ザ・グレート・展開予測ショー

BOY MEETS A GIRL  その九 


投稿者名:魚高
投稿日時:(02/ 4/13)

『―――次のニュースです。昨日、S県T市の猟難高校の女性教師が、在学中の男子生徒三人に暴行を受け重傷を負うという事件が――』
妙神山 三種の神技の一つ、白黒テレビからの情報である。
先ほどから食休みがてら見ているが、いい加減に暗いニュースの多さに嫌気がさしてきた。
「…ったく! ひでェ話っスね……」
と、食後に出された茶をすすりながら横島、
「そう言うアンタは大丈夫なの?」
と、タマモ。
これは学校で横島が悪さをしていないか、という意味の嫌味なのだが、横島が答える前に水を注されてしまった。
がらっ と勢い良く襖が開けられて外の景色と、明るい日差しと共に、何か真っ赤な『もの』が目に入ってきた。
それは、言うまでもなく竜神、小竜太なのだが、今まで白と黒の世界に見入っていたため(と言うのは少しオーバーかもしれない)、色彩のギャップで目が痛い。
例え、相手が師匠であろうが、なんであろうが、これだけにはいつまで経っても馴染めない。
俗に言う、『ポリゴン効果』というやつだろうか。
「わりぃ、チョッと野暮用が出来ちまって……お前ら、今日は自由にしてていいや」
と、引きつった笑顔を作ってみせる。
「自由に……って、今日は何もしなくていいってこと?」
「本当でござるか!? 先生!! 散歩に行くでござる」
「ダメっ!! 折角の休みなんだから、俺は寝る」
「じ、ジジくさい……」
「なんとでも言え。俺は一日平均四時間の睡眠なんかじゃやっていけないの」
「拙者はなんともないでござるが?」
「お前らは、適応力有り過ぎなんだよ、最初のほうは起こしに行くと「あと五分〜」を連発してたくせに――」
「まあ、ともかく、俺は行って来るから…」
こちらは、もう、いい加減見慣れた漫才に苦笑しながら出て行った。

ところで、既に横島達が妙神山入りをしてから、二週間が経っている。
その間、横島が学校を『欠席』しているのかというと、そうではない。
タマモの修行の一貫ということで、タマモが出向き、クラスメートと教師に幻術をかけ横島が来ているように思わせるのだ。
横島は、この処置が美神の出した案だと思い感激したが、それも違うらしい。
しかし、小竜太の案だとすると、かなり人間界(下界)のことについて詳しいということになるが……

小竜太は一度、深呼吸をし、頭の中でこれから行く場所の確認をする。
(S県、恐喝病院、308号室、患者名 清水 さゆり……良し)
その時のいつになく真面目な小竜太の表情には、鬼気迫るものが、――いや、殺気とも取れるものすらあった。
ちょうど門まで来た所で、小竜太は立ち止まった。

「しかし、学校を休むわけには行かないから、タマモ、行ってきてくんない?」
「チョーシこいてると、背中に火がつくわよ……」
「いや、冗談!! 冗談です! 今日は休みます、休ませてください、ハイ!!」
「え!? じゃあ、拙者と散歩に行ってくれるでござるか?」
「既に、腕を押さえつけられている状況じゃあ、俺に拒否権は無いだろ……。そのかわり、今日こそは早く帰るからな!!」
「わかっているでござるよ〜」

「全く、よくも飽きずに……」
「いや、微笑ましいことですな」
鬼門達がそう言うのでは、ほとんど、横島達の会話(とにかく、声がでかい)は筒抜けということだ。
「おい、そんなことはいいが、今日、俺は下界に行って来る。誰か来たら、そう言っておけ」
そう言うが早いか、小竜太の姿はもう鬼門の視界から消えていた。超加速である。
「「ハッ!」」
訳が分からず、返事だけはしたものの、鬼門たちはポカンとしていた。
「なあ、左の……」
「ああ……。いつもは、竜太さまは、あんな言い方しなかったよな」
「そうとも……。それに、『誰か』って誰だ?」
「さあ?」
疑問と、わずかな不満は残るものの、鬼門たちは、少しの間、話の種ができてチョッピリ嬉しかった。

『――ました。被害者の女性教師の名前ですが、清水 さゆりさん……とのことです。命に別状は――』
一方、テレビでは、申し訳無さそうなニュースキャスターが中央に、猟難高校が左端の方に映っていた。


「ぐおっ!! ――っつー……」
急に超加速が解けたため、竜太は受身を取る間も無くスッ転んだ。
幸い市外だったので、目撃者は居なかった。普通の人間、いや、霊能力者でも、もしその場に居合わせていたら、
その大半は、異様な男が音も無く表れたかのように見え、しかも、刀剣を所持しているのだから、少なくともパニックには陥ってしまうだろう。
「ちくしょう…。まだ、感覚が掴めてないのか?」
竜太は自問すると共に失望した。
――後悔は全てが終わった後すれば良い。だが、反省はすぐしなければならない。
竜太は、さゆりから教えられた言葉を思い出した。
自分の部下には、誰よりも頭の良い者が在る。
自分に策を授けてくれる者が居て、自分に全力を尽くしてくれる者も居る。
そのため、学ぶことも多い。
だが、不意に頭に思い浮かぶのは、たいてい、さゆりから習った言葉だ。
何故?
完全には理解できない。おそらく竜太にも、竜神王にも、竜太が最も信頼している者にも。
でも、竜太は、こう信じている。
「さゆりは、『先生』だからだ」

竜太は、昔、人間だった。

歴史上、極稀に、人間界の歴史に神族が登場する。
それが、たまたま下界に降りてきたところを目撃されたのだったり、人間が想像し、創造した神だったり―――
あるいは、神が人間に転生したものだったり。

竜太は三度、人間に転生した、
一度は中国で、残りの二度は、ここ日本で。
三度目の転生は極最近だった。
そのときに、竜太の『先生』だったのが、さゆりだった。
二人は共に、日本で生まれ、育ってきた。
しかし、出会ったのは、遠い異国の地であった。
もちろん、『竜太』として出会ったのではない。
『匠』として―――

――1991年 4月 カンボジア――
匠は、真っ白なワイシャツとネクタイを脱ぎ捨てた。
監視の目から離れ、一人、知り合いも誰も居ない土地に放り出されてまでマナーなど守る気は毛頭無い。
飛行機から降りて五分と経っていないが、もう額から汗が滲み出ている。
ちくしょう……。
匠は、そう呟いて汗を拭った。
「ええと……。『田代 匠』さんですね?」
いきなり、後ろからの声だったので、匠は思わず返事をしてしまったが、慌てて辺りを見回す。
もしかしたら、自分のことを呼んだのではないかもしれない。
だが辺りに日本人は居なかった、確実に。
(――ったく……。姓くらい教えとけ、ってんだよ) 

本当は違う、『田代 匠』ではない、『匠』だ。――姓は無い。
任務の度に別の姓に成っても、『匠』という名前だけは変えない。
それが、政府特務機関に入る唯一の条件だった。
だが、匠の上司がそんな職場に似合わず、いんちきなやつで―――
もちろん、頭はもの凄くいいのだが、匠にわざわざ細かい情報などを与えようとしない。
命がけの仕事なのだが、『細かいミスが命取りになる』ということは匠に限ってなかった。
つまり、それをソイツも承知している、ということだから、かえって匠は嬉しかった。
悪趣味だが、ソイツの悪戯は、匠への絶対的な信用の証明だった。

「あの……、『タシロ タクミ』でいいんですよね?」
「ええ、その通り! 貴女は漢字を?」
心配そうに尋ねるガイドに、できるだけ陽気に振舞う――マニュアル通りだ。
「いえ……。しかし、紹介書には、英語でフリガナが――」
「へえ……。ねえ、ところで、熱病の――」
あれこれ、会話をしながら、二人はジープに乗った。

それから、目的地までの二時間半、いったい何を喋ったのか、おぼろげにしか覚えていない。

到着と同時に彼女とは別れた。
もちろん、名前も聞いた筈だが、これも覚えていない。
その街の名前もよく覚えていない。

どうも、転生時の記憶はあやふやなのだ、もちろん、人間に転生しているときは、全くと言っていいほど神族の記憶は持ち合わせていない。
今、考えると、この時、何故、竜太が転生させられたのか。
それすらも覚えていない。

匠は、夜まで手厚い歓迎を受け、その後は長旅の疲れに任せて眠ってしまった。
続く

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