ザ・グレート・展開予測ショー

ブラッディー・トライアングル(7)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 4/ 9)

 

バチィィッ!!!


 エミが霊波を放ったと同時に、魔法陣から稲光にも似た青白い光が打ち出された。その光は、まるで意思を持ったかのようにアンと横島に襲い掛かり、二人の身体を直撃した。

「きゃあああぁぁっ!!」
「ぎえええぇぇっ!!」

 全身に走り抜ける痺れにも似たダメージに、悲鳴を上げる二人。絹を裂いた様な声と、雑巾を引き千切った様な声の妙なコントラストが響き渡った。
 だが、反撃も出来ない程の威力ではない。エミの性格からして加減したなどとは相当考えにくいが、アンはその辺は深く考えずに銃をエミに向けようとした。
 しかし、銃口がエミの方を向くことはなかった。

「!?か、身体が・・・」

 動かないのだ。腕を持ち上げるどころか、指一本自分の意思で自由にすることができない。よく見ると先刻の蒼い光が、まるでフラフープの様にリング的軌道を以て身体の周りを回っていた。
 
「勝負あったようね、小娘。その魔法陣はダメージと一緒に相手を呪縛する効果を持つのよ。さて・・・どう料理してほしい?」

 舌なめずりをしながらゆっくりと近づいてくるエミに、さしものアンも焦りを隠せなかった。このままでは、正しくまな板の上の鯉の様にいいように料理されるだけだ。煮ても焼いても食えはしないが、下手をすれば活け造りにでもされかねない。

「くっ・・・横島さん、何とかして!!」

 首さえも動かせないので、声だけを横島に投げかけるアン。だが、アンの催促よりも先に横島は既に文殊を作っていた。
 
「ぐう・・・ええ。こ、こんなところで死んでたまるか・・・」

 横島は件の呪縛魔法陣により、コンスタントに身体を締め上げられていた。大蛇に巻かれている様な感覚と、みしみしと音を立てる全身に生命の危機を感じ取った横島は、今しがた作った文殊を即座に発動した。


バシュン!!


 「解」「除」の文殊により、光は消し飛び魔法陣は力を失った。それと共に身体の戒めも解かれたが、横島は先刻のダメージと文殊による霊力浪費が重なって、力尽き床にべしゃりと突っ伏した。
 横島の望外な活躍に驚いたのは、アンでなく寧ろエミの方だった。エミが般若の如き様相で、床に倒れたまま動かない横島を睨み付けた。

「横島ぁ!!邪魔するなら、オタクも敵とみなすわよ!!」

 とはいえ、魔法陣の攻撃対象が「ピートとタイガー以外の者全て」に設定されている時点で既に敵とみなされているのだから、わけのわからん魔法に絞め殺されるよりも心安らかに逝きたいと思うのはコレ人情であろう。
 自由になったアンは、エミが横島に怒号を飛ばした際の隙を見逃さなかった。瞬時に懐から十字架を取り出すと、それをピートに向け封印の呪文を暗唱した。


ゴオオオオォ!!!


「うわあああぁっ!?」

 暗唱が終わると、十字架から清廉にして激しい風が巻き起こった。と思う間もなく、ピートは突然の無重力感に思わず悲鳴を上げ、次の瞬間には白光りする十字架が目の前にあった。
 しゅおん、という淡い音を立てて、ピートの姿は吸収される様に十字架へと吸い込まれていった。

「横島さん、逃げるわよ!!」

 呆然とするエミとタイガーに見向きもせずに、アンが一目散に出口へと駆け出した。だが、同盟相手である横島からの返事はなかった。
 

グニュ

 
 足元に感じる柔らかい感触に、アンが不思議そうに足元を見た。アンの靴の下で、へばっていた横島が蛙の潰れた様な悲鳴を上げた。刹那の間目が点になるアンに、エミの瞳が怪しく光った。

「タイガー!!」
「合点!!」

 阿吽の呼吸でタイガーが獣化し、アンに向けて精神波を放った。一瞬、アンの全身を白い光が包み込み、アンの目に映る世界が暗転した。

「!?ここは・・・」

 アンの目に映る、タイガーの創り出した世界。それは、無尽蔵に広がる闇の世界だった。視覚など何の用も成さない漆黒の空間から、どこからとなくエミの声が轟いた。

「まさかそんなカードを隠し持っていたとはね。けど、最後に笑うのは私なワケ!!」
「舐めないでよ。あんたみたいなおばさんになんか負けないから!!」

 言葉の端々に不敵なものを漂わせるエミに、負けじとアンが言い返す。自身の言葉に鼓舞されるように、アンが勢いよく足を踏み鳴らした。そして、

「ぐえええぇぇっ!!!」

 アンの足元で半死半生の横島が、背骨も折れんばかりの重圧に本日何度目かの悲鳴を上げていた。合掌。

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