ザ・グレート・展開予測ショー

慟哭中編


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 3/26)

結界が壊れてやっと―気付いたように若者が横島と美神を見る。
「誰だい?」
その声は柔らかく耳触りのよい音なのだろうが、なぜか、きしょく悪い。
少なくとも、二人にはそう思えた。
「まー言うまでも無いと思うけど、一応GSなのよねー何しにきたかわかる?」
それでも、一応好意的な笑顔を浮かべ美神は言う。
―額に青筋は浮かんでるわ、口調も、声もぶっきらぼう―これで、好意的なのだろうかものすごく疑問である。
「彼女を連れて行こうとしたんだよね」
くすりと笑い若者。
これこそがここに居る事が、彼女の幸せなのに―と言う。
「別に、ワタシは仕事を依頼されただけで、あんたと彼女の幸せなんてどうでもいいに決まってるでしょ?」
ずきずきと痛む頭痛をこらえ美神。
本来ならこの手の人間には一番最初にけりでも拳でもいってしまうのだがいちおー大金を運んでくれるお客様だ。
「駄目だよ」
お気に入りのおもちゃを奪い取られる子供を彷彿とさせる怒り方で、若者。
「あんたが駄目っていおーが、泣き叫ぼうが廃人になろーが、関係ないにきまってるでしょ?あとあんた程度の知識とこんなまがい物だらけのおもちゃどうにかしよ−とか思わないでね、時間の無駄だから」
きっぱしといい美神。
その言葉のはしばしに、邪魔しよーもんならアバラの一本もしくは二本は覚悟してもらうわよという意思が込められている。
一方、そのやりとりを見ている横島は、むかむかと胸に淀んでくるものを感じていた。
最初は、すこしばかりの同情―いや、同じ思いをした親しみらしきものまで感じていたのだ。
恋人の魂を閉じ込めるというのは、賛成できないが、そうまでしていたいという感情はわからないでもないのだ。
だが―実際見てみると何かが違う
この男のバカさ加減もだが、恋人は泣いているし、その執着の仕方が、愛しいひとに対するそれではなく、お気に入りの―『もの』に対するもののようで。
「―ぬよ」
はっとその声で横島は、意識が、またふたりに集中する。
そして聞こえた言葉は―
「連れていくなら、僕はここで死ぬよ」
であった。
かみそりを首筋にあててあくまで穏やかに言っている。
美神は勝手に死ねといいたいのをかろじて堪え、はあっとため息をついた。
その姿に愛しいものを奪われるための抗議というより、自分の思い通りにならないためにぐずっている子供を連想させるのは何故だろう?
―しぬ?
横島はその若者の言葉を聞いた瞬間抑え様もない怒りが全身を駆け巡った。
それは、それだけは、言ってはいけない言葉なのだ。
しかも、目の前に恋人を―不本意なまま死んだ恋人を前にして。
「ふざけんな」
と意識する前に声が出ていた。
それは触れれば切れそうなほど鋭い。
音もなくスニーカーで近づき横島はぐいっと若者の襟首をしめあげる。
「な!!」
いままでこんな扱いを受けた事すらないのだろう目を白黒させて珍獣かなにかを見るかのように横島を見る。
「な、なにをするんだっ苦しいじゃないかっ」
憤然という。
これから自殺を図ろうとしてた男の台詞にしてはひどく滑稽だ。
美神はおもしろげに笑う。
だが横島は、そんな若者の苦情には一切耳をかさず首筋にあった刃物を奪い取り
言った。
しぬんなら―もっと苦しんでからにしろと
その声は冷ややかでいつもの声とは、比べ物にならない。
「な、なにを」
「不公平だろーが、彼女は死にたくないのに、死んだんだ、あんたは傍にいれない―哀しいまま生きていくならいいんだけどな、なんでアンタは、死ぬんだしかも楽に」
「一番好きな奴が死にたくなくても死んだのに―なんであんたは、自分から、楽に死ぬんだ」
それは多分自分がかかえている感情。
「だから、どーしても今死ぬっていうんなら、少なくとも、骨と言う骨を全部折ってやる。すこしづつ一本一本―全部の痛みを味わってから死ね」
―本気だ。
若者はなんの根拠もなくそう思った。
目の前にいるバンダナの少年の瞳は冷たい―なにも見ていないように見えるが、なぜか泣き出しそうに見える。
「痛い―のは嫌だっ!!だけどっ僕は彼女を離したくないんだっ!!」
と、身勝手この上ない理屈で若者。
げっそりとした表情になる美神。
多分これは本心なのだろう―だからこそ、たちが悪いのだが。
つづく

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