ザ・グレート・展開予測ショー

終曲(操糸)


投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 4/14)




 ー終曲ー



 人の形をしたその『闇』は、微かに指先を動かした。

 その指先の動きに操られてるかのようにーー・・・

 闇の傍らに立つ一人の女性は、こくりと頷くと、次の瞬間には姿を消していた。

『不快な思いをさせてくれましたが・・・』

 暗闇のみを宿す瞳が映す光景。

 それは振り向きもせず進む、軍服姿の女性と犬科の少女達。
 それは漆黒と相対する呪術師の女性、教会の神父と弟子達。
 それは元の肉体から生成した、若き母の義体と向き合う娘。

 その光景に酔いしれるようにーー・・・

『むしろ感謝すべきなのかもしれませんね。こうした興味深い見せ物が、一度に愉しめるというのは・・・悪くない』

 闇は陶酔とした眼を向け、酷薄な笑みを浮かべた。

『さてまずは・・・』

 目を向けた光景。

『貴方の活躍から、愉しませてもらいましょう』


 そこには霊刀を手にした一人の青年が、魔族と向き合う姿が映し出されていたーー・・・


 時間にして、12、3分程前。


 5メートル程の高さから地面に落とされた青年は、受け身、それに霊力を先にぶつける事によって受ける衝撃を緩和した。
「い、痛て・・・あの野郎っ!」
 それでもあちこちにかすり傷を負うのは避けられない。
 大した痛みでもないので、青年はすぐさま立ち上がるが・・・月明かりに照らされたその表情は冴えなかった。
「・・・格好つけやがって・・・!」
 青年は、雪之丞はそう呟くと、自分が落とされた魔城の外壁の、その一部分を見上げた。
(塞がった、か・・・だが空間にでも作用してない限り、あの辺は脆く壊し易い筈だ・・・)
 両手を重ねる。
(あの野郎!頭に血昇らせたまま先に進んで、ドジ踏んじまったのは俺の方だってのに!)
 あの陰険男に、放り出される前に目にした女。
 ケタ違いの霊圧。恐らく一端に過ぎない筈の力で、その女は易々と城の壁を打ち抜いた。前に空港でも同じ光景を目にはしたが、その時とは状況が違う。何しろこの城は全体が強固な結界で覆われているのだ。

『まだ貴方にソレを使わせるわけにいかないんですよ』

 そう言って、あのGS協会の副会長は開いた穴から自分を押し出したのだ。

『ま、ここは『せ・ん・ぱ・い』の顔をたててください』

 重ねた両手に、淡い光が宿る。

(ーーふざけんな)

 散々好き勝手されて、今また恩など売られてはたまらない。

 あの二人の安否を気遣う自分の心には気づかないふりをし、雪之丞は既に塞がった穴の在った場所へと両の掌を向けた。

 瞬間。

『どこいくの?』

 声がかけられた。

 雪之丞は全身が驚愕に固まるのを感じた。

 今ここに在る筈が・・・ましてや聞こえる筈などない、決して忘れる事の出来ない声。

『相変わらずつれないのね・・・折角また逢えたってのに』

 頬を流れ落ちる冷たい汗。

『ねぇ・・・雪之丞っっ!!?』

 その声が終わるより先に、襲いかかってきた霊波光。

 その一撃を受け止め、またその一撃の重さも、己の記憶の内に在るアイツと重なる事から・・・彼は確信した。

「勘九郎か!?」

『そうよ』


 圧倒的に開きのある霊力差。

 しかしそれ以上に彼の心に焦りを呼ぶものがあった。

(手のこんだ真似を・・・!どうしても彼にあの霊刀、狼牙を使わせたいのか・・・!)

 新たに出現した気配。そして火角結界の波動までも感じる。

 彼はため息をついた。

「言葉は解りますよね?一応彼も大切な後輩なんですよ」

 眼前の女性は動じた風もない。しかし彼も構わず続ける。

『久しぶりに本気・・・出させてもらいます』



 言葉と共に、水流が彼の周りに渦を巻きはじめたーーー




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