ザ・グレート・展開予測ショー

BOY MEETS A GIRL  その九


投稿者名:魚高
投稿日時:(02/ 3/25)

「オハヨウございま〜す!」
反省なぞどこ吹く風の、元気いっぱいに二人は食卓に飛び込んできた。
竜太と横島である。さっきまでアッチの世界へ顔を出していた二人だ。
部屋に四人居る女性はいつもの数倍美しく感じられた。
これで、
「まあ! その傷、その服、そのお顔どうしたのですか? なんて酷い……」
なんて慰めの言葉でもかけられたら今日一日、図に乗って誰にも止められなくなるだろう。
しかし、その点を良くわかっているのか、わかっていないのか、返ってきた言葉は極めて淡白なものだった。
「あれから25分…。まあ早いほうでござるな」
「チョッと! なによそのホコリまみれの服! 目の前にお風呂があったんだから入ってくるか着替えるかどっちかしたらどうなの?」
「……」
「ポチも成長しないでちゅね」
横島は照れくさそうに頭を掻きながら空いている所に座り、竜太もそれに続く。
「おお! すげぇ美味そう! みんなで作ったのか? うん、マジで美味そう。
ハッ! そう言えばここなら飢えに苦しむことも無い!? 嗚呼、神様ありがとうございます」
横島は涙を流しながらおどけて神に祈るポーズをとった。
「うむ。 なんだか良く分からんが師匠に感謝の気持ちを忘れてはならんぞ。
そしてヨダレを拭け! それとできれば気持ちだけでなく誠意もみせてもらわんと――」
「なに言ってんのよ! あんたはヘバッててな〜んにも手伝わなかったじゃないの。せめて、ヨコシマみたいにお礼くらい――」
「うん。 ありがとね、タ・マ・モ・ちゃん(はぁと)」
「ぐっ……!! ま…まあ、良いわ」

――誰も気づかなかった、この時小竜紀の右目がケイレンしたことに――

「先生! そんなことよりこっちを見るでござる! 拙者が真心を込めて作った料理でござるよ」
「え!?」
そう聞くと横島の顔が見る見るうちに青ざめていき顔面からから汗が噴き出た。
「おお! 美味そうな精進料理じゃねえか。 なんだ横島、いらんのなら俺が―――」
「ダメでござる! 先生、拙者もいつもの肉料理のが良いと思ったんでござるが材料の都合上.でこうなってしまったでござる……。どうか食べて欲しいでござるよ」
シロも最初は小竜太の言葉に威勢良く反応したのだが、横島の嫌そうな顔に自信を無くし、だんだん横島に懇願するような口調になっていってしまった。
横島は美神の事務所でシロの作った肉料理を食べたことがある。
今もその時の油っこい料理を想像してしまったから、つい退いてしまったのだ。
――もちろん、横島は差し出された物はいつも文句も言わずに平らげていた。
しかし、食卓には横島の予想に良い意味で大きく反して、眼を見張るような精進料理が並べられていたのだった。そのため少し欲が出て肉も少しくらいは欲しいななんて考えてしまうが、横島にとってそれはもの凄いご馳走だった。
「いや! 構わない! 食う、俺は食うぞ! 例えこれが夢でも覚める前に食っておけばいいんだ! 食うぞ、俺は食うぞォ!! うおぉおオーっ!……ぐくァうオぇ!?」
横島は一気に料理をかき込み、そして吐いた。
「うお!! 吐くなバカっ! 食いモンを粗末にする奴はなぁ(以下略)」
「せ、先生!? どうしたでござるか? 拙者の『べりぃていすてぃ抹茶漬け(人参と茄子、そして抹茶のコンビネ―ションが絶妙!)』がどうかしたでござるか!?」
「――であるからに……。 さて、これはシロが横島に愛を込めて作ったものだから全部まかせて……。パピリオの作ったメシはどれかな〜っと」
延々と説教をしていた(誰も聞いていなかったが)竜太は立ち上がるとわざとらしく、
額に垂直に手をかざして見せた。辺りを見回すときや遠くを見るときのポーズだ。

――『立ち上がる』や『辺りを見回す』なんて言葉から、この部屋は広いんじゃないか?
と、誤解してしまうかもしれない。
しかし、なんてことはない。八畳ほどの部屋にギリギリ収まるほどの食卓があり。
その上においしそうな料理が待ち構えているのだ。
そのため、わざわざ立ち上がったりしなくても全ての料理は見えるし手も届きそうなものだが、気分を出す為か、極稀に有るハズレ料理から逃げ出すために『立ち上がる』『辺りを見回す』のような行動をとっているのだろう。
一応、疑問に思った人があったかもしれないので、念のため。

「え! 小竜紀ちゃまと違って竜太ちゃんは蜂蜜の良さが分かるのでちゅか?」
「ん? 俺たち竜神は人間とほぼ同じ味覚だからな、俺も好きだし、姫様も甘いものには目が無い筈だが…?」
(わたしと違って小竜紀ちゃまも年でちゅからね。体重でも気にしているんでちゅよ、きっと)
(姫様…俺の為にダイエット!? くぅ、泣かせるぜ! 分かりました姫様、貴女の努力に水は注しますまい、今でも十分えぇ体じゃが―――違う! せめてこの竜太が貴女の分まで蜂蜜をッ!)

――誰も気づかなかった、この時小竜紀の拳が小刻みに震えていたことに――

小声だったがお互いに耳を貸し合っていた為、もちろん声は双方の耳に届いていた。
他の人物にも聴こえてしまってもいたようだが……。
特にパピリオの場合、『甘いものが好き』と『小竜紀の分まで』というところが頭の中に響きつづけていた。
「本当に食べてくれるんでちゅか!? えへへ〜。パピリオ特性のハニーサラダに、蜂蜜汁、蜂蜜ご飯に、蜂蜜パフェ……」
パピリオも妙神山に来てから半年ほど経っている、その間にもちろん料理も披露したのだが、恐らくは……。
その為だろう、パピリオは竜太の言葉に感激し意気揚々と自分が今まで食べていた皿を竜太の目の前に並べてみせる。
その琥珀色をした液体には一つ一つに別の呼び方が付けられているらしいのだが、
人間と同じ感覚を持つ小竜太の眼には、入れ物が違う程度の違いしか見られなかった。
それらを覗き込むと少し歪んだ自分の顔が写り、甘い良い香が鼻をかすめた。
「……(泣)。食後にしとこう、こんなもの食ったら他の物が美味しく食べられないよ」
「そうでちゅね〜。楽しみは後に取って置くものでちゅね。流石に頭が良いでちゅねェ。 良し!! じゃあ竜太ちゃんの為にまだまだ新メニューを開発するから、最後に来るでちゅよ。」
「……(泣)。ああ、最期にな」
再び小竜太は立ち上がり、よろよろと横島の隣――元の席――に着いた。

「ポチったら、ご飯がこぼれてるでちゅよ」
「む! 先生の世話は拙者の役目でござる!」
「二人共食事中くらい黙ってらんないの? 大体アンタの役目って何!?」
「それはもちろん、拙者が先生の口に拙者の料理と愛を届けることで……(ポッ)」
シロは頬を赤らめながら、ポカンとだらしなく開いた横島の口に、セッセと自慢の料理を運んでいる。
たまに、「ハイ、ア〜ン」などと声が聞こえてくるが、横島自体からは何の雑音も発せられていない。かわいそうにシロの料理は味も確かめられることなく、噛まずに胃に直行しているのだろう。
「ついていけねぇな……。ところで姫様私にもメシを一杯――」
今まで一人沈黙を守ってきた小竜紀はまた黙々と飯を盛り始めた。
「姫様……。まだ、怒っているのですか?」
「……」
「姫様、そろそろ許して下さい、確かに悪ふざけが過ぎました。この通りです! 許して下さい!」
そう言いながら、小竜太は土下座した。
ややあって、小竜太の方へ茶碗が差し出された
「ありがとうございます。やはり、女性は笑っているのが一番ですよ」
そう言いながら、茶碗を受け取るついでに竜太の手が小竜紀の手に重なると、
竜太の顔面に、眼にも止まらぬ速さで肘打ちが炸裂した。

――誰も気づかなかった、小竜紀が知らず知らずのうちに微笑んでいたことに――

その時、物凄い音がしたのだが誰もかれも気にせず料理と、また料理人と格闘していた。
その光景は大変危なっかしいものでもあり、大変微笑ましいものでもあった。

次回もよろしく美味しんぼ

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