ザ・グレート・展開予測ショー

音色後編その六


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/ 3/24)

全ては―ここへ

「もう、ここにいちゃいけないの」
おきぬは、静かに言う。
自分で言ったその言葉に胸をえぐられるような痛みを感じながら、それでも、言う。
自分も幽霊として存在していたのだ。
その存在の希薄さ、危うさは誰よりもわかっている。
それは、肉体をもっている存在よりも、ひどく、危うい。
ほんの少しの事で悪霊になる。
生きている人間ならばちょっとした気の迷いとも言える事が、肉体を持たない存在にはただの気の迷いとはいえないのだ。
肉体と言う枷を外れたゆえの事だろうか?
更に付け加えるならば、この魂はひどく不安定だ。
しかも、普通生きているならば、『更正』できることも『思い直す』こともできる
―だが、それが魂だけの存在にはできない。
一度強い感情に囚われたら、もうそこから抜け出す事ができない。
そして強い感情は簡単に執念へと変化し、人を害する悪霊となるのだ。
このまま甘い事を言ってほっておく―
それが、どんな事態をまきおこすのかそれは、火を見るよりも明らかだ。
―そんなことはできない。
プロを自負する自分としても
ただ純粋に、目の前の存在が好きだと―なんとかしたいと思う自分としても。
だから、おきぬは札を取る。
「ごめんね」
その言葉は涙に濡れていた。

『なんで?泣くの?』
そっと触れることのできない指をおきぬの頬に這わせ子供。
「なんでだろ?」
その行為をうけとりおきぬ。笑顔を浮かべ様とするがそれは、どこかぎこちない。
一方その存在はさばさばした―と言っていいのだろうか?
一旦泣いたせいか、晴れやかな笑顔すら浮かべている。
そして言う
『ありがとう』と。
涙は止まらない。
だけどそれでも笑顔で、言う。
『僕の事、逝かせたくないって思ってくれて、僕の言葉聞いてくれて、受け止めてくれて―ありがとう―聞こえたんだ』
聞かせてくれたんだあの音色が。
『僕ね―小さいころから聞き分けが良かったんだ』
とつとつと紡がれる最期の言葉。
おきぬは唇をかみ締めその言葉を聞く。
『検査で、苦しい時も苦しいっていったら、おかあさんがかなしそうにしてたからそれから言わなくなった』
『みんながお外で遊んでるのを羨ましいなって思ってたけど、それ言ったらおとうさんが泣きそうになるから言わなかった』
『…ほんとうは、おとうさんと、おかあさんにもっと甘えたかったんだ』
『お手伝いとかもして、誉めてもらいたかったんだ』
『哀しそうな、顔なんてしてほしくなかったんだ』
『だから、僕が死んだ時―二人ともほんとうに哀しそうで、ぼくは大丈夫なのに、大丈夫って言えなくて―聞いてもらえなくて、そしたら僕はここに居たんだ』
『…なんでだろ?なのに、ここに出た時から、僕は、生き返れるって思ってた』
『そんな事ありえないのにわかってるのに、なんでだろう?でもわかってるのに生き返ると思ってたんだ』
おきぬはそこまで聞いた時点で両腕を伸ばし、その身体を掻き抱く
体中に薄く霊力の膜を纏い。
これならば、キツイが霊体に触れることができる。
『おねえちゃん?』
つづく

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