ザ・グレート・展開予測ショー

ブラッディー・トライアングル(8)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 4/ 9)


ビュオッ!!

 
 アンが引っ込めた頭の上を、エミのブーメランが通過する。余韻を残しながら、鋭い風切り音がアンの鼓膜を揺るがせた。

「くっ!」

 アンが大体のアタリをつけて銃を乱射するが、その全てが闇に飲み込まれるように虚しく空を切った。幾らかの後ガラスや家具の破壊音が聞こえたが、エミに当たらなければ全てハズレである。

「無駄よ、アンタには私の姿は見えないワケ。防音装置も点けといたから、気兼ねなく決着をつけられるワケ」

 嘲る様なエミの声に、アンは言葉でなく銃弾で応える。声の方向を狙ったつもりだが、手応えは殆どなかった。
 形勢は、明らかにアンが不利だった。タイガーが創り出す闇の世界に於いて、自分は全くエミ及びタイガーの姿を捕捉できない。だが、エミとタイガーにとっては、精神世界は彼女らのホームグラウンドに他ならないのである。
 言うなれば、アンだけが目隠し状態で闘っているようなものだ。今のところテクニックと勘で何とか凌いでいるが、長期戦になれば勝敗は明らかである。

「横島さん、何とかできないの!?」
「無茶言うなよ!!文殊はもうないし、身体の節々が痛いんだぞ!?」

 何処にいるのか分からないが、声だけは届くのでアンが呼びかける。またもいつの間にか回復した横島が応答するが、その返事は芳しいものではなかった。
 横島も又、アンと同じ土俵に立っていた。別にターゲットにされたわけでなく、単にアンの足元にいたのでとばっちりを受けただけだ。
 アンが舌打ちをした時、背後からひゅっ、という僅かに空気が震える音がした。アンが脊髄反射でその場を飛び退くと、ほんの一瞬遅れてエミのブーメランがさっきまでアンがいた空間を一閃した。
 
(これは、ちょっとまずいかもね・・・)

 エミに聞かれないように、心の中でだけ腰が引け気味になる。だが、ネガティブな思考はほんの一時だけだった。胸に掛けた十字架をぎゅっと握ると、アンは気を取り直し再び愛用の銃を構えた。

「あべしっ!!」

 アンのかわした飛び道具が、鈍い音と共に横島の叫び声を併発した。どうやら、「敵とみなす」というエミの言葉に偽りはなかったようである。


 間断なく繰り出されるエミの攻撃に、アンの方は防戦一方である。未だにクリーンヒットはもらっていないが、既に息は上がっている。このままではジリ貧は必至である。
 だが、追い詰められているのはアンだけではなかった。

「ぐ・・・え、エミさん、ワッシはもう・・・」

 タイガーの精神が限界に近づいているのだ。その都度エミが笛を鳴らして制御しているが、段々とその間隔が短くなってきている。そして、今もまたその時が訪れていた。
 エミが険しい表情で笛を取り出す。だが、いざ吹こうという瞬間、磨り減った精神が先にイッてしまった横島の、魂の叫びが鼓膜を貫通した。

「ちくしょー!!ピートがいなくなれば、エミさんは俺のモンなのにー!!!」

 どこをどう解釈すればそうなるのかさっぱりわからないが、当の横島は大真面目である。笛を吹くのも忘れて、盛大にコケるエミ。だが、更に間の悪いのは横島の歪んだ論法を、タイガーがこちらも大真面目に受け取ってしまったことである。

「じゃ、じゃあピートさんがいなければエミさんは・・・」
「いい加減にせんかいあんたたちゃー!!」


ドガッ!! バキャアッ!!


 似た者どうし、波長も合うのだろう。二人仲良くトリップしようとしていた横島とタイガーに、エミの突っ込みが炸裂した。
 だが、強烈な一撃を受けたタイガーの様子がおかしい。横島が流血して倒れ臥しているのに対し、こちらは両腕で眉間を押さえ蹲っているだけだ。

「グ、オオオオ・・・・」

 いつものノリでタイガーをしばき倒してしまったが、ついさっきまでタイガーは精神の岸壁に立っていたのである。そこに脳味噌が吹き飛ぶほどのスラッシュを喰らったのだから、どうなるかぐらい容易に想像がつく。

「!?し、しまった!!ついクセで・・・」

 エミがはっと我に返って笛を高らかに吹き鳴らすが、最早手遅れである。まあトドメを刺したのは自分なのだから、自業自得と言えなくもない。
 やがてタイガーの全身を精神波の躍動が迸り、猛々しい雄叫びと共に獣化が完了した。

「ガアアァァッッ!!!」

 タイガーの瞳に獣の色が宿り、主であるエミまでもが獣の創り出す闇の世界へといざなわれた。制御不能となったタイガーは、血走った目をエミとアンに向ける。そして・・・

「女・・・女・・・おんなああああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 口元から涎を垂らしつつ、タイガーが真っ先に眼に入ったアンへと突進する。姿こそ見えねど文字通り獣となったタイガーに、アンはこれまでと違う言い知れぬ悪寒を感じた。
 繊細かつ滑らかな動きで、タイガーがアンへと近づいて行く。タイガーはそのまま腕を伸ばすと、アンの発展途上の小ぶりな胸をむんずと掴んだ。
 アンは一瞬何をされたのかわからなかったが、胸を揉まれたのだと気付くと顔を真っ赤にして前方に銃を撃ちまくった。

「なっ・・・何すんのよ、変態ー!!」

 広範囲に向けて撃ったつもりだが、生憎と命中した様子はない。アンは、疲労とは別の意味で肩で息をしていたが、やがてある重大な事に気付き今度は顔を真っ青にした。

「あああああっ!!、じゅ、十字架を落とした!?」


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