ザ・グレート・展開予測ショー

ババを引くのは誰だ!?


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 4/ 1)


「よっしゃ、あがりだ!」

 スペードのAを引いた横島が、嬉しそうに相好を崩す。シロの右手に、手札で唯一枚残ったジョーカーがぷるぷると震えていた。

「それにしても、アンタ本当に弱いわね」
「シロちゃんは、駆け引きとか苦手そうだしねー」

 タマモから呆れ気味の、おキヌからは同情気味の視線が遠慮なく注がれる。シロは、悪魔がアッカンベーをしているジョーカーのカードを、その場で引き裂いてやりたくなった。
 ここは、事務所内にある談話室である。仕事が早く終わったので、横島達はババ抜きをやることにした。面子は前述の四人である。
 で、戦績も同じく前述の通りである。現在のところシロがぶっちぎりで最下位街道を爆進中であった。散歩のみならず何事も全力疾走なのはいいコトだが、流石にこれはいただけない。

「お前な、せめてポーカーフェイス位はした方がいいぞ」

 横島が親切にもシロにアドバイスを送る。だが、それを聞いたシロはまことに不思議そうな顔をした。

「ぽーかーふぇいすとは、何でござるか?」

 横島は全身から力が抜けていくのを肌で感じ取っていた。どう説明していいのか頭を抱えていると、脇合いからおキヌが助け舟を出してくれた。

「ポーカーフェイスっていうのはね、無表情を装って自分の動向を相手に悟られないようにするの。シロちゃん、ジョーカーとそうでないカードを引いたときの表情が違いすぎるんだもの」

 実際、おキヌの見解は的を得ていた。シロの手札から一枚引くとき、ジョーカーに手を掛ければ松坂牛を目の前にした様に嬉々とした様子なのに、そうでなければ晩御飯抜きを告げられたように憔悴した様相を呈するのである。
 これでは、例え横島が相手でも勝てるわけはない。ましてや、クール&ビューティーを地で行くタマモに勝つなど、諸葛亮に知略勝負を挑む以上に無謀な話だった。

「ま、馬鹿犬にはせいぜいカルタがお似合いよ。犬も歩けば棒に当たる、ってね」

 負けが込んでいるシロに容赦なく追い討ちをかけるタマモ。本来なら速攻で切りかかっているところだが、シロは深呼吸を繰り返しなんとか自分を律し得た。
 「ババ抜きの借りはババ抜きで返せ」とは、一勝負毎に始まる シロ VS タマモ の仲裁にほとほと疲れた横島の言である。シロはその言葉を胸に、リベンジを決めるべくトランプを握り続けた。勝った際の決め台詞を頭に思い描きつつ。

が−−−

 総合成績、タマモの23勝0敗。何というか、某球団並みの清々しいまでの借金生活である。
 時刻と肉体疲労が迫っていたので、その日はそれでお開きになった。だが、当然シロがそれで収まる筈もなく、

「明日もう一度勝負でござる!!」

 と、勝手に再戦の約束を取り付けて、荒々しく事務所を出て行ってしまった。シロが一路向かう所は、唯一つであった。



「ポーカーフェイス?」
「はい、ぜひともそれをご指南賜りたいでござる」

 シロが向かった場所。それは、美智恵のいるオカルトGメンの本部だった。
 おキヌの言によると、ポーカーフェイスとは冷静な知略家が得意だと言う。だとすれば、美知恵は正に適任である。
 が、その言に沿えばどう考えてもシロは不適格である。美智恵もそう思ったらしく、事の成り行きを聞いた後難しい顔をした。
 
「あのねシロちゃん。そういうのは、一朝一夕には会得できないわ。けど、早い話表情が読めなければいいんでしょ?だったら、こんなのはどう?」

 そう言って、美知恵はシロにある方法を伝授した。シロはそれを聞くと美智恵の手をがっしりと握り、深く礼を言って帰途に着いた。

 で、次の日。

「タマモ!もう一度勝負でござる!!」

 階下から聞こえてくる足音とシロの声に、タマモは面倒くさげにベッドから体を起こした。何度やろうがヒマつぶしにもなりはしないが、あの馬鹿犬をからかうには丁度いい。

「ったく、懲りない犬ね。何度やろうが同じこ・・・と・・・?」
 
 読んでいたコミックスをぱたんと閉じ、後ろを振り返ったタマモはその場で硬直した。
 シロのスタイルは、いつも通りのTシャツとジーンズ。これはいい。
 右手にしっかりと用意されたプラスチックのトランプ。これもいい。
 だが・・・その顔にしっかりと装着された、メットマンのお面はかなりイタかった。タマモの手からコミックスがばさりと落ち、屋根裏部屋に奇妙な沈黙が訪れた。

「これで表情を読むことは不可能でござる!さあ、いざ尋常に勝負でござる!」
 
 勝ち誇ったように高らかと宣戦布告するシロ。タマモは頭痛がする頭を何とか堪えつつ、重い口を開いた。

「ま、いいわよ。その代わり、今度はちょっとした賭けにしない?勝った方が、負けた方に好きな昼御飯を奢って貰うの」
「承知!!」

 シロが自身たっぷりに同意する。どうやら、自分の勝ちを信じて疑わないようだ。タマモが溜息をつきながらトランプを開け、中からスペードのAとジョーカーだけを抜き取った。
 二人でババ抜きをやるのだから、カードが揃わない事は有り得ない。つまり、最終的に絵札(ここではスペードのA)を引くことがイコール勝利となる。

「じゃあ、勝負を受けたんだから私が先攻ね。ここでAを引けば私の勝ち、ジョーカーなら次はアンタが選ぶ番よ」

 シロは真剣な顔で頷いた・・・つもりだったが、如何せんメットマンのお面を被ったままなのでどういても異様な雰囲気が漂ってしまう。タマモは、なるべくシロの顔を見ないようにカードに手をかけた。

(よし、それだ!そのジョーカーをぐっと引き抜くでござる!さあ!一気に!)

 シロが食い入るように動向を窺っている。だが、タマモは何かを見て可笑しそうに笑うと、その隣のカード−−−即ち、スペードのAを勢いよく引き抜いた。

「私の勝ちね。じゃあ特上稲荷ときつねうどん、よろしくね」

 スペードのAをひらひらとシロにちらつかせつつ、タマモがあっけらかんと言い放った。シロはしばらくはその場に固まっていたが、やがて

「うわあああん!」

 と泣きながら部屋を駆け出て行った。メットマンのお面をつけたまま。
 一人部屋に残されたタマモは、馬鹿の相手は疲れるわと言わんばかりの顔で一人ごちた。

「まったく。ジョーカーを掴んだとき、あれだけ激しく尻尾振ってたんじゃね」


総合成績、タマモの24勝0敗。

シロが一矢報いるのは、まだまだ先のようである。

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