ザ・グレート・展開予測ショー

慟哭後編(いち


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 3/27)

「『離したくない』だと」
瞬間その声音が変わった。
―すっとその顔から完全に表情が消える。
美神は、こりゃ、あの依頼人の息子無事じゃすまないかなあ?などと思ったが、あえて口出しせずに眺めている。
あーゆう世の中舐めた人間は(充分美神も舐めてるがそれとはまた種類が違う)美神の最も嫌う人間だ。
なんの努力もせずに、自分の思い通りに―しようとする馬鹿は。
しかも、それがまかりとおらないとなると、自分の命を盾にする。
―言う事を聞いてくれないと死ぬとそんな言葉を簡単に言う。
それで周りが、言う事を聞くということを知っており言うあたりがもう駄目である。
美神としては、そのまま死んでしまっても哀しくもなんとも無いが、(むしろすっきりする)一応依頼人の息子なので死ぬニ・三歩手前で止めればいいかと思っていた
(―除霊中の不幸な事故ってことで)
ちなみに、この時美神の唇がにたりと歪んでいたのは誰も、見ていない。
「じゃあ選べ」
と横島。
襟首を占める力は緩めずに言う。
「俺から、苦しめられながら死ぬか?それとも開放するか?」
「どっちも嫌だっ」
即答である。
しかもこの若者は自分に、こんな行動を取る横島に理不尽な怒りすら覚えていた。
ほんとうは、怒鳴り散らしたい。
だが、この細身のどこにこんな力があるのかと思わせるほどの強い力で締め上げられているために、これ以上なにか言ったら危害を加えられるのじゃなかろうか―?という恐怖のために、いえないのだ。
「―ひとつ教えてやろうか?」
そして、それを聞いての横島の言葉はいっそ優しいとすらいえる声であった。
顔には笑みを浮かべているが、それは顔のパーツがそういうふうに動いているだけで、本来この少年の持っている、見ているほうまで元気になれそうな明るさが―ない。
その瞳には今は激しい怒りの色が見える。
手はぶるぶると震え、殴ろうとするのを辛うじて堪えていることも見える。
「アンタみたいになんの覚悟も無い奴が、力も無い奴が、何を言っても無駄だ」
―と。
「俺は、今アンタにどっちを選ぶか機会を与えた。」
その声音は優しいものなのに、どこか冷たい。
「アンタは、それをどっちも嫌だと言った」
そして、その姿はどこか傷ついているかのように見える。
「俺は、このまま、アンタを殺して、開放する事もできるんだ」
―泣いてるかのようにも見える。
「嫌だっ!!」
どっちとも―
既に呼吸が困難になるほど襟首を締め上げられても―嫌だと言う。
そして叫ぶ
「なんでだっなんで駄目なんだっ僕はっ僕はただっ彼女と一緒にいたいんだっ!!」
搾り出すような―声で。
これは、本心だ。
たとえ、彼女の意思をないがしろにしていても、周囲に多大な迷惑をかけていても、若者自身の性格が―ひどく我侭といえるものだとしても。
それは自己満足といえるもかもしれない。
もしかしたら純粋な愛情というものではなく、単なる見苦しい執着かもしれない
おもちゃを欲しがる子供のような―。
だが、そこに嘘は無いのだ。
「関係ない」
だが、その叫びを横島はすっぱりと切る。
胸に確かに痛みを感じながら―それでもそっけなく言う。
横島は、こーゆう場面で使われるであろう『本当に彼女を愛しているなら―』などという奇麗事を言うつもりはまったくなかった。
本当に愛している故の行動―その意味は横島にはわからない事だ。
―愛しているつもりの行動―をとった自分には
横島は、それから、若者の制止も聞かずその魂を―開放する。
淡い光の珠がふわりと―部屋に浮かんだ。
若者はいかないでくれと何度も、何度も言う。
この世からいなくならなければならないそんざいなのに、無理に縛りつけられていた存在は、ゆっくりと美神のほうへ行き―
若い女性の声で
『お願いします』
といった
美神はひとつ頷き―冥府へと送る、言霊を紡ぐ。
凛とした響きの声が朗々と流れる。
若者は、何度も嘘だと言いながら首を振る。
―横島は、そっとその魂に近づき触れた。
真摯な思いを、載せて―

そしてその魂が去った後、若者は抜け殻のようになる。
美神は、ついでにニ・三発ぶん殴ろうかな?などと思っている。
横島はそんな若者の様子を見てちっとしたうちをした
―その思いがわかりすぎる自分に嫌気が差したのだろう。
そして―口をひらく、ひどく億劫そうに、嫌そうに
「アンタの近くに―いれるように、生まれ変わるってさ」
と。
ぴくりとその言葉に若者が反応する。
「な、なんだって…?」
その表情には、どこにも、さっきの面影はない
「だから―こんど生まれ変わってもアンタの近くに―いくんだと―だから、そんときはあんたが先に死ねばいいだろう」

つづく

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