ザ・グレート・展開予測ショー

魂の機械 制御編 幕


投稿者名:斑駒
投稿日時:(02/ 4/ 2)

 「おお、マリア! 帰ったか。……どうじゃった?」
3月17日(日) 早朝。
鉄筋が落下した事故の原因の究明や事後処理のため工事のバイトは中止になり、自宅に帰っていたところだ。
マリアにはあの後、他人に見つからないよう、こっそりと小僧を病院まで運んでもらった。
一般人の小僧は事故のことで工事会社から多額の賠償金が得られたろうが、そうすると小僧を工事現場に通してしまった自分の責任も問われてしまう。
良ければクビ、悪くて賠償額の負担とかだ。ここは事実を隠匿するに越したことはない。
幸い周囲の連中はみな恐れをなして逃げ回っていたので、誰も小僧が巻き込まれたところを見ていた者はいない。
 「全身打撲との・診断。脳に・異常なし。現在・睡眠中」
問題は小僧の治療費だが、これはマリアが巻き込まれた事を主張して工事会社からむしり取った賠償金を充てる。
周囲の連中が、見てもいないクセに弁護をしてくれたので、マリアに外傷も無い割には比較的ラクに交渉を進めることができた。
全身打撲の治療費にしてはちと多めだが、残った分は家賃の滞納分にでも充てさせてもらおう。
 「まあそう気に病むでない。今回の事はおまえのせいというわけでもないからな……」
今にも自責の念に圧し潰されそうなマリアの顔を見て、気休めの言葉をかける。
 「イエス…ドクター…カオス…」
しかしマリアの表情は変わらないばかりか、ますます沈み込んでいくようにも見える。

 「あ――〜〜。実はな、おまえに何が起こったのかちょっと考えてみたのじゃが……」
話題を変えてマリアの気を逸らそうとしてみる。
 「イエス…? ドクター・カオス?」
マリアは取り敢えず顔を上げてこちらを向いた。
 「1週間前、おまえをメンテナンスするためにメモリを抜き取ったところまでは記憶にあるな?」
 「イエス・ドクター・カオス」
マリアは完全にこの話題に乗ってきた。やはり気になっていた事だったのだろう。
 「うむ。その後わしは作業中に大家のばあさんに呼び出されて家賃の催促やらなんやらをくどくどと言われたせいで自分がいま何をやっていたのかすっかり忘れてしまってな。部屋に戻った時には既に普通に動いて美神に届ける荷物をまとめておったから、まさかメモリを抜いたままだったとは思わなんだ」
 「……?? マリアが・マリア無しで・動いていた・ですか?」
マリアは頭を抱えて色々な可能性を検索しているようだが、気にせずに先を続ける。
 「そうじゃな。しかし特に普段と違うところは見受けられんかった。いつも通りメシを作り、バイトをして、わしの手伝いをしてくれておったぞ。ただ微妙に知識に曖昧なところがあったから、わしのボケが伝染ったのかと思ったわい。だっはっは!」
 「………??? ドクター・カオスの・襲撃や、マリアの・メモリの・破壊などの・行動は・なかったですか?」
マリアは自分のボディに悪霊のようなものが取り憑いたと考えたのだろう。
確かにその場合、周囲の人間に害を及ぼしたり、自分の地位を確立するためにオリジナルを消去しようとする事が多い。
 「それなんじゃよ。MDを梱包して美神のところに送りつけたのはきやつ自身じゃが、悪意があるならとっくにそこで破壊しておる。むしろ記憶が無いことにより間違えて入れたと考える方がしっくり来るのじゃよ」
そこで一度、言葉を切る。マリアはもう完全に話に聞き入っているようだ。


 「それにな、MDをボディのスロットに戻したのもきやつ自身なのじゃよ」
 「!!!!」
マリアは心底驚いたような顔をした。それを確認して話を続ける。
 「わしは事故が起こった瞬間も見ておったのだが、小僧が呆然としていたおまえ……いや、きやつを地面に引き倒して庇おうとして、肩に乗っていた鉄筋に押しつぶされたわけじゃ」
 「イエス……ドクター・カオス」
マリアがそのことを思い出してまた沈みそうになったので、焦って先を続ける。
 「で、わしもすぐに様子を見に近づいたのじゃが、その時ヘッド・ホンからはおまえが小僧を連呼する声が聞こえておった。一方、きやつの方は鉄筋の下敷きになった小僧を凝視したまま切なそうな顔で頭を抱えておってな『動力に異常動作』とか『意識を特異な常駐が占有』とか『全身に動作不良』とか言っておったな。……クックック」
わしが笑いをかみ殺すのを見て、マリアが不思議そうな顔をする。
 「マリアにも・類似の・感覚経験・あります」
 「わっはっはっは」
それを聞いてますます笑いが止まらなくなる。
マリアは怪訝な顔をするばかりだ。

 「いや、すまんすまん。それできやつが『原因究明……記憶検索不能』と言ったところでおまえが『“自分の”ボディが何かしたのか?』と小僧に問い掛けたわけじゃな。それできやつも目の前のMDに自分の記憶が入っていることに気付いて、エラーの原因究明のために自らMDをスロットに戻したわけじゃな」
 「………」
表情をムリヤリ真顔に戻して、ここまでをイッキに言う。
マリアは無言ままだ。
 「その後の事は覚えておろうが、きやつの制御を抑えて、おまえがメモリの方から意識的にボディを制御するようになったわけじゃな」
 「それは・何者だった・ですか?」
実はそれが一番の問題点だった。マリアのボディを制御して普段通りの行動を取っていた者………


 「ドッペルゲンガーを知っておるな? 自分とは無関係に活動しているもう一人の自分に出遭うというヤツじゃ。数日後に本人が死ぬとかなんとか言われておるが、今回のケースはあれに似ているかもしれんな」
とりあえず自分の立てた仮説を話すことにする。
 「あれは本人の意識の一部、若しくは無意識が勝手に写影を作り出して歩き回るものだと言われておる。影は普通、霊体で形成されるから霊力が強く、また精神的に不安定でその制御が利かない者ほど起き易い現象なのじゃ。深い悩みがあったり、恋をしていたりな」
 「しかし・マリアの・霊力は……」
 「わかっておる」
マリアの霊力が強くないことは造った自分がよく知っている。しかしそれを埋め合わせる理屈は用意できている。
 「弱い霊力でも蓄積されれば強い霊体を形成するものじゃ。おまえはボディの霊体は隅々まで自分で管理してメモリへの移動なども行っておるじゃろうが、服なんぞはどうじゃ? 意識してみたことはあるか?」
 「………ノー・一度も・ありません」
それを聞いて自分の仮説の正しさに確信を持つ。
 「おそらく今回はメモリに体中の霊体が集められて抜けていた間、服に蓄積されていた霊体がおまえの意識の一部や無意識を体現させてボディを制御しておったのじゃろう。まあツクモガミみたいなものと思ってしまっても良い。そう考えれば、きやつがおまえらしい行動をとったことなど、全てに説明がつく」
 「………」
マリアが何か悩むように沈黙したので、言葉を足す。、
 「まあメモリがなくともボディの制御が可能であることも、これからは衣服などにも意識を延長して霊体を制御するべきである事も判ったからな。大事にも至らなかったし、まあ良しとしようではないか」
本当は無意識までもマリアが自分の事などを慕って行動してくれた事が嬉しかったのだが、それは黙っておく。
 「………イエス! ドクター・カオス!!」
それでもマリアは嬉しそうに頷いた。

 「では・マリア・出掛けます!」
 「どこへじゃ?」
分かってはいたが、一応聞いてみる。
 「横島さんに・報告・します」
 「それと、世話になったお礼に看病じゃな」
 「イエス! ドクター・カオス………あっ!」
返事をしたマリアが何かを思い出したように口を開く。
 「もう一人にも・お礼・して来ます」
 「?……他にも誰かいたのか? ……まあ、行ってくるが良い」
 「いってきます!」
ひとこと言い放つと同時にマリアは窓から高速で飛び去っていった。
 「ヤレヤレ。緊急事態でもない限り、街中では飛ぶなと言ってあるのだがな………」
それともこれがマリアの緊急事態なのかもしれない。
また可笑しさが込み上げてきて、ひとり窓辺に立ってニヤついていた。



教えられた病室のドアをノックして暫く待つが、返事は無い。
 「横島くん? 開けるわよ?」
やはり返事が無いので、ドアを遠慮がちに開けて、中に入る。

横島くんは体中包帯グルグル巻きになってベッドの上で寝息をたてていた。
こんな状態でよく眠れるものだと呆れると同時に、痛くないのだろうかという好奇心から肩を強めに叩いてみる。
 「よ・こ・し・ま・くんっ!」
 「イッ――テエ! ……愛子っ!? 何でおまえがここに!?」
やはり痛かったらしい。でもそんなこと気にしない気にしない。
 「入院した同級生のお見舞いに来たのよ♪ これも青春だわっ!!」
 「人が怪我で苦しんでるっつーのに、何が青春だッ!」
確かに怪我は心配だったが、案外というかやはりというか元気そうだったので安心した。
 「まあ、そう言わないの。お見舞いにリンゴ持ってきたから、むいたげるっ」
 「え!? リンゴ!? おまえの見舞いってリンゴなの?」
 「そーよっ! リンゴの皮を丸ごと長々とむいたあと、小さく切って手が使えない怪我人に『あ〜ん』って食べさせてあげるのっ! う〜ん、まさに青春っ!!」
ホントは別に青春じゃなくてもいいんだけど……
 「それはもう、えーっちゅんじゃ!! それよりも、じゃあ窓辺の花は誰が持ってきてくれたんだ!?」
言われて、開け放たれた窓のカーテンが揺れる傍に、白い山百合が活けてあることに気付く。
 「さ、さあ? 私が来る前に誰かが来て、あなたが起きないから花だけ活けて帰ったんじゃない?」

実は『誰か』の目星は大体ついてたんだけど、ここでは黙っておこう♪

 「誰か? 俺の入院を知ってるのって、明日休む連絡を入れた美神さんの他に…そう言えば何でおまえが知ってるんだ?」
 「ま、まあ何でもいいじゃない。それよりホラ! リンゴむけたわよっ! ハイ『あ〜ん』してッ」

ホントはお礼を言いに来たマリアが教えてくれたんだけど、やはり黙っておこう♪

 「やめいって! 自分で食えるって!」
 「いいじゃない、口を開けるくらい。デートの約束すっぽかされたんだから、このくらいは協力してよねッ!」

窓にはためくカーテンには誰かが慌てて焦がして行った黒い跡が残ってたんだけど、これも黙っておこう♪

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