ザ・グレート・展開予測ショー

慟哭おまけ


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 3/29)

そうして、どれくらいたっただろうか?
聞こえるのは、微かな風の音と、押し殺したような―声。
美神は、ただ、空を見ていた。
空気は、ひんやりと冷たく心地良いとは言っても、時間がたてば、肌寒い。
手はかじかみ、腰まで伸びた髪も冷える。
それでも―美神は何も言わずただここに居た。
慰めるわけでもなく、声を掛けるわけでもなく、見つめるわけでもなく、ただなんでもないような振りをして、ここに居た。
―と。
唐突に、声がやんだ。
そして
「美神さん」
といつもの、声で横島。
くるりと振り返る。
その表情は、もう、かわりない。悲しみは見えない。
目のふちは赤いが、涙はこぼれていない。
「寒い」
と、美神。
「すいません」
苦笑しつつ横島。
「ったく―…ひとりさっぱりした顔して―で、覚悟できた?」
とは美神。
何に対して―とは聞かない。
横島はそれこそ、苦笑して知ってたんですか?と言う。
そして少しだけ眉を潜め
「だからですか?こんな仕事受けたの?」
と言う。
だがそれに還ってきた答えは
「それは、報酬が良かったから」
との有難いお言葉であった。

「明日でしょ?―ベスパとパビリオがくるの」

「はい。―俺に会いに」

横島はそう言って―なんとも言えない笑ってるとも、悲しんでるとも―怒ってるともいえない顔になる。
『ルシオラ』を失って半年がもう経つ。
日々の生活に埋もれてすこしづつすこしづつ、事件の痕跡が消えていく。
そして、居ないのが当たり前かのような日常。
―だが、認められないのだ。
いつものとおりに仕事をしていても、学校にいっても、家にいても、もしかしたらなんでもない様に自分の居る場所へ戻ってくるのじゃなかろうか?と思ってしまう
もしかしたら、どこかに―この世界のどこかで生きているのじゃなかろうか?と思う瞬間があるのだ。
それは、家に帰って眠りに付く前だったり、ぼんやりと授業に耳を傾けている時だったり
そんな時、ありえない―という声と、迎えに行かないと、と焦ったように言う声がせめぎ合う。
わかっている―。
だけど、もしかしたら―。
認めないといけない―と思う。
『死んだ』ということを。
だが、それは、ひどく重いことで―くるしくて―。
それは、事実であるということは分かっているのだ。
だが、それを認めた瞬間―なにか、自分の中のなにかが壊されるような恐怖感があって

そんな時に、ベスパとパビリオがくると言う。
自分に会いに。
多分―あったら彼女の話になるだろう。
「過去」の事として懐かしくそして、若干の苦さを含めた昔話をすることになる。
―それが横島にはたとえようもなく怖かった。
―まだ自分は、過去になどできてないのに―

なのに美神は、そんな自分に、もうひとりの自分を見せる
いや、もしかしたら『こうなったかもしれない自分』を。
そして、聞く。
そんなになったら自分はどうするか?と
―厳しくて、ひとの傷を塩ぬったあげくに抉るようなことをするくせに―優しい。
ちゃんと―自分の中で決着をつけなさいと言う。
言葉以外のところで―。
(こんなことされて優しいと思う俺も大概変態やなあ)
そうひとりごち横島は―笑った。

「どうにか逢えそうですね」
「そお?」
「そりゃもう、美神さんのおかげで―」

そういうと美神はべしっと横島の背中をたたく
それは、『よくやった』といってるように―横島には聞こえた。
「じゃ、還るわよ、おきぬちゃんが夜食作ってまってるんだから早く―」
「へーい」

おわり

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