ザ・グレート・展開予測ショー

ブラッディー・トライアングル(6)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 4/ 1)


 小笠原エミ除霊事務所のとある一室。調度品が整然と配置された応接室で、エミはソファに埋まり悠々と紅茶を飲んでいた。
「んー、やっぱりこのお茶はおいしいワケ。ピートも飲んだ方がいいわよ」
 そう言って、熱い目線を自分の隣の人物に向ける。肩がくっつき合う程の至近距離に、同じ様にピートがソファに腰を据えていた。
 といっても、リラックスした様子はまるでない。寧ろ、柔らかい筈のソファが固い石座布団に感じられる程だ。
「あの、エミさん。これ以上迷惑をおかけできないので、そろそろお暇したいんですけど・・・」
 差し出された紅茶に口もつけずに、ピートが目だけを向けて強張った声で言った。だが、エミはその言葉をスルーして増々擦り寄ってくる。ピートの脳内で危険信号が激しく明滅し始めた。
「ピートが迷惑なんじゃないわ。疫病神はあの小娘の方よ。でも、安心して。すぐにカタをつけてあげるから」
 カタをつけるという言葉と、それに付随する暗い笑顔にピートは著しく戦慄した。
だが、逃げることは出来なかった。つい三十分前の出来事が頭に甦り、ピートは己が軽挙に頭を掻き毟りたくなった。


〜三十分前〜


「ふう・・・危なかったワケ」
 エミは安堵の息をつくと、傍らで人生の終焉が訪れた様に憔悴しているピートを見た。
 アンが手榴弾を投げ込んでから、すぐに機動隊が突入してきた。エミは内心ヤバイと思ったが、取り乱している暇もない。エミは、変わり果てた教会の有様に茫然としているピートに急いで駆け寄った。
「バンパイアミストを!!早く!!」
 タクシーを急発車させるような口調でエミが叫ぶ。真っ白になっていた頭にいきなり響き渡った命令に、ピートはほぼ反射的にバンパイアミストを発動した。
 で、流されるままに事務所に着いたピート。ついさっきまでの悪夢の様な出来事が夢であることを真剣に願ったが、ボロボロになった衣服が冷然とそれを否定していた。
(あああ、一体どうしてこんなことに・・・)
 突き詰めて考えれば原因は自分にあるのだが、それは余りに理不尽というものであろう。出口の無い迷路に迷い込んだ様な気になってきたピートは、段々憂鬱になってきた。
「ピート、ちょっと腕出して」
「・・・はい」
 思考の泥沼に嵌っていたピートは、考えなしに右腕を差し出してしまった。そして、かちりという軽い音と共に、右手首に何かが嵌められた感触がした。
 それは、淡い紫色をしたブレスレットだった。何だろうと思った瞬間、ピートの顔から一斉に血の気が引いた。自分の霊力が全く感じられなくなってしまったのだ。
「え、エミさん!!これは・・・」
「そ、霊力封印のブレスレットよ」
 さらりと言ってのけるエミに、ピートは酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせた。はっきり言って滑稽である。
「何でそんなことを、って言いたげね。けど、オタクが逃げてもあの小娘は地の果てまで追っかけて来るわよ。だったら、ここで迎え撃った方がいいワケ」
 要するにピートを撒き餌にアンをおびき出し、血祭りにしようというわけである。ライバルの始末は早いに越したことはない、とは彼女なりの持論である。
 エミがピートの方を見てにっこりと笑った。無邪気なまでに可愛いその顔を見た時、ピートはその場で意識を失いそうになった・・・


〜約現在〜


 甘い吐息と熱い視線が内なる衝動を激しく刺激する。既に退路は断たれ、エミの肢体が眼前に肉迫する。
 精神の袋小路に陥っていたピートを、崖っぷちで支えていたのはタイガーだった。エミの後ろから血の涙を流さんばかりの憎悪の視線を送ってくるので、煽情的なムードから何とか殺伐とした現実に戻ってこれているのである。
 だが、それもそろそろ限界かと思われたその時。


バァン!!


 扉を蹴り開けて、アンと横島が室内になだれ込んで来た。といっても、正確には横島はアンに引き摺られていたが。
「! ピートさんから離れなさい、この年増ババア!!」
 ピートとくっついているエミを見て、アンが開口一番に啖呵を切る。横島の抗いが三割がたアップしたが、所詮は恋する乙女のパワーにかなう筈も無かった。
「相変わらず口だけは達者なワケ。けど、それもここまでなワケ」
 エミが額に青筋を浮かべつつも、余裕を崩さずに言う。アンが燃えるような目つきで銃口を向けた時、エミはぱちんと指を鳴らした。


キイイイィィン・・・


 エミがモーションをかけると、部屋中に霊力の共鳴音が木霊し始めた。それと同時に床全体に魔方陣が浮かび上がり、それは霊力を吸収し眩い光を帯び始めた。
「!!」
 アンは本能的にやばいと感じ、慌ててその場を飛び退こうとした。だが、それよりも早くエミが霊波を放ち魔方陣を発動した。
「お祈りを・・・始めた方がいいワケ!」
 

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