ザ・グレート・展開予測ショー

魂の機械 制御編 付 〜夢幻増殖〜


投稿者名:斑駒
投稿日時:(02/ 4/ 2)

 「横島忠夫、只今職場復帰しましたっ!」
3日ぶりの事務所のドアを勢いよく開け、大声で宣言する。
 「先生ッ! お帰りでござるッ!!」
 「あ、横島さん。退院おめでとうございます」
 「勝手に怪我して休んでんじゃないわよッ! ったく、一文にもならないことで……」
 「ってゆーか。もう治ったの?」
各人が各様の言葉で出迎えてくれる。
とてもじゃないが歓迎には聞こえないセリフもあるが、そんなセリフも久しぶりだとその人らしさが感じられて嬉しい。

 「……まあ、色々言いたいこともあるけど、期日が迫ってるから仕事を始めましょうか」
美神さんが少し拍子抜けした様子で切り出す。
 「あ、それもなんか久しぶりッスね。今回はどんな仕事なんスか?」
 「今回――じゃないわよッ。あんたでもカオスに資料請求した魔物のことくらい覚えてんでしょッ!?」
カオスの資料……。
そういえばそれに紛れ込んでいたMDの中身を調べてから仕事に取り掛かるという話だったような気がする……。
MDの中身は結局マリアだったから、その魔物とは関係なかったということになる。しかし……
 「どんな魔物でしたっけ?」
 「あのね〜〜」
美神さんは前髪を掻き揚げて「アタマ痛い」といった仕草をしてみせた。

 「え〜と。情報媒体を利用して増殖して、呪いを蔓延させる魔物……でしたよね?」
おキヌちゃんの助け舟が入り、美神さんも気を取り直して説明の続きを受け持つ。
 「そうよ。昔から手紙、カセット、ビデオ、FAX、ゲームなどあらゆる情報媒体が呪いの媒介をしてきた事は良く知られているわ。例えば不幸の手紙とかね」
 「あんなの、無視しちまえばいいんじゃないですか?」
美神さんは急に険しい顔になって首を横に振った。
 「大概はそれでいいけど、ごく稀に本当に霊的な力を発揮するものもあるのよ。例えば巷で噂の『呪いのMD』とかね」
 「えッ? あの噂って本当だったんですか?」
美神さんは一つ溜息をついて机の引き出しに手を入れる。
 「本当も何も、今CONY社からMDのイメージが悪くなって売上げが下がったって、依頼して来ているのがそれよ。ホントはあんたに聞かせたMDはカオスが同梱したサンプルだと思ったんだけど、あれの中身はマリアだったでしょ?」
 「な……、もし本物なら俺は死んでたって事ですかッ?」
 「違ったんだからいいじゃない。心配しなくても命ぐらい助けてあげたわよ。で、これがあんたがいない間に仕入れておいた正真正銘本物の『呪いのMD』ね」
美神さんは引き出しから取り出したMDを机上のイヤホンがついたMDプレイヤーにセットした。

 「資料によると、過去に不幸の手紙などが蔓延した例では、常に何らかの歯止めを受けて収束しているわ。その歯止めのことを仮にワクチンと呼ぶんだけど、肝心のそのワクチンがどういうものだか分からないの」
 「ワクチンってウイルスの予防注射とかに使うあれですか?」
おキヌちゃんが口を挟む。
 「若しくはコンピュータ・ウイルスの解除プログラムかしら。原因の増殖を媒体自身が抵抗力をつけることによって止めるという点ではどっちも一緒だけどね」
 「……で、どうするんです?」
俺には何を話しているのかサッパリ分からない。
 「やっぱり誰かが一度聞いてみるしかないと思うのよね〜。そうすれば具体的な対策も立つかも知れないし――」
誰かと言いつつ美神さんは俺の方を凝視している。
結局こうなるんかい。おっさんの資料、全然役に立っとらんやんけ。
 「いやや――死にとー無い〜〜!」
 「そう……ここで聞いておけば、あと1週間は生き延びられたのにね……」
美神さんはそう言って神通棍に手を伸ばす。
 「分かりましたッ! 横島忠夫、直ちに聞いてまいりますッ!」
俺は机上のMDプレイヤーをひったくって応接室を飛び出した。



隣の部屋に移り、意を決してMDを再生する。
 『たすけてっ』
第一声はこれ。流石にもうここで切ったりはしない。
 『ねぇ、助けてくんないかなぁ。あなたの協力が必要なのよねぇ』
 「はぁ……?」
なんというか、イメージと全然違う。とてもじゃないが呪い殺すといった雰囲気ではない。
 『あっ、や〜っとまともに聞いてくれる人がいたわ。私、サダコってゆーんだけどさぁ。ちょっと手伝って欲しいことがあるの』
 「……何だ?」
何故か会話が通じているが、妖怪MDを前にしてそんなことを気にしていても仕方ない。
 『私さあ。結婚する前に死んだのよねぇ。で、心残りは子供が残せなかったことなの。子孫を残すって素晴らしい事だと思わない?』
 「……さあ。俺はどっちかっつーと、そのためのプロセスの方が素晴らしいんじゃないかと……」
 『エッチッ!!』
その瞬間、頬に鈍い衝撃が走る。
 「えっ何でっ?」
 『当たり前でしょ? 変な事言って!』
 「いや、じゃなくて、これ……?」
頬が腫れているのが自分でも分かる。
なぜMDにビンタができるのか。流石にこれは気になる。
 『ああ、それね。実はそれが私の能力らしいの。思念を他のものに干渉させて影響を与えることができるらしいのよねぇ。どうもこれのおかげで死後、愛用のMDに人格が焼き憑いたらしいのよ。それが私』
しかし死んだのにこんなに明るいってのもどうかと思うが……。
 『でね、でね。思ったのよ。この能力を利用すれば子孫が残せるんじゃないかって。結婚して人間の子供を生むのはムリだけど、MDを聞いた人の思念を借りてコピーを作れば、私とは別人格のMDができるわけじゃない?』
サダコはこちらに口を挟む間も与えずしゃべり続ける。
 『ところがさぁ。誰もまともに私の話を聞いてくれないのよねぇ。いつも「たすけて」って言った瞬間切られちゃうのよぉ。コピーだけはちゃんと作られてるらしいんだけど、そのコ達の性格がまたものすごく悪いって話で困ってるのよねぇ。ああ、これが子を持つ親の気持ちってヤツかしら』
 「……聞くと1週間後に死ぬってヤツだろ?」
サダコが陶酔している間に、やっとこちらが話すことができた。
 『そ〜おなのよぉ。なんだか知らないけど「呪いのMD」とかいう話が広まっちゃててさぁ。聞いた人の思念が反映されるってことは、そういうつもりでコピーされちゃうと、そういうものができちゃうってことでしょ? それで私のコピーはみんなそーゆー性格になっちゃってるらしいの。親としてお説教の一つもしてあげたいところだけど、会う機会が無いのよねぇ』
 「お説教って、そんなんで直るんか?」
あまりにも平和な発想に呆れてしまう。自分のコピーが死人を出しかねない状況なのに。
 『私の思念を直に干渉させて更生してあげるの。尤も私をそのコ達にダビングしようとでもしない限りそんな機会は無いんだけどね……』
 「なんだ、それだったらおまえをコピーしてバラ撒けばいいんじゃねーか」
単純な話だ。『呪いのMD』を見つけた人がそれぞれ上書きしていけばいい。
 『コピーって言っても、私と全く同一人格は作れないわ。聞いた人の思念の影響を強く受けるようになってるんだから……』
 「そうか……」
これは自分一人では手に負えない。
やはり美神さんに相談しようと思い、応接室に戻る。



 「美神さーん。ちょっと聞いてくださいよー」
MDプレイヤーからイヤホンを抜きながら話し掛ける。
 「何してんのよッ、あんた私達まで殺す気ッ?」
途端に美神さんにドつかれる。
 「ちょっ、違うんですッ、これは死なないんですって、とにかく聞いてみてくださいよ!」
 「そのテは食わないわ。自分が助かるために他人の命を危険に曝そうなんてGSとして間違ってるわよッ?」
美神さんは頑として聞き入れない。
 「あのー。私は聞いてみてもいいかなーって」
 「おキヌちゃん?」
 「拙者、先生の言うことなら何でも聞くでござるよッ!」
 「嘘を言っているようには見えないわね」
 「シロッ! タマモッ?」
思わぬ肩入れが入り、美神さんも動かされる。
 「な、なによ、私も聞くわよ。聞けばいーんでしょッ? 早くスイッチ入れなさいよッ!」
結局その場にいるもの全員で聞くことになった。



 「……ふーん。つまりあなたは『お説教MD』を作って全ての『呪いのMD』を更生したいわけね」
 『そうなんですぅ』
サダコは美神さん達にもう一度事情を話した。
 「美神さん。それって……」
 「ええ、どうやらワクチンっていうのはこの場合はこれの事らしいわね」
おキヌちゃんと美神さんが再びよく分からない会話をする。
 「でも、そんなことなら簡単よ。要はお説教好きで、悪意が無くて、思念…というか霊波が強い人があなたをコピーすればいいんでしょッ?」
 『誰かそーゆー人を知ってるの?』
その質問に対し、美神さんは胸を張って言い切った。
 「任せなさい。あの人には貸しもあるし、大した事じゃないからきっと快く協力してくれるはずよ」



――数日後――
 「ねっ、知ってる?知ってるっ? お説教のMDの話!」
放課後、いつものように愛子が友達数人相手にネットで見つけた噂話を始めた。
 「それを上書きすると、この前話した『呪いのMD』の死の呪いが無効になるんだって」
 「出所はイマイチ曖昧なんだけど、女神様が作ってくれたとか、ある国際的な組織が秘密裏に流布したとか言われているわ」
 「それでね。解呪されたMDは、何故か会話による育成系ゲームになっちゃうの。巷では『サダコちゃん』って呼ばれてるわ」
 「実はね――、私も昨日やっと一つ手に入れたんだ。名前は『タダちゃん』ってつけたんだけどー。聞く?」
 「……そーなのッ。まるっきり3歳児って感じでしょ? も〜〜チョーカワイイッ」
 「あっ、横島くんも聞く? 今度はホンモノよ。呪いはもう無いけど」
愛子が様子を眺めていた俺に気付いて声をかけてくる。
 「いや、MDはもうコリゴリ……」
 「なによー、意気地なしー」「あなた愛子ちゃんの言う事が信じられないの?」「ブーブー」
聞き手達が非難する中、愛子だけは微妙な笑みを浮かべて肩をすくめてみせた。
 「なに笑ってんのよー。なんとか言ったらどう?」
しかしその他は追求の手を緩めない。
 「あ、ヤベッ! もうこんな時間か。バイトに遅れちまうっ!」
こんな時は逃げるが勝ちだ。
俺はなおも騒ぎ立てる女子どもを尻目に教室を飛び出して行った。

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