のほうはぶっ潰す!」
「なんですってぇぇぇぇぇぇ!?」
今度は死霊のほうが悲鳴をあげる番だった。
ひのめは両手のリストバンドの下に潜む、サブリミッターにあたる札を剥がす。
その間軽く息を吸い、言う。
「燃やせ」
ドガァァァァァァァッ
壁を爆砕し、ひのめは満足そうに微笑む。
ひのめは修行を放棄していたと言えど、実生活で能力を役立てるのは今や若者の
常識だった。今、リミッターを半解除にしたこともあわせて
日常に使用する火力のざっと3倍の力は出せる。
そうしたことができる、能力を操るキーポイントになる簡単なコツ。
そういった程度のことなら、ひのめはある念火使いに教わった。
彼女は教え方が温いと言うか、消極的だったのでひのめものんびり教わっていた。
意識してコツを押さえるとこまでは教えてもらえたのだが、
コツを無意識で押さえる段階に進まなかったので、自制を失うと暴発するのだ。
「なんてことを!室内で火を放つなんて…しかも相手はチームだ」
「へ?」
奥のほうからの複数の足音で、死霊の台詞を嫌でも信じさせられる。
ひのめはいきなり無言で踵を返す。
よほどの実力差か、レアな能力でもない限り能力者同士の喧嘩は人数が多い方が勝つ。
なぜなら幾らかの例外を除けば、大抵どんな能力でも生身の肉体を砕くには十分だからだ。
そうなると手数が少ない方が、敵の攻撃に対処しきれなくなる。
「だから警察に任せようと言ったんです!」
「じゃーそもそも素人のあたしじゃなくて、交番を頼ってよ!」
口々に文句を言う二人。
「無理ですよ!交番で霊視されたら、私が高位魔族だってバレちゃうでしょう」
「そんなのあんたの都合…って魔族?」
「もっとも幽霊になったら生前の種族なんてさほど意味もないと思うんですが
人間は同意してくれないので、ね!」
言い終えるよりいくぶん早く、魔霊は飛行能力を用いてひのめの先回りをして彼女のために扉を開けてやる。
「…ありがと。幽霊のくせに、親切ね…でも魔族の幽霊ってはじめて見たわ」
相変わらず距離は離しながらも、ひのめは少しこの幽霊が気になった。
「えぇ、魔族は格が低ければ消滅するし高ければ転生できますからね。
私もなんの因果でこんな目にあってるんだか思い出したいですよ」
そうこうするうちに、エントランスホールにつく。そこには男が二人佇んでいた。
どーする?どーするもこーするもない。もたついてたら背後の追っ手に追いつかれてしまう。
「道、開けて!」
バシュゥゥゥゥゥッ
ひのめが前方に炎を放つと、二人の男は着弾より幾らか早くかき消える。
これは瞬間移動!?
魔霊がその言葉を紡ぐより先に、すぐ背後に熱気が膨らんだ。
「な?これはいったい…」
振り返った魔霊の目の前で火傷で腫れ上がった顔を押さえて二人がもがいていた。
「奥に潜んでいた連中があたし達の進路を塞げるはずないでしょ?
瞬間移動のタレント持ちだと解れば、ヤツらが有利な、あたし達を攻撃しやすい
場所に移動されるのは確実!そう思って最初に前後二方向に炎を撃ったのよ」
言う間に広いホールを駆け抜け、炎で穿たれた扉の穴から外へ出る。
ちなみにタレントとはこの場合「能力の属性みたいなモノ」の意味である。
「このまま交番まで逃げ切れば、私達の勝ちですよ!」
「ちょい待ち!あの子はどこよ?あんたが最初に入ってた、表ってここでしょ?」
「いいえ?あれはあなたをからかう方便で、あの部屋の家具の中に入れときました」
瞬間、ひのめはよっぽど殴ってやろうかと思った。
近づけるならそうしていたことだろう。幽霊が殴れるかは疑問だが。
「こいつは人をモノみたいに…しゃーない!出戻りか」
「ちょ、ちょっと待って下さい。犬死にしたいんですか?」
「全然したくない」
「中に入るなら複数の敵に襲われます。加えて中の彼女は、私の憑依に
抵抗できないことから考えても能力がないか、著しく弱いかです。
戦力になりません。そして私は死んだ身で手も足もでません。貴女は独りです」
解り切ったことを、霊は一つ一つ説明してゆく。
「んーけど、ママが言うのよ。どんな汚いテ使ってもいいけど、
正しいことをしろって。姉さんが言うのよ。借りは必ず返せって」
ひのめはそこまで言って、無意味にVサインを見せる。
「結論から言うと見捨てるわけにもいかないし、尻尾巻いて逃げるのもダメなの」
しめくくると、扉の影に視線を移すひのめ。そこにいる。何者かが。そして――
・ぁん
「ぐ?」
突然ひのめに、不可視の塊がのしかかってきた。それを即座に炎で押し上げる。
――パ、パワーがヤバい!?質より量の集団だと思ってたのに!!
そう。さきほどの瞬間移動使い達は連係、作戦の悪さもさることながら、
力の絶対値がひのめと対戦するには全く足りていなかった。
しかしこの見えない攻撃は、ひのめの炎に拮抗している。
手応えからして相手は一人。それに他にいるなら、攻撃はわけて使った方が都合がいいはずだった。
「あ、あの…」
霊がおろおろと取り乱す。それを見たひのめが、一計を案じた。
「ちょっとお願い、あたしの背中のさァ…」
「背中?」
「あ!いい!やっぱなんでもないから!!」
霊が歩み…いや漂い寄ろうとするのを見てひのめは悲鳴に近い口調で言った。
幽霊なんかに直に触られたら、それこそ暴発は免れない。
その時だった。
ジ、ジヂヂヂ…パッパパパッ
イミテーションの洋館の、ありとあらゆる部屋に灯りがともった。
「…なんだ?」
影に潜んでいた男が迂闊にも室内に振り向き、ひのめの姿を一瞬視界の外に。
その隙にひのめは上からの攻撃を横に避けて、転げざまに男に炎を放つ。
男は屋敷の奥へと避けて、そのまま姿を見せなくなった。
「逃がすか!」
ひのめが男を追う。
彼程の使い手が相手ではちと苦しいが、こちらは各個撃破が最良の選択である。
わざわざ仲間と合流するのを見過ごしにはできない。
その前にひのめは自分の背中に手をまわしたが、体がかたくて巧くいかなかった。
時間もないしあっさり諦めて追跡にかかった。
走ること数分。
「ヤバいなぁ。どうも振り切られたっぽい」
「そりゃ駆けっこになったら、こちらは女性が二人。男の足にはかないません」
「あんた女だったの?」
意外に思って呟いた。
正体現してからこっち、幽霊はずっと合成音のような声と
青白いわだかまりのよーな姿を見せるのみで、年令や性別はまるで解らない。
「死因の、あの男の念動力の後遺症で霊体が歪んでるんです。
念の発生源を絶たないことには、私はどんどん私じゃなくなっていきます」
「なんだ。転生できない原因解ってたんじゃない」
「えぇ。言ったでしょう?思い出したいって。私は知ってたけど忘れてただけです」
「なんか、もうちょっと早く思い出せなかったことを恥じるとかないの?」
「一緒にいる人が、どのみち意見なんて聞いてくれませんからね」
幽霊はそう言ってそっぽを向く。と
「あ、あの子じゃない?」
ひのめが見つけたのは、走ってくる女の子。幽霊がとり憑いてた、彼女だ。
「ぅあああああああーーーーーーん!」
ガシィッ
「あふぅ!?きゅ、きゅる…し」
泣きじゃくる女の子に飛びつかれ、(と同時に首にしがみつかれ)ひのめが狼狽する。
「あああああああああーーーーーーーー!」
なおもギリギリという不穏な音とともに腕に力が入っていく女の子。
「た、すぅ、けぇ、あふ」
ひのめの腕が力なく垂れ下がった。
「ふみぇーーーん!」
さすがにこれ以上やるとひのめが蘇生しなくなるかも知れない。
「貴女、よくここまで逃げ延びてきましたね」
幽霊が女の子に声をかける。
「うぅ…あたし、ペンライトぐらいの灯が出せるの。
それをポンポンばら撒いて囮に…でも、そんだけしかできなくて…」
幽霊の予想どうり、百人に一人いるかいないかの脆弱な能力者だったようだ。
「やっぱり頼みの綱は、彼女だけみたい…ですね」
失神してるひのめを一瞥し、そういえば互いの名前も知らないな、と呟く幽霊。
まずは彼女を起こす必要があります、とも。


つづく
主人公が気を失うと中断できるというルールでもあるのかこの話は?

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa