ザ・グレート・展開予測ショー

ブラッディー・トライアングル(5)


投稿者名:tea
投稿日時:(02/ 3/28)


「とにかく、こうなった以上は仕方ないわ。ピートさんを取り戻すのに、あなたにも協力してもらうわよ」
 一通りの折檻を受けて虫の息の横島を見下ろし、アンはこともなげに言い放った。
 横島は「ふざけんなこのアマ」と言いたかったが、いかんせん体が動かない。第一、そんなことを言おうものならトドメを刺される事は目に見えている。
「・・・はい」
 臨終間近の老人の様な弱々しさで、横島は一言だけそう言った。アンは満足そうににっこり笑うと、懐に忍ばせておいたブツを取り出した。
 それは、白銀色をした小さな十字架だった。掌に収まる程度のサイズのそれは、日の光を受けて美しく輝いていた。
 横島が頭をさすりながら体を起こし、不思議そうにそれを見た。ちなみに、先刻のダメージは既に完治している。ゾンビ並みの耐久力である。
「それは?」
 横島が尋ねると、アンは出来の悪い相棒を見るような目で説明した。
「この十字架には、吸血鬼を封じ込める効果があるの。そして、封印の呪文も解除の呪文も私しか知らないわ」
 アンは、当初の計画ではこれを用いてピートを掻っ攫った後、ゆっくりと口説き落とすつもりだったと言う。
「けど、私もまだまだね。あんなケバいおばさんに邪魔されるなんて」
 憎々しげにアンが舌打ちする。NGワードを二つも吐いている事に全く気付いていない。もしこの場にエミがいたなら、第二ラウンドが勃発していたのは想像に難くなかった。
(ああ、もう帰りてぇ・・・でも、待てよ?)
 横島はこんな暴走特急娘とはさっさとオサラバしたいと願ったが、一方で無粋な考えが鎌首をもたげてもいた。
 ピートがアンとくっつく=美形が消える=世界の女は俺のもの
 何とも身勝手且つ恣意的な三段論法である。だが、横島は勝手に自己完結するとアンの両手をがしっと握り締めた。
「アンちゃん・・・協力するよ、君とピートの幸せの為に!!」
 それがピートにとって本当に幸せなのか甚だ疑問だが、この際彼の意思は無視することにする。
 アンも確かに可愛いが、さっきの今で心情的にブレーキが掛かってしまっていた。こんな歩く爆弾女はピートにくれてやる、てな心境である。
 瞳をキラキラ輝かせて力強く握手する横島を、アンは自分の誠意が通じたものと勝手に解釈した。どこまでも直線的な二人である。
「ありがとう横島さん!それじゃ、行きましょう!」
 流れるままにおう、と頷こうとした横島は根本的な問題にはたと思い当たった。
「行くったって、どこに?」
 教会は先刻の戦いで全壊させてしまったし、ピートの性格からして、他人を巻き込まないために山奥にでも逃げ込んでいる可能性も有り得る。
 だが、アンは余裕の表情で手に持った十字架を天にかざした。すると十字架から青白い光が伸び、北東の方角に向かって道を示した。横島が首をかしげていると、アンは得意そうに説明した。
「この十字架には、最も近くにいる吸血鬼を探し出す効果もあるの。今日本にいる吸血鬼はピートさん位のものでしょ?つまり、この光を辿っていけばいいのよ」
「・・・・・・」
 至極簡潔かつ肌寒い解説に、横島は言葉を失った。「吸血鬼追っかけるもんね」「封印しちゃうもんね」てなヘルシング教授の歪んだ情熱が伝わってきそうである。横島は、吸血鬼に生まれなくて本当によかったと思った。
「じゃ、行きましょ。けど、残念だわ。こんなことならゴリアテ用のアンテナ持ってくればよかった」
 心底残念そうに呟くアン。人間マリオネットと化したかつての忌わしい記憶が脳裏に甦り、横島は心底ホッとした。
(待っててね、ピートさん。絶対に逃がさないんだから)
(クックック、ピート。お前にはこのストーカー女がお似合いじゃ。俺のためにも、人生の墓場に送ってやるよ)
 純粋な思慕と曲がった謀略が交差する中、二人はゆっくりと歩き出した。



 光に導かれ二人が辿り着いた場所。そこは人里離れた山奥でなく、都会のど真ん中に屹立した建物の前だった。
 建物の正面には、GS OGASAWARA GHOST SWEEP OFFICE と黒ペンキで描かれている。太ゴチックの書体に裏打ちされるように、えもいえぬ圧迫感が漂っていた。
「こ・・・ここは・・・」
「どうやら、あのおばさんの根城みたいね。丁度いいわ、決着をつけてピートさんを奪い返すわよ」
 ちなみにアンはエミの名字を知っていたわけではない。だが、アンにはなぜか直ぐに分かった。因縁、というやつであろうか。
「いややー!!僕おウチ帰るー!!」
 逃げるウサギを追いかけるだけで、ナイトと対立するなどとは思っていなかった横島は半狂乱になった。そのまま脱兎の如く逃げ出そうとするも、残念ながら半歩遅かった。
「何言ってんのよ、協力してくれる約束でしょ?」
 アンは横島の後ろ襟首を捕まえると、ずるずると引きずりながらドアを開け、事務所内へと真正面から侵入していった。
「いやあああぁ!!!」
 横島の悲痛な叫びは、パタンと閉じられたドアにより無情にも掻き消された。因果応報。邪な考えを抱いた故の結果である。


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