終曲(強欲)
投稿者名:AS
投稿日時:(02/ 4/ 1)
ー終曲ー
夜闇を斬り、その刃は青白く月の光を照り返す。
「・・・これが!」
目前に在る『壁』を、バターのように易々と両断すると、自然青年の口元から笑みがこぼれた。
続けざま刃をふるう。二つ、三つと・・・次々斬り裂かれた壁は淡い霊力光となり、やがてただ霧散する。
青年は地に降り立つ。重力による束縛など断ち切ったといわんばかりの軽やかさをもって、音もなく、舗装された路地へ舞い降りた青年はゆっくりと『霊刀』を仰ぎ見た。
「これが・・・狼牙の・・・!」
ーーー歪む。
『・・・いや!俺の力だ!』
ーーー酷薄なる笑み。力の虜として濁った瞳。
『ゆ・・・』
ーーーかつての自分は、こんな『眼』をしていたのか。
『雪之丞っっ!!!』
血を、想いを吐くかの如き叫び。
その叫びを聞きつけ、青年、もはや遠い過去のように思えるが、同じ門下で強さを磨きあった『友』はこちらへと振り向く。
『何だよ・・・』
抑揚のない、まるで路傍の石ころを見つめてるかのような。
『まだ生きてやがったのか?』
見つめてるかのような、冷めたーーー声、冷めたーーー瞳。
若干開いていた距離を滑るように移動し、詰めると。
『うざってぇ、・・・あばよ』
(雪之丞ーーーーーーーーーー!!!!)
青年は、刃を胸元へと振り下ろした。
声が聴こえる。
「てめぇだって・・・」
薄れる記憶を強く・・・揺さぶる。
「てめぇだって、本当はわかってたんだろうによ・・・!」
何処から聴こえてくるのだろう。解らない。
けど憶えている・・・あれは・・・そう、あれは・・・
『わかったろ・・・』
あれは・・・誰の声?
解らない。
もう少しで思い出せる。思い出せそうだったのに。
『俺の力をよ!』
あれは・・・誰の・・・
『やはり、乗り越えられなかったか・・・』
己が鍛え、永く見守り続けた霊刀。
そしてその霊刀を託した、若き魔装術の使い手。
『力の誘惑・・・月が人間の狂気を司ると同じに、その化身たる狼牙もまた人の精神を蝕む・・・』
息子、そして後継。共に歩み見守りし彼らを、またも自らの手で断たねばならぬのか・・・
しかし迷えはしない。こうなれば是非もない。
『かの精神感応にすら耐えた鋼の心も、その誘惑に耐え得るには及ばず・・・』
男は刀を抜いた。実際には自身こそが『刀』なのだが。
『伊達雪之丞』
もはやそこには、一片の迷いもためらいもない。
『異国の地で散る、本意ではなかろうが、しかし!』
月の光に背を向けーーー
『お主を・・・斬る・・・』
殺意を纏い、男は飛翔した。
今までの
コメント:
- 「久しぶりの続きです・・・こういう場合は思い切った開幕にしないとならないと思い、こんな再開にしてしまいましたが・・・不透明な部分はこれから書いていきたいです」
「読んで下さって、感想頂けたら嬉しいです」 (AS)
- おお、かなり久しぶりな(かな?)「終曲」シリーズの続編ですね(←ていうかその頃から読んでるのならコメント書きなさいよ>私)。おっしゃる通りまだ不透明なところがありますが緊張感あふれる描写はそのままですね。これからの展開が楽しみです。 (kitchensink)
- おかえりなさい!!うわーい久々だああああっ嬉しいっす♪
狼牙いいなあ嬉しいなあ― (hazuki)
- 連載再開、おめでとうございます。
この滑り出しには、正直ど肝を抜かれました。俺もまだまだですね。
今後の展開にも期待しています。 (黒犬)
- 『力』ですか……それが乗り越えるべきモノなのかどうかはわかりませんが……実質かなりまだ展開が不透明ですね。
雪之丞はどうなってしまうのでしょうか…… (ロックンロール)
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